「自分が死んだら、娘がまとまった額の遺産を相続するが、相続税を回避するためにタンス預金したい。でも、税務署にばれないかどうかが心配……」
あなたはいま、こんなことを考えていませんか?
結論からお伝えすると、タンス預金はばれるため、すべきではありません。
なぜならタンス預金がばれた場合には非常に厳しい罰則が設けられており、最悪の場合は刑事罰となり懲役刑を科せられてしまうこともあるからです。
この記事では、タンス預金が税務署に知られてしまうのかどうかをお伝えするとともに、もしばれてしまった場合、税金面などでどのようなペナルティが課せられるのか、また、タンス預金のデメリットなどについて解説していきます。
タンス預金をするかどうか、あなたの判断を助けることができれば幸いです。
1.タンス預金はばれるためすべきではない
結論からお伝えすると、相続税回避のためのタンス預金はばれるため、すべきではありません。
タンス預金は本来、相続税の課税対象となるため申告しなくてはなりません。
相続税対策と思ってタンス預金の存在を隠しても、それは税務調査によってばれる可能性が高いので、やめておくに越したことはありません。
特に100万円以上の高額のタンス預金はばれる確率が高く、ばれてしまうと大きなペナルティを受けることになるため、絶対にすべきではありません。
少額のタンス預金であればばれないこともありますが、ばれる確率はゼロとは言い切れないため、少額であってもタンス預金をすることはおすすめできません。
なお、ばれた場合にどのような不利益が発生するのかは「4. タンス預金がばれた場合のペナルティ」で詳しく説明します。その前に、税務署がどのようにタンス預金があることを突き止めるかについて見ておきましょう。
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2.タンス預金が税務調査によってばれる理由
税務調査によってタンス預金がばれる理由は以下のとおりです。
2-1.被相続人だけでなく相続人の口座も調査できるから
例えば、被相続人の遺品整理をしていて、押入れの奥から500万円の現金が見つかり、相続人がその現金を自分名義の口座に入金したとします。
税務署は相続税の税務調査の時に相続人の預金口座も金融機関に照会をかけて自由に調べることができるため、500万円もの入金があれば、それはばれてしまいます。
税務署はさらに、それがどのように得られたものなのか突き止めるためにヒアリングや反面調査、実地調査を行うので、脱税とみなされる確率は高いでしょう。
相続税の脱税を見抜くための税務署の調査方法
税務署による調査は実際にどのように行なわれるのかを確認しておきましょう。
① ヒアリング
相続税の税務調査時に、相続人やその他利害関係者に以下のような内容のヒアリングを行います。
【被相続人についての質問】
- 被相続人が財産を築き上げた経緯
- 被相続人の月々の生活費
- 被相続人の生前の趣味
- 被相続人の過去の贈与
【配偶者への質問】
- 証券口座を所有しているか
- 相続開始直前に銀行口座から下ろした現金の使用目的
- 相続税を納税した金融機関
【子供についての質問】
- 収入はいくらか
- どのような財産を受け取ったのか
- 出身大学はどこか
このようにさまざまな質問をすることで、タンス預金含め脱税していないかを詳細に調べていきます。税務調査が入ったら、質問には正直に答え、ウソはつかないようにしましょう。
② 反面調査
対象納税者に対する本調査だけでは取引金額などの実態が把握しきれないような場合に、銀行や生命保険会社などに対して被相続人名義の口座の有無や金銭の流れを確認したり、また場合によっては被相続人と生前親しくしていた個人に対して直接調査を行うこともあります。税務署は強制的に調査できる強い権限を持っているので、金融機関などは情報の開示を拒否することはできません。
③ 実地調査
相続税の税務調査は通常、被相続人が生前最後に住んでいた自宅で行われます。タンスや押入れ、床下、仏壇、ベッド下、金庫等に計上漏れの財産はないか、また部屋に飾られている絵画などもちゃんと申告してあるかといったことを確認します。
相続税の実地調査の対象となった場合は、税務署から日程調整の連絡があります。調査には必ずしも相続人全員が立ち会う必要はありませんが、できるかぎり立ち会ったほうがよいでしょう。
2-2.口座の過去の出金記録をさかのぼって調査できるから
そのため、仮に何十年も前に被相続人が引き出した記録がある場合でも、その使用目的を証明することができなければ、隠し財産という疑いをかけられることになります。
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3.税務調査のタイミングは申告から1〜2年後
通常、税務調査は相続税の申告書を提出してから1〜2年後に行われます。
税務調査が入る可能性は全体の1割弱程度ですが、納税額が大きい場合は調査が入る可能性が高くなると考えておきましょう。
税務調査に入られると8割以上の方が何かしら申告漏れを指摘され、追加で納税することになります。
申告から2年を過ぎると、税務調査が入る可能性はかなり低くなります。そして、申告期限から5年が経つと、不正行為があった場合を除き、時効によって徴収権が消滅するので、税務調査が入る可能性はなくなります。
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4.タンス預金がばれた場合のペナルティ
タンス預金(相続税の脱税)がばれた場合、追徴課税が発生したり、最悪の場合は刑事罰となり懲役刑を科せられてしまうこともあります。
4-1.追徴課税の発生
タンス預金がばれた場合は、追徴課税が発生する場合があります。追徴課税には加算税と延滞税があります。それぞれの意味合いは次のとおりです。
【 加算税 】
適切に申告しなかった人に対して加算される罰則的な意味合いの税金
【 延滞税 】
適切に納付しなかった人に対する利息的な意味合いの税金
期限内に申告しなかった場合は、納付も適切に行っていないはずなので、加算税と延滞税の両方が課せられることになります。また、申告は適切に行ったものの期限内に納付しなかった場合は延滞税が課せられます。
① 罰則的な意味合いの「加算税」
加算税には次の3種類があります。
【 無申告加算税 】
無申告加算税は、申告を行うべきケースであるにもかかわらず、申告期限(相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内)までに申告を行わなかった場合に課せられる加算税です。
税率は、本来納付すべきだった税額に対して、50万円までは15%、50万円を超える部分は20%です。
(注)調査によると更正等があることを知ってなされた修正申告に係る加算税割合です。
~ 無申告加算税の例 ~
本来納付すべき税額が100万円だった場合の無申告加算税は次の式で計算できます。
50万円×15%+(100万円-50万円)×20%=17万5千円
【 過少申告加算税 】
過少申告加算税は、申告はしたが申告した税額が過少であった場合に課せられる加算税です。
税率は、新たに納めることになった税額に対して、50万円までは10%、50万円を超える部分は15%です。
(注)調査によると更正等があることを知ってなされた修正申告に係る加算税割合です。
【 重加算税 】
重加算税は、相続財産を隠蔽または仮装し、申告を行わなかった場合や、仮装に基づいて過少申告を行った場合に課せられる加算税です。単なる申告漏れではなく、贈与を受けたことを意図的に隠して脱税しようとしたような場合が対象となります。税率は、無申告の場合が40%で、過少申告の場合が35%と大変重くなっています。
~重加算税の例~
無申告の相続財産が4億円。それに関して追加で発生する相続税が2億円の場合
→追加で発生する相続税の2億円に40%を乗じた8,000万円が重加算税の金額となる。
② 利息的な意味合いの「延滞税」
延滞税は納付期限の翌日から納付の日まで課せられます。税率は、納付期限から2か月以内とそれ以降とで異なり、また、市中の金利とも連動して変動します。
市中の金利が高い場合は特例基準割合((注)前年の12月15日までに財務大臣が告示する割合に、年1%の割合を加算した割合をいいます。)も高く、市中の金利が低い場合は特例基準割合も低くなります。上限値でいうと、納付期限から2か月以内が7.3%、それ以降が14.6%です。
しかし、2019年現在、市中の金利が低いため延滞税の税率も上限値よりも低く設定されており、平成30(2018)年1月1日から令和元(2019)年12月31日までの期間は、納付期限から2か月以内が年2.6%、それ以降が年8.9%となっています。
4-2.懲役刑の有罪判決による懲役や罰金
相続税を脱税すると、加算税や延滞税が課せられるだけでなく、裁判で有罪となった場合には、懲役や罰金が科せられる可能性があります。
申告義務がありながら申告していなかった場合は、脱税犯、ほ脱犯、無申告犯としての罰則があります。
① 脱税犯
偽りその他不正の行為によって相続税を免れた者は、10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金に処せられ、または併科されます。免れた相続税額が1,000万円を超えるときは、情状により、1,000万円を超えた金額で、その免れた相続税額に相当する金額以下の罰金とされる場合があります。
② 故意の申告書不提出によるほ脱犯
期限内申告書を提出期限までに提出しないことにより相続税を免れた者は、5年以下の懲役または500万円以下の罰金に処せられます。免れた相続税額が500万円を超えるときは、情状により、500万円を超えた金額で、その免れた相続税額に相当する金額以下の罰金とされる場合があります。
③ 無申告犯
正当な事由がなくて期限内申告書をその提出期限までに提出しなかった者は、1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられます。 ただし、情状によっては、その刑が免除されます。
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5. タンス預金がばれて約3億2千万円の追徴課税が発生した事例
タンス預金が税務署にばれ、多額の追徴課税が生じた例を紹介します。
タンス預金は、ばれれば追徴課税が生じるだけでなく社会的な評判も落とすことになり、大きな損害を被ります。この事例ほど大きな額でなくても、きちんと税務署に申告し期限内に税金を納付することが、結局は自分の財産を守ることにつながります。
△△業を営んでいた夫から相続した遺産約4億8千万円を申告せず、相続税約2億3千万円を脱税したとして、大阪国税局が相続税法違反罪で、大阪市□□区の会社役員、A相続人(73)を大阪地検に告発していたことが17日、わかった。重加算税を含む追徴税額は約3億2千万円で、すでに納付したとみられる。
A相続人は現金3億円以上を自宅のたんすや押し入れに隠しており、「私のためにせっかく残してくれたものを少しくらいよけてもいいと思った」と話しているという。
関係者によると、A相続人は平成24年2月に夫=当時(74)=が死亡した際、子供2人とともに不動産など約15億円の遺産を相続したが、現金や預貯金約4億8千万円を除外し、脱税したとしている。
(「産経WEST」2015年3月18日)
6.その他のタンス預金のデメリット4点
追徴課税や刑事罰以外のタンス預金のリスクやデメリットをご紹介します。
6-1.災害等で消失するリスクがある
タンス預金の場合、よほど堅牢な耐火金庫にでも保管しておかないかぎり、現金が火災で焼失してしまう可能性があります。それ以外にも、津波や洪水などの自然災害で消失するリスクもあります。火災保険や地震保険では、現金は保障の対象外なため、燃えてしまったり洪水に流されてしまったりしたら、それでおしまいです。
一方、銀行に預けておけば、仮に災害の被害にあったとしても、あなたの預金は守られます。また、通帳が燃えたとしても再発行してもらうことが可能です。
6-2.盗難にあうリスクがある
家に現金を置いておくと、空き巣や強盗などによる盗難というリスクもあります。その上、犯人に遭遇して襲われてケガなどしたら大変です。
多額の現金は危険も呼び寄せてしまいますから、セキュリティ面で安心できる銀行に預けたほうが得策です。
6-3.紛失するリスクがある
日頃からタンス預金の置き場所を確認している場合は別として、一度お金をしまいこんでしまうと、預金した本人ですらその隠し場所を忘れてしまったり、最悪の場合、自分でも気づかないうちにお金を捨ててしまったりすることがあります。
また、タンス預金を家族にも隠している場合、本人が死亡した時に、遺族がそれを知らずに隠し場所ごと処分してしまうというリスクもありますので、遺言書に残すなりして備えるようにしましょう。
6-4.遺産相続トラブルの火種になる
タンス預金はその存在を証明する証拠がないことが多いため、故人の近親者などが無断で持ち去ったとしても、「元々そんなものはなかった」と主張されてしまえば、それで他の相続人は引き下がらざるを得ません。
そのため、相続開始後は故人の身の回りの現金等が持ち去られないように十分注意する必要があります。もし故人が残したタンス預金が何者かによって持ち去られた場合、遺族はそのありかをめぐって疑心暗鬼になり、遺産分割協議が紛糾することがあります。
また、遺産相続手続きが終わった後にタンス預金が発見されるケースもあります。遺産分割協議と相続税の申告も終わったころ、まだ手つかずだった遺品整理をしていたら、押し入れの奥から大量の現金の束が見つかったという場合などがそうです。そうなると、遺産分割協議はやり直し、相続税も修正申告が必要になったりと、大きな手間がかかり大変です。
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7.「タンス預金はばれるか」と「ばれた場合の罰則」についてまとめ
- 税務署は強い調査権限を持つため、タンス預金はばれる
- タンス預金がばれた場合、非常に厳しい罰則が設けられている
- タンス預金がばれたために約3億2千万円の追徴課税が生じた事例がある
- タンス預金は税務署にばれるだけでなくリスクが伴う
災害などの緊急時に備え、当面乗り切るために必要な額の現金を自宅に保管しておくことは良いのですが、以上述べてきたように、税務署の調査を突破するのは大変むずかしいので、相続税を回避するためのタンス預金はおすすめできません。
もし相続税回避のためのタンス預金がばれれば、以下のような追徴課税が生じることはご説明しました。
- 無申告加算税
- 過少申告加算税
- 重加算税
- 延滞税
また、裁判で有罪となった場合には、懲役や罰金が科せられる可能性もありましたね。
タンス預金は本来、相続税の課税対象となるため申告しなくてはならないものです。
きちんと税務署に申告し、期限内に税金を納付することが、結局は自分の財産を守ることにつながりますし、いつ税務調査が入るかとビクビクしながら過ごすのももったいない話です。
冒頭の繰り返しになりますが、相続税回避のためのタンス預金は、やめておきましょう。
これが結論です。
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