払いすぎた相続税の還付を受ける「相続税の更正の請求」について知っておきたいことと手続きについて解説
相続税は複雑な仕組みになっているため、正確な金額を計算するには専門的な知識が必要ですが、もしも間違って相続税を払いすぎていた場合は、「相続税の更正の請求」を行うことで、税金の還付を受けられるようになっています。
ただ、相続税が払い過ぎになっているかどうかを把握するのにも、相続税についてのある程度の知識が必要です。そこで今回は、相続税の更正の請求の制度についてお伝えしながら、相続税が払い過ぎになってしまいやすいケースと請求手続きについて解説します。
1.相続の更正の請求とは
相続の更正の請求とは、相続税を支払いすぎていた場合に還付してもらうことができる制度です。相続税の申告は正しい内容で行わなければならないのはもちろんですが、制度が複雑なため、誤った申告をしてしまうこともあり得ます。また、正しい申告を行っていたにもかかわらず、申告後に状況が変わってしまったことで、相続税を払いすぎている状態になってしまうケースもあるでしょう。
そういった場合に、払いすぎている相続税を還付してもらうための手続きが、相続税の更正の請求です。
2.相続税の更正の請求の期限
相続税の更正の請求には、期限が定められています。更正の請求を行う理由によって期限が異なるため、注意が必要です。
2-1.通常の場合:相続税の申告期限から5年以内
後述するような特別な事情ではなく、申告内容の誤りで更正の請求を行う場合は、「相続税の申告期限から5年以内」となっています。
相続税の申告を実際に行った「申告日」ではなく、「申告期限」が基準になっている点に注意してください。相続開始から申告期限までは10か月なので、相続開始から相続税の更正の請求の期限を計算すると、5年10か月となります。
2-2.更正の請求の特則に該当する事由がある場合:特則該当事由発生日の翌日から4か月以内
特別な事情で更正の請求を行う場合は、その事由(特則該当事由)が発生した翌日から4か月以内に行わなければなりません。どのようなケースが特則該当事由に該当するのかは、更正の請求の特則に定められており、具体的には下記のようなケースが挙げられます。
①遺産分割協議がまとまった
相続税の申告期限は、相続開始から10か月となっています。遺産分割がスムーズに進まなかった場合でも、民法に定める法定相続割合で分割したものとして相続税を計算して、申告・納税しなければなりません。
その後、遺産分割協議がまとまり正確な相続税額が判明し、納税額が多かった場合には、更正の請求を行うことができます。
※なお、納税額が少なかった場合は、修正申告が必要です(以下、他のケースでも同様)。
②認知、廃除などによる相続人の異動があった
相続税の申告を行った後で、被相続人が認知している子どもがいることが判明した場合や、廃除に該当する相続人がいることが発覚するケースがあります。そういった理由で相続人の数が変わると、申告時から相続税額が変化することがあります。
③遺留分の侵害額が確定した
相続にあたり、兄弟姉妹以外の法定相続人には、遺留分という権利があります。この権利に基づいて遺留分侵害額請求がなされ、遺留分を支払った場合で、申告時から相続税額が減少した場合は、更正の請求が可能です。
④遺言書が発見された、または、遺贈の放棄があった
遺言書は、被相続人の意思であり、相続で最も優先されるものです。そのため、遺言書の存在を知らずに相続税の申告を行い、その後、遺言書が発見された場合、相続税額が変化することがあります。
また、遺贈を受け取る人物が遺贈の権利を放棄した場合も同様です。
3.相続税の更正の請求が起こるケース・起こりやすいケース
相続税の更正の請求は、納税しすぎた分が返ってくる手続きのため、その可能性があれば確実に手続きをしておきたいところです。
そこで、相続税の更正の請求が起こるケース・起こりやすいケースについてまとめました。
3-1.相続税申告後に新たに借入金(借金)が見つかった場合
相続税がいくらになるかは、被相続人の相続財産や相続人の数などで決まってきます。
被相続人の相続財産は資産(プラスの財産)から負債(マイナスの財産)を差し引いて計算されます。そのため、相続税の申告後に、被相続人の借金が見つかった場合は、相続税額が少なくなるはずです。
3-2.不動産を相続した場合
不動産を相続した場合、不動産を正しく評価できなかったことで、本来よりも多額の相続税を納税してしまっていることがあります。
3-2-1.土地評価は相続税申告の中でもより高度な専門性が必要
相続税の制度は簡単ではありません。中でも、土地の評価については、非常に複雑な制度になっています。土地の形状や周辺環境などによって細かい計算ルールが定められているため、相続についての高度な知識を持った専門家でなければ、正確な相続税額を算定することができません。
そのため、不動産を相続した場合に、相続税を本来よりも多く納税してしまっていることも少なくありません。
3-2-2.減額評価の可能性が高い土地
土地の相続税評価額は、「面積×路線価×補正率」で求めることができます。
路線価は、あくまで「標準的な宅地」を前提としたものです。しかし実際には、同じ面積であっても土地の形状や周辺環境によって利用しやすさが異なり、市場で取引される金額も異なります。
そういった違いを反映するためにさまざまな「補正率」が定められているのですが、そのルールが非常に複雑なものとなっています。
また、上記のような補正以外にも、土地の一部が不特定多数の通行の用に供されている場合などは、その部分についての税金が免除されるケースもあります。
具体的な例としては、下記のようなケースで、土地が減額評価される可能性が高いと言えるでしょう。
- 市街地にある田、畑、山林
- 1,000㎡以上(三大都市圏において500㎡以上)の住宅敷地、アパート敷地、田、畑、空き地
- 道路、通路になっている土地
- 道路と地面の間に高低差がある土地
- 4m以下の道路に面する土地
- 2棟以上の建物を建てている土地
- 建物の建築が難しく、通常の用途には使用できないと見込まれる土地
- 傾斜のある土地や、一部崖になっている土地
- 都市計画道路や区画整理の予定がある土地
- 路線価が付されていない道に面した土地
- 道路の間に水路を挟んでいる土地
- 土地の中に赤道(里道)や水路が通っている土地
- 騒音、悪臭等周囲の住環境が悪い土地
- 墓地に隣接している土地
- 高圧電線が通っている土地
3-3.更正の請求の特則に該当する事由がある場合
上記2-2で解説した「更正の請求の特則」に該当する事由が発生した場合も、更正の請求を行うことができる可能性があります。
このケースで注意しておきたいのは、相続税の納めすぎで更正の請求ができる可能性があることだけでなく、相続税の納税額が不足しており「修正申告」しなければならない可能性もあることです。特則該当事由のようなことが発生した場合は、すでに納税した相続税額がどう変化するのかを必ず確認し、必要な手続きを行うようにしましょう。
4.相続税の更正の請求をする際の手続きの流れ
では、ここからは、相続税の更正の請求を行う手続きについて解説します。
まずは、どのような流れで更正の請求とそれに伴う税金の還付が行われるのかについてお伝えします。
4-1.必要資料を揃える
更正の請求を行うために必要な書類は、下記の通りです。
- 相続税の更正の請求書
更正の請求をするための用紙です。納税者の情報、マイナンバー、更正の請求をするに至った理由などを記載します。 - 次葉(申告又は通知に係る税額及び更正の請求による課税標準等又は税額等)
次葉は、当初申告していた相続税額と更正の請求をしたあとの相続税額の差額(還付金額)がわかるようにまとめた内容となります。 - 更正の請求の理由の基礎となる事実を証明する書類等
遺言書が発見された場合には遺言書等、不動産の評価額が間違っていた場合はその計算根拠となる書類等、更正の請求が正当なものであることを証明する書類の添付が必要です。 - 修正申告書
修正申告書は必須ではありませんが、税額を証明する参考資料として添付することができます。
4-2.必要資料を税務署へ提出する
必要書類がそろったら、税務署へ提出しましょう。
更正の請求の手続きは、更正の請求をする人ごとに提出しなければなりません。相続税の申告では、相続人全員が連名で1つの申告書を提出しますが、更正の請求は個別での手続きになるので、相続税の還付が受けられる相続人それぞれで手続きを行いましょう。
提出した資料に問題がなければ、税務署で審査が行われます。一般的に、更正の請求の審査には2~3か月かかります。
4-3.請求が認められると還付金が振り込まれる
審査に通過すると、「相続税の更正通知書」が届きます。次に、「国税還付振込通知書」が届き、その通知から2週間以内に還付金が更正の請求書に記載した口座に振り込まれます。
5.相続税の更正の請求を税理士に依頼するメリット
ここまで、相続税の更正の請求のルールや手続きについて解説しました。ただ、相続税の計算や不動産の評価など、専門的な知識が求められ、適切な手続きを行うのは非常に難しいと言えます。
そこで、相続税の更正の請求が必要になった場合は、税理士に依頼することをおすすめします。その理由は、下記の3つが挙げられます。
5-1.適正な書類を作成することができる
相続税の更正の請求を行う際に提出する書類には、請求書や次葉のように指定されたものだけでなく、更正の請求ができることを証明する書類が必要です。こういった書類は何が必要か指定されていないため、相続に詳しい税理士に相談すれば、どういった書類が必要かを判断し、適正な書類を作成してもらうことができるでしょう。
また、特に、特則該当事由があって更正の請求をする場合は、「事由発生日の翌日から4か月以内」に、書類の準備から書類の提出までを行わなければなりません。短期間で適正な書類を準備するという意味でも、専門家の力を借りることが望ましいと言えます。なお、この点は、次の「特例の見落とし防止」についても同様です。
5-2.適用できる特例の見落としを防止できる
相続税の計算にあたっては、さまざまな特例があります。
遺産分割協議がまとまらない状態で相続税の申告を行い、その後に協議ができた場合、相続税の申告期限から3年以内であれば、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例(※)などを適用することができます。
※ただし、当初の申告で、対象となる宅地の相続人を決め、「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出していることが条件です。
その他にも、不動産の評価については、前述の通り、減額評価について非常に多くのルールがあり、適用できるものをしっかりと確認しながら税額計算をしなければなりません。不動産は金額が大きいため、補正率がほんの少し変わるだけでも相続税額はかなり変動します。
5-3.節税の相談ができる
相続に詳しい税理士に相談すれば、より節税ができる方法をアドバイスしてもらうことも可能です。
例えば、被相続人の借入金が発覚して更正の請求を行うことになった場合でも、少しでも早く税理士に相談することで、不動産などのその他の相続財産の評価が正しくできているかを見直してもらうなどして、相続税の負担を少しでも抑えることができるかもしれません。
また、相続税の更正の請求だけに限らず、そのあとの相続財産の活用方法も含めて、節税方法をアドバイスしてもらうこともできるでしょう。
6.まとめ
相続税の更正の請求は、払いすぎた相続税がある場合に、その分を還付してもらうことができる制度です。納める必要のない税金を支払うことはありませんから、払いすぎている分は確実に還付を受けられるようにしたいところです。
しかし、相続税の更正の請求ができる事由によっては、たったの4か月で正しい相続税を計算して、税務署に請求をしなければなりません。さらに、不動産の相続があった場合などは、非常に複雑なルールが定められており、適切な評価をするのも簡単ではありません。
正しい相続税額を計算し、適正な書類を作成して、期限に間に合うように請求をするのは簡単ではありませんので、相続に詳しい税理士に相談することをおすすめします。
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