1.相続税が発生するのはいくらから? 相続税の基礎控除について解説!
「相続が起きたけれど、相続税はどうなるんだろう」と、疑問を抱く方は多いです。相続が発生してすぐに相続税のことを考える方は少数ですが、遺産相続について考える段階になると、税金について意識し始める方が少なくないでしょう。人が亡くなった後はやるべきことが多く、相続税について心配があっても後回しにしやすいです。しかし、相続税の申告・納付が必要なのに相続税の申告をしなかった場合にはペナルティーも発生するので注意しなければなりません。
ここでは最初に相続税の申告・納付の要否についてや、要否に関連して相続税の基礎控除の計算方法などについて解説します。まずはご自身のケースで相続税が必要かどうかを判断し、準備を始めましょう。
1−1.亡くなった人の総財産で申告の要否が決まる相続税
誰かが亡くなると、その人の財産を引き継ぐ相続が発生します。その際に発生するのが、相続税です。
一方で、「相続税を納める人は10件の相続のうち1件もない程度」という話を聞いたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。実は、相続税は相続した人全員が納めなければならないわけではありません。そして、実際に相続税を納める人の割合はだいたい8%程度となっています。たとえば、2019年に亡くなった人数はおよそ138万人ですが、相続税を納めなければならない人数は12万人未満です。このように、ケースによっては相続税を納めなくても良い可能性があります。
相続税を申告し、納めるかどうかは、亡くなった人の総財産によって決まります。基準となるのは、相続税の基礎控除額です。亡くなった人(被相続人)の総財産が基礎控除の金額以下である場合には、相続税は発生しません。したがって、申告も納税も不要となります。
そこで気になるのは、総財産がいくらあれば相続税が発生するのかでしょう。それでは、相続税の基礎控除の金額を計算する方法を見ていきます。
1−2.総財産がいくらあると相続税が発生するのか?
~相続税の基礎控除の計算方法~
ご自身のケースで相続税が発生するかどうか、相続税の基礎控除の計算方法について見ていきましょう。
相続税の基礎控除の金額は、「3,000万円+(600万円×法定相続人の人数)」で計算できます。つまり、法定相続人が多ければ多いほど、相続税の基礎控除の金額は増えていくのです。もしも亡くなった人の総財産の金額が基礎控除の金額を超えるのであれば、超えた部分が相続税の課税対象になります。逆に、亡くなった人の総財産の金額が基礎控除の金額を超えない場合であれば、相続税は発生しないので申告や納税も不要となります。
整理すると、相続税の申告が必要なのは、「亡くなった人の総財産の金額>計算した基礎控除の金額」となる場合です。逆に相続税の申告が不要となるのは、「計算した基礎控除の金額≧亡くなった人の総財産の金額」となる場合です。
まずは自分が関わるケースでどのような数値になるのかを確認してみてください。
1−3.相続税の計算方法と具体例
まだ計算方法について自信がないという方もいらっしゃるでしょう。ここで、相続税の計算方法を具体例を挙げて見ていきます。
仮に、Aさんが亡くなったとします。Aさんの総財産は5,000万円でした。このとき、Aさんには妻と両親2人の合計3人の法定相続人がいる場合で考えてみると、相続税の基礎控除の金額は、「3,000万円+(600万円×法定相続人の人数)」で計算できるので、「3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円」です。総財産は5,000万円なので、基礎控除の金額を差し引くと、「5,000万円−4,800万円=200万円」となります。「亡くなった人の総財産の金額>計算した基礎控除の金額」なので、この場合には200万円が相続税の課税対象となり、申告と納税が必要です。
一方でもしもAさんの総財産が4,800万円以下だった場合には、「計算した基礎控除の金額≧亡くなった人の総財産の金額」となります。この場合には、課税対象となる金額は発生しません。したがって、相続税の申告も納税も不要となるのです。
2.申告が必要なのに相続税申告をしなかった場合のペナルティー
相続税の申告が必要なのに、相続税の申告・納付をしなかった場合にはペナルティーがあります。「よくわからない」「忙しい」と放置していると予想外の出費が発生することがあるので気をつけなければなりません。知っておくべきペナルティーとしては、以下の3つが挙げられます。
- 延滞税
- 無申告加算税
- 重加算税
うっかりしていただけで新たな税金を納めることになるのは避けたいはずです。それぞれのペナルティーについて見ていきましょう。
2−1.延滞税
1つ目は、延滞税です。相続税の申告や納付には、期限があります。相続税の申告期限は、亡くなった人が死亡したという事実を知った日(通常では死亡の日)の翌日から10か月以内です。たとえば、2月7日に死亡した場合にはその年の12月7日までに相続税の申告を行わなければなりません。なお、この期限が土曜日や日曜日、祝日などの一般的なお休みの日に当たるときは、これらの日の翌日が期限になるので注意しておきましょう。
相続税の申告・納税の期限までに相続税を納めなければ、ペナルティーとしての延滞税も納める必要が出てくるので要注意です。延滞税が発生するパターンとしては、相続税の申告・納付が遅れた理由によって3つに分けることができます。
- 相続税の申告期限までに税金を納めなかった場合
- 期限後になってから申告書か修正申告書を提出した場合
- 税務調査で指摘されたことによって相続税の支払いが必要になった場合
相続税を申告期限までに納付しない場合には、期限の翌日から納付日までの日数に応じた延滞税を納めなければならなくなります。相続が発生すると何かとバタバタしてしまい、納税関係の手続きは後回しにしてしまいやすいです。しかし、延滞税が発生してしまうと余計な出費になってしまうので、期限内に手続きを行うように意識しておきましょう。もしも不安がある場合には、早めに専門家に相談してしまうのもひとつの手です。
2−2.無申告加算税
2つ目は、無申告加算税です。無申告加算税は、正当な理由がない状況で相続税の申告を期限までに行わなかった場合に発生する税金となります。期限が過ぎてから自分から相続税を申告した場合には、納付した税金の金額の5%を無申告加算税として納めなければなりません。
ちなみに、相続税の申告期限から1ヵ月以内に申告した場合であれば、期限は過ぎている場合でも無申告加算税が課税されません。「相続税の申告を忘れていた」と気づいた場合には、すぐに申告と納付を済ませるようにしてください。もしも自分で行うのに時間がかかるようでしたら、早めに専門家に依頼してしまいましょう。
自ら相続税の申告を行った場合ではなく、税務調査で未申告がわかって申告をした場合には、追加で納めた税金の金額の15%が無申告加算税となります。自ら申告しておけば5%で済むところを、わざわざ15%にしてしまうのはおすすめできません。未申告に気づいたときには隠そうとせず、早急に申告や納付を済ませましょう。
仮に納付する税金の金額が50万円を超えるようであれば、超える部分に対しては20%の無申告加算税が発生します。予想外の金額になることも多々ありますので、要注意です。
2−3.重加算税
3つ目は、重加算税です。
重加算税はこれまでに紹介したペナルティーよりも深刻なので、極力避けていただきたいものとなっています。
相続税の申告・納付を意図的に行わなかったとみなされた場合には重加算税が発生し、追加で納付した税金の金額の40%が重加算税として課税されます。これまでは5%や15%という数字でしたので、非常に重いペナルティーであることがわかるはずです。もしも相続税の申告・納付を期限までにできなかった正当な理由があるとみなされた場合には重加算税ではなく無申告加算税が課税されるものの、40%もの追加が発生するのは極力避けるべきでしょう。
以上のように相続税の申告・納付は適切に行わなければ、ペナルティーが発生してしまいます。金銭面で損してしまうので、早めに正しく手続きを行うようにしてください。
3.相続税0円でもちょっと待った!「申告が必要なケース」と「申告をした方が良いケース」
「相続税は0円だし、申告する必要もないだろう」とお考えの方もいらっしゃると思います。しかし、実は相続税が0円だとしても申告しておいた方が良いケースも存在しています。
後悔しないためにも、相続税の申告が必要なケースと申告が不要なケースについて見ていきましょう。亡くなった人の財産がまだ他にもありそうな場合についても具体的に考えていきます。
3−1.申告が必要なケース
まずは、相続税の申告が必要なケースについて見ていきます。
計算の結果、相続税が0円となった場合でも、税務署に申告しなければならないケースがあります。具体的には、次のような場合です。
- 配偶者の税額軽減を受けて相続税額が0円になる場合
- 小規模宅地等の特例を受けて相続税額が0円になる場合
これら2つの特例を利用する場合には、相続税を申告しなければなりません。その理由としては、税務署には申告しなければ特例を利用することがわからないためです。申告することによって、「特例によって相続税額が発生しない」ことを伝えられます。仮に特例を使って0円になる場合でも、申告しなければ「ただ申告していないだけ」だとみなされ、特例の利用を伝えられません。
税務署に対して相続税の申告が必要かどうか、わからない場合には以下のようなステップで順番に考えてください。
- 相続税の基礎控除の金額を計算する
- 基礎控除の金額以上に総財産がある
- 特例を使うことによって相続税が0円になる
3のステップまで満たした場合には、相続税が0円でも税務署に相続税の申告を行わなければなりません。不安なようなら専門家に相談し、抜けなく手続きを行いましょう。
3−2.申告が不要なケース
次に、相続税の申告が不要なケースについて見ていきます。
すでにご説明しましたが、相続税の基礎控除金額を計算し、総財産が基礎控除の金額以下になるなら相続税は発生しないので、申告も不要です。特例を使わないのであれば、申告しなくて問題ありません。
とはいえ、すべての財産について把握し、金額も間違わずに計算できている必要があります。不安がある状態で相続税を申告せずに放置するのはおすすめできません。自分の中で不確かな部分があるなら、他の相続人と話し合ったり、専門家に相談したりと、早めに動いていってください。
3−3.申告をした方が良いケース ~亡くなった人の財産がまだ他にありそうな場合~
最後に、亡くなった人の財産がまだ他にありそうな場合という、相続税の申告をした方が良いケースについても確認しておきましょう。
相続税を計算する際には、まずは亡くなった人の財産をすべて確認しなければなりません。しかし、相続人みんなで力を尽くしても、「もしかしたらまだ財産が残っているかもしれない」という場合もあるでしょう。
そのように、亡くなった人の財産がまだ他にありそうな場合も、現段階での相続税を申告しておくことをおすすめします。その後に財産が見つかって修正申告を自ら行うのであれば、ペナルティーが課せられないこともあるからです。
まとめ
相続が発生しても、すべてのケースで相続税の申告・納付が必要だとは限りません。
相続税を申告し、納めるかどうかは、亡くなった人の総財産と基礎控除額によって決まります。亡くなった人(被相続人)の総財産が基礎控除の金額以下である場合には、相続税は発生しません。したがって、申告も納税も不要となります。
とはいえ、相続税が0円でも申告した方が良い場合もあります。相続税については適切に手続きできていなければ、ペナルティーが発生するので要注意です。少しでも不安が残るようなら、早めに専門家に相談してください。