法定相続情報証明制度というのをご存知ですか?
簡単に言ってしまえば、「相続手続きの手間を省くことができる制度」です。
相続税申告や亡くなった人の財産を名義変更するには、戸籍の収集という大変な作業があります。 法定相続情報証明制度ができる前は手続きの度に戸籍の束を提出しなければならず、複数の手続きを同時進行で進めることが困難でした。
この制度を利用すれば、「法定相続情報一覧図の写し」のたった1枚で済みます。 財産の種類がたくさんある方はこの制度の利用を検討してみると良いでしょう。
ここでは、法定相続情報証明制度がどのような制度なのか、どういった人が使うべき制度なのかをわかりやすく解説します。
実際の手続きの方法も説明しますから、気になっている方は確認してください。
1.相続手続きが簡単になる法定相続情報証明制度とは
法定相続情報証明制度とは、相続手続きのときに提出する戸籍の束が「法定相続情報一覧図の写し」1枚で済むようになるという制度です。
この制度ができるまでは、亡くなった人の財産を相続人の名義に変更する相続手続きの度に市区町村役場で戸籍謄本を集め、集まった戸籍の束を各窓口に提出する必要がありました。
財産の種類が多い方は、一つの手続きが終わったら返却された戸籍の束を持って次の手続きに行くという方法か、お金はかかってもあらかじめ何部か戸籍を取っておいて同時進行で手続きをしていくという方法で相続手続きをしていました。
相続手続きで提出する亡くなった人の戸籍は、出生から死亡までの連続したものでないといけませんから転居を繰り返し、その都度本籍を移動していた場合には戸籍の束が分厚くなっていきます。 役所が遠方の場合には郵送で取り寄せる手間もかかります。
法定相続情報証明制度の場合には、亡くなった人と相続人の関係を法務局で証明してもらいます。 両者の戸籍の束を法務局に提出し「法定相続情報一覧図の写し」をもらえればその1枚の紙で相続手続きをすることができます。
「法定相続情報一覧図の写し」の再交付は無料ですから、相続手続きに必要な枚数を取っておいて各窓口に提出すれば一度に複数の手続きをすることができます。
「法定相続情報一覧図の写し」を法務局でもらうための手続きに費用はかかりません。
戸籍や住民票などこの制度を利用しなかったとしても用意することになるものを取得する費用の負担だけで済みます。
手続きに時間を取れない方は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士といった資格を持った専門家にやってもらうこともできますが、戸籍等の取得+法務局での手続き代行の費用と戸籍等を複数部取得してもらう費用どちらが安いのかを検討する必要があります。
1-1.相続登記を推進するためにできた制度
亡くなった人名義の不動産を相続人の名義に変更する相続登記には、いつまでにやらなければいけないといった期限が無く、やらないからといって罰則もありません。
期限が無く後回しにされてしまった結果、登記情報が何代も前の古いもので権利関係が複雑になっていたり、持ち主が分からない空き家状態の不動産が増加したりと、問題が出てきました。
相続登記を促進する目的で手続きの負担を減らすためにこの制度ができたわけですが、法務局で行う不動産登記だけでなく金融機関での相続手続きでも使えるようになってきました。
1-2.法定相続情報証明制度の注意点
続いて、法定相続情報証明制度の注意点を3つお伝えします。
① 日本人でない場合は利用できない
亡くなった人や相続人が日本国籍を持っていないなど、そもそも提出できる戸籍謄本が無い場合にはこの制度を利用することはできません。
② 相続税申告書に添付する場合は子が実子なのか養子なのか分かるようにする
平成30年4月1日以降に提出する相続税申告書では、戸籍の代わりに「法定相続情報一覧図の写し」を添付することができるようになりました。 ただし、養子の人数は税金の計算に影響を及ぼしますから、「子」の続柄に実子か養子か記載の無いものは添付書類として認められません。養子がいるときには、その養子の戸籍も提出しなければなりませんのでご注意ください。
③ 制度に対応していない窓口もあるため事前のリサーチが必要
新しい制度だということもあり、まだ対応できておらず従来通りの戸籍の提出を求められるケースがあるようです。
大手金融機関では対応しているところが多いのですが、地方銀行の預金、自動車、有価証券などの名義変更をする場合には事前に対応しているかどうかを確認した上で利用するかどうかを判断した方が良いでしょう。
2.財産の種類が多ければ法定相続情報証明制度を使うべき
法定相続情報証明制度は相続手続きをする人全員にオススメの制度というよりは、財産の種類がたくさんあっていっぺんに早く手続きしてしまいたいという人にオススメです。
具体的なメリットを3つご紹介します。
2-1.膨大な戸籍謄本が1枚でよくなる
戸籍謄本の束が「法定相続情報一覧図の写し」1枚になりますから、分厚い資料を各機関に持っていかずに済みます。
例えば、亡くなった人の銀行口座が5つの金融機関にあった場合を考えると、毎回戸籍の束を持っていかなければならないので気が遠くなりそうですよね。 この制度に対応しているかをあらかじめ電話やホームページなどで確認できていれば、手続きがラクになります。
2-2.書類を集める費用を抑えられる
この制度を使って相続税申告から各種の相続手続きまで終えられそうな場合は、戸籍の束を1部か2部取得するだけで済みますから費用を抑えることができます。
制度ができる前は、亡くなった人や相続人が遠方の場合戸籍を何度も取り寄せることが面倒なことから、多めに取っておいて結局使わなかったというケースがあったようです。 それではお金がもったいないですよね。
各種手続きの窓口が法定相続情報証明制度に対応しているかを確認した上でこの制度を利用すれば、上記のような無駄が無くなります。
2-3.スピーディーに相続手続きを進められる
法定相続情報証明制度では「法定相続情報一覧図の写し」を複数枚無料で再交付できますから、複数の相続手続きを同時に進めることができます。面倒なことは早めに済ませてしまいたいという人は、必要な手続きの分写しを取得してしまいましょう。
法定相続情報証明制度の3つのメリットについてお話してきました。 結論としては、次の3章で説明するこの制度を利用するための手続きが面倒でない方でしたら、上記のようなメリットがありますから手続きを利用すると良いでしょう。
まずは必要な手続きを全て書き出し、各窓口がこの制度に対応しているかをよく調べた上で必要な戸籍の部数を出し、費用とかかる時間を比較して判断してみてください。
【囲み枠:法定相続情報証明制度の手続きにかかる時間はどのくらい?】
この制度を利用するには、登記所の窓口に直接出向くか郵送で手続きをする必要があります。 登記所側に資料が渡ってから「法定相続情報一覧図の写し」がもらえるまでにかかる期間は、平均で1~2週間です。
各登記所が処理している件数により、手続きにかかる期間は異なります。 1~2週間待てる場合にはこの制度を利用するべきですが、銀行口座の凍結をすぐに解除したいなど急いでいるようでしたら戸籍を複数部取得したほうが速く手続きできます。
3.法定相続情報証明制度の3つのステップ
ここからは、法定相続情報証明制度を利用するための方法を3つのステップでご説明します。
3-1.必要書類を集める
「法定相続情報一覧図の写し」の交付の申し出に必要な書類は、必ず全員が用意するものと必要になる場合があるものにわかれています。 下記の表をご確認ください。
【全員必ず用意する書類】
【必要となる場合がある書類】
戸籍謄本は1通450円、住民票は1通300円です。 相続人の人数などによって取得する枚数が違いますので事前に確認しておくと良いでしょう。
3-2.「法定相続情報一覧図」を作成する
次に、法定相続情報一覧図をご自身で作成します。
法定相続情報一覧図とは、亡くなった人と相続人の戸籍情報を1枚にまとめたものです。
法定相続情報一覧図のフォーマットは法務局のホームページに用意されています。 相続人のパターン別・相続の状況別にフォーマットと記載例が細かく載っていますので、ご自身の状況に合ったもので作成しましょう。
フォーマットはこちらから ⇒http://houmukyoku.moj.go.jp/homu/page7_000015.html
一覧図は下記のようなフォーマットになっています。(法務局ホームページより抜粋)
3-3.登記所へ申し出を行う
必要書類の収集と法定相続情報一覧図の作成ができたら、登記所へ申し出をします。
所定の申出書に必要事項を記入し、戸籍等の必要書類と法定相続情報一覧図と一緒に提出します。登記所に直接持っていくか、郵送でも手続きができます。
申出書のダウンロードはこちらから ⇒http://houmukyoku.moj.go.jp/homu/page7_000014.html
申出書の記載方法が細かく載った記入例も、法務局のホームページから見ることができます(下記法務局ホームページより抜粋)。
申し出が受理されると「法定相続情報一覧図の写し」を受け取ることができます。
3-2で作成し提出した「法定相続情報一覧図」は登記所で保管されます。
提出した戸籍謄本一式は返却されますので、「法定相続情報一覧図の写し」が使えない相続手続きがある可能性を考えて自宅で保管しておくと良いでしょう。
「法定相続情報一覧図の写し」の再交付は5年以内であれば可能です。 必要部数を無料で交付してもらえますから、相続手続きに必要な分を取得しましょう。
4.まとめ
法定相続情報証明制度は、相続手続きを簡単にするために作られた制度です。
戸籍の束が「法定相続情報一覧図の写し」の一枚になりますから、銀行口座や不動産など相続財産が複数ある方にオススメです。
資料一式を集めて登記所で手続きする手間はありますが、その後の手続きがラクになります。
この制度で名義変更できる窓口・機関は全国で増えていっていますが、まだ対応できていないところもあります。この制度を利用する前には、ご自身が相続手続きしなければならないものをリストアップし、「法定相続情報一覧図の写し」が受理されるかどうかを事前に調べておくことが大切です。
戸籍を複数部取得してしまうのか、法定相続情報証明制度を利用するのか、手間と費用を天秤にかけてご自身に合った方法で手続きをしましょう。