相続人が障害者である場合、相続税の金額から一定額を引くことのできる「障害者控除」という制度があります。
財産額からではなく相続税額から直接控除することができるため、相続税の負担を軽減する効果が非常に大きい控除です。
障害の程度によって控除される金額は異なりますので、どんな人が控除を使えるのか詳しく解説していきます。
また、相続税の計算上どのように控除していけばいいのか具体例を挙げてご説明しますので、相続税申告の際に参考にしてみてください。
1.相続税における障害者控除とは
障害者が相続(遺贈を含む)で財産を受け継いだ場合、その人の相続税の金額から一定額を減らすことができる「障害者控除」という制度があります。
障害のある方の相続税の負担を少しでも軽くするという意図から、この制度が設けられています。
具体的には、計算式にその相続人の年齢をあてはめて控除額を計算します。その障害者の税金から控除額を引き、控除額が余るようならほかの相続人でかつ扶養義務者の税金からも控除することができます。
障害者控除を適用する際は、相続税申告書の第6表「未成年者控除額・障害者控除額の計算書」に計算内容を記載し、証拠書類として障害者手帳のコピーあるいは医師の診断書を添付して申告します。
ただし、過去に相続で障害者控除を受けたことがある場合には、控除額が制限されることがあるためご注意ください。
1-1.相続税の障害者控除を受けることができる人
障害者控除が受けられる人の要件として、次の3つがあります。
① 財産の取得時に日本国内に住所があること
② 財産の取得時に障害者であること
③ 財産を取得した人が法定相続人であること
障害者控除を使うことができるのは、上記3つの要件全てに当てはまっている人ですのでご注意ください。
1-2.障害者であることの判定基準
障害者控除は障害者であることが大前提ですが、厳密にどのタイミングで判断するのかが控除を使えるかどうかを考える上で重要になってきます。
上記「1-1.相続税の障害者控除を受けることができる人」の要件に”② 財産の取得時に障害者であること”があります。
「財産の取得時」とは「相続の開始の時期」のことであると相続税法によって決められていますので、被相続人が亡くなって相続が発生したときで判断することになります。
つまり、相続開始時に障害者であったということが条件となります。
基本的には障害者手帳を持っていれば障害者であったことを証明できますが、手帳の申請中であった場合には医師の診断書でも証拠書類として認められる場合があります。
診断書の内容が一般障害者もしくは特別障害者に当てはまる場合は、「速やかに」障害者手帳の申請をし、交付が間に合わないようであれば医師の診断書を申告書に添付しましょう。
1-3.控除額が異なる「一般障害者」と「特別障害者」
相続税の障害者控除は一般障害者と特別障害者の2つのケースで計算式が異なります。まずはそれぞれの要件について確認していきましょう。
【一般障害者】
a. 児童相談所、知的障害者更正相談所、精神保健福祉センターもしくは精神保健指定医の判定により知的障害者とされた人(重度と判定された場合を除く)
b. 精神障害者保健福祉手帳に2級または3級と記載されている人
c. 身体障害者手帳に3~6級と記載されている人
d. 戦傷病者手帳に記載されている恩給法の第4~6項症と記載されている人
e. 常に寝たきりの状態で複雑な介護が必要な人のうち、aまたはcに準ずるとして市区町村長等の認定を受けている人
f . 65歳以上で障害の程度がaまたはcに準ずるとして市区町村長等の認定を受けている人
【特別障害者】
A. 精神障害により、物事を理解し意思表示ができる能力を欠く状態にある人もしくは一般障害者のaの重度と判定された人
B. 精神障害者保健福祉手帳に1級と記載されている人
C. 身体障害者手帳に1級または2級と記載されている人
D. 戦傷病者手帳に記載されている恩給法の第3項症までであると記載されている人
E. 常に寝たきりの状態で複雑な介護が必要な人のうち、AまたはCに準ずるとして市区町村長等の認定を受けている人
F. 65歳以上で障害の程度がAまたはCに準ずるとして市区町村長等の認定を受けている人
G. 原子爆弾被爆者を援護する法律の規定で、厚生労働大臣の認定を受ける人
上記のように、障害の程度によって一般障害者か特別障害者に分けられます。
それぞれの控除額は以下の計算式で算出します。
【一般障害者の場合の計算式】
控除額=(85歳-相続開始時の年齢)×10万円
【特別障害者の場合の計算式】
控除額=(85歳-相続開始時の年齢)×20万円
上記の計算式で出た控除額を相続税の金額から引いて最終的な税額を算出し、申告をすることになります。
1-4.控除額計算時の年齢のカウント方法
障害者控除の控除額は、その障害者が85歳になるまでの年数に10万円(一般障害者)、ないしは20万円(特別障害者)をかけて求めます。
85歳になるまでの年数は、85歳から相続開始時の満年齢を引いてカウントします。
例えば、相続が発生した時点で70歳10ヶ月であった場合には70でカウントしますので、一般障害者の場合、(85歳-70歳)×10万円=150万円が控除額となります。
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2.障害者控除の控除額が余ってしまうケースも
障害者控除ではかなり大きな金額を相続税から控除することができるため、その障害者の相続税額を控除額で引ききれない、言い換えると控除額が余ってしまうケースがあります。
その場合には、ほかの相続人でかつ扶養義務者である人の相続税額から余った分を控除することができます。
扶養義務者が複数人いる場合には、
- 扶養義務者全員の協議によって配分を決める
- 扶養義務者全員で相続税額によって按分
のいずれかで控除額を決定します。
2-1.障害者控除の控除額が余った場合の計算例
もしも障害者控除の控除額が相続税額よりも大きかった場合、引ききれなかった控除額が出てきます。
前述の通り、引ききれなかった控除額はほかの相続人でかつその障害者の扶養義務者である人からも引くことができます。
例えば、3人兄弟の真ん中の次男が亡くなり、その兄と妹が相続人となったと仮定して考えてみましょう。
兄・妹それぞれの相続税額が385万円で兄が障害者で障害者控除を使える場合、
兄(45歳)⇒(85歳-45歳)×10万円=400万円(控除額)>385万円(相続税額)
あと15万円控除できますから
妹⇒385万円(相続税額)-15万円=370万円(控除後の相続税額)
上記のように兄で引ききれなかった15万円を妹の相続税額から控除できます。
それでは、障害者控除の計算方法を具体例にあてはめて見ていきましょう。
【状況】
- 両親はすでに他界
- 相続人は一般障害者の兄(45歳6ヶ月)、妹(37歳1ヶ月)
- 相続財産は自宅家屋1,000万円、自宅土地4,000万円、預貯金5,000万円
- 分割は自宅が妹、預貯金は兄
(単位:万円)
自宅(家屋) | 1,000 |
---|---|
自宅(土地) | 4,000 |
預貯金 | 5,000 |
合計 | 10,000 |
基礎控除 | -4,200 |
課税遺産総額 | 5,800 |
【法定相続分割合】
兄(1/2) | 2,900×15%-50= | 385 |
---|---|---|
妹(1/2) | 2,900×15%-50= | 385 |
計 | 770 |
【分割割合】
兄(1/2) | 770×1/2=385 | → 0 | ※ 障害者控除(85歳-45歳)×10万円=400万円 |
---|---|---|---|
妹(1/2) | 770×1/2=385 | → 370 | ※兄が引ききれなかった15万円を控除 |
相続税額 | 370 |
まず、法定相続分割合で全体の相続税額(上記の表でいう770万円)を算出し、それを分割割合で割ると一人当たりの相続税の金額が出てきます。
兄は障害者控除で400万円控除することができますが、税額が385万円で引ききれない分が15万円出てくるので、妹の税額から15万円引くことができます。
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4.相続税の障害者控除の要件と計算方法のまとめ
- 相続人が障害者の場合、相続税の納税額を控除する「障害者控除」が適用できる
- 「一般障害者」か「特別障害者」かによって相続税の控除額は異なる
- その障害者の相続税額よりも控除額が大きい場合、余った控除額を他の相続人(扶養義務者)の相続税額から控除できる
障害の程度によって計算式が変わるので、ご自身の状況をよく確認してみてください。
申告書第6表のフォーマットに沿って数字を入力していけば、控除額を計算できるようになっています。
相続人に障害者がいる場合には要件をよく確認し、控除の適用を検討してみてください。
相続税にはさまざまな控除や特例が設けられており、上手に活用すれば相続税の納税額を適正に抑えることができます。
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