事業承継をお考えになっている経営者やその後継者にとって、高額な会社の株式を贈与、相続するときの税金(贈与税、相続税)の負担は大きな悩みです。
そのとき、後継者に「税金ゼロ」で自社株式を承継する方法があるとしたら、是非、知りたいと思いませんか?
中小企業の事業承継を力強く後押ししていくために、事業承継の際の贈与税・相続税の負担を軽減する「事業承継税制」が平成30年度税制改正で、今後10年間に限って大きく拡充されました。
今後5年以内に特例承継計画を提出し、10年以内に実際に事業承継をおこなうものを支援します。
これから、後継者に「税金ゼロ」で自社株式を承継する事業承継税制について、詳しくわかりやすくお伝えしていきます。
1.事業承継とは、後継者に「税金ゼロ」で自社株式を承継する方法
中小企業の自社株式を後継者へ贈与・相続する際に発生する贈与税・相続税の納税額が大幅に猶予もしくは一定の場合に免除されるものです。
1-1.事業承継税制とは
事業承継では、後継者が先代経営者から自社株式や事業用資産を引き継ぐときに、後継者には贈与税や相続税の税金の負担が生じます。
計画的な事業承継が行われていないときには、納税資金が足りなくなり事業継続が難しくなります。
そのため計画的な後継者への事業承継をうながすために、税負担の軽減につながる事業承継税制が2009年に作られました。
この制度ができたばかりのころは、税金を猶予する要件がかなり厳しかったため、利用者はそれほど多くありませんでした。
そこで中小企業の事業承継をより一層後押しするために、「平成30年度税制改正」において、事業承継税制の「特例事業承継税制(特例制度)」が新たに作られました。
これは、今後5年以内に特例承継計画書を提出し、10年以内に実際に事業承継を行うものを支援します。
1-2.事業承継税制を使えば、相続税も贈与税も「税金ゼロ」にできる
事業承継税制を使うと、株式の承継にともなう贈与税・相続税の納税を一時的に猶予してもらう(あるいは免除してもらう)ことができます。
- 猶予・・・税金の支払いを先延ばしにすることで、いずれは税金を支払うことです。
- 免除・・・税金の支払いをしなくていいことで、「税金ゼロ」になります。
特例事業承継税制(特例制度)では対象株式の100%、猶予割合も100%となりましたので税負担が「実質ゼロ」となります(現行の一般事業承継税制と特例事業承継税制の違いは。1-3.で説明します)。
特例事業承継税制は、2018年(平成30年)1月1日から、2027年12月31日の「10年間限定」の制度です。現行制度と特例制度は同時に存続します。
1-2-1.相続税が「ゼロ」になるしくみ
① 代経営者の死亡により、後継者が自社株式を相続する。
② 特例事業承継税制を使うと、相続税が「納税猶予」される(この時点では、まだ免除にはなりません)。
③ 後継者が死亡すると納税が免除され、「税金ゼロ」になる(次の後継者に「特例事業承継税制」を使って株式を贈与した場合も、納税が免除されます)。
【 自社株式の相続税がゼロになる 】
1-2-2.贈与税が「ゼロ」になるしくみ
① 先代経営者から後継者が自社株式を贈与される。
② 特例事業承継税制を使うと、贈与税が「納税猶予」される(この時点では、まだ免除にはなりません)。
③ 先代経営者が死亡した場合、猶予されていた贈与税が免除される(ゼロになる)。
④ 贈与税は免除されるが、この特例によって得た自社株式は、先代経営者が亡くなったことで、「相続によって取得したもの」とみなされる。したがって、「贈与時の評価額」で他の相続財産と合算され、相続税の課税の対象となる。
⑤ 相続税は発生するが、この段階で「相続税の納税猶予(特例事業承継税制)」に切替えると、相続税が「納税猶予」される。
⑥ 後継者が死亡するか、次の後継者に「贈与税の納税猶予(特例事業承継税制)」を使って株式を贈与した 場合、納税が免除される。
【 自社株式の贈与税がゼロになる 】
1-3.一般事業承継税制と特例事業承継税制の8つの違い
事業承継税制には、2009年から続いている現行制度(一般事業承継税制)と2018年4月から導入された「特例事業承継税制」の2つの制度があります。
一般事業承継税制と特例事業承継税制は同時に存在し、適用を受けるときは、両制度の違いをよく理解しておく必要があります。
一般事業承継税制と、特例事業承継税制のおもな違いは8つですが、以下に比較表をあらわします。
① 特例承継計画の提出
特例事業承継税制の適用を受けるには、特例承継計画の提出が必要です。
今すぐ贈与する予定がなくても、まずは特例承継計画を提出しておいてもいいでしょう。
特例承継計画の提出後に贈与を行わなくてもかまいません。
② 先代経営者からの相続・贈与の期間
特例承継計画を提出しても、2027年12月31日までに相続・贈与をしなければ特例事業承継税制の適用を受けることはできません。
期限を過ぎてしまった場合は、一般事業承継税制の適用となります。
③ 対象株式
一般事業承継税制では、発行済議決権株式総数の3分の2の株式が限度でしたが、特例事業承継税制では、すべての株式が対象です。
④ 相続のときの猶予対象評価額
一般事業税制では、対象株式の「評価額の80%」が猶予されます。これに対し、特例事業承継制では対象株式の「評価額の100%」が猶予されます。
⑤ 承継パターン
株式を贈与できる人は、一般事業承継税制も特例事業承継税制も複数株主ですが、後継者は一般事業承継税制では、「筆頭株主である代表者ひとり」でしたが、特例事業承継税制では、「後継者3名」まで認められます。
⑥ 雇用確保要件
一般事業承継税制では、従業員数が、5年平均で相続時(贈与時)の80%を下回ってはいけないという決まりがあります。
特例事業承継税制では、80%を下回った理由を記載した書類(認定支援機関の意見が記されたもの)を提出すれば、認定が取り消されません。
したがって、雇用確保要件は「実質撤廃」と言えます。
⑦ 相続・贈与時から5年後以降に株式の譲渡、解散があった場合
一般事業承継税制では、民事再生や会社更生のときに、その時点の評価額で相続税・贈与税を再計算し、超える部分の納税猶予額を免除します。
特例事業承継税制では、「経営環境の変化をしめす一定の要件」の場合には、売却、合併による消滅、解散時においても同様な制度を導入できます。
⑧ 相続時精算課税
一般事業承継税制では、推定相続人ひとりのみが適用ですが、特例事業承継税制では、推定相続人以外も適用できます。
2.事業承継税制で「税金ゼロ」の適用をうけるための4つの要件
特例事業承継税制の適用を受けるには、「会社の要件」「後継者の要件」「先代経営者の要件」「担保の要件」を満たしている必要があります。
これから、それぞれについて、説明していきます。
2-1.会社の要件
対象会社の要件は、「中小企業基本法」で規定された「中小企業」であることです。
また、以下の要件があります。
① 上場会社でないこと
② 風俗営業会社でないこと
③ 資産管理会社でないこと(一定の要件を満たすものはのぞきます)
④ 従業員が1名以上いること
中小企業者に該当するのは、業種に応じて次のとおりです。
(資本金、従業員数はどちらかを満たせばよいことになっています。)
2-2.後継者の要件
後継者の要件は、贈与の場合と相続の場合とで異なりますので、それぞれに分けて説明します。
2-2-1.【贈与税】の納税猶予を受ける場合
事業承継税制の贈与税の納税猶予・免除の適用を受けるためには、贈与時において、後継者が次のすべての要件を満たす必要があります。
① 会社の代表者であること
② 20歳以上で、贈与の直前において「3年以上役員」であること
③ 後継者およびその同族関係者(親族など)が保有する株式が50%を超えること
④ 後継者が同族関係者の中で筆頭株主であること
⑤ 相続により取得した株式を1株も譲渡せず、継続して保有すること
2-3.先代経営者の要件
先代経営者の要件は、贈与の場合と相続の場合とで異なりますので、それぞれに分けて説明します。
2-3-1.【贈与税】の納税猶予を受ける場合
以下のすべての要件を満たす必要があります。
① 会社の代表者であったこと(贈与までに代表権を返上する必要があります)。
② 先代の経営者およびその同族関係者(親族など)が保有する株式が50%を超えること。
③ 先代経営者が同族関係者のなかで筆頭株主であること。
2-3-2.【相続税】の納税猶予を受ける場合
以下のすべての要件を満たす必要があります。
① 会社の代表者であったこと。
② 先代経営者およびその同族関係者(親族など)が保有する株式が50%を超えていること。
③ 先代経営者が同族関係者のなかで筆頭株主であること。
2-4.担保の要件
納税が猶予される相続税額・贈与税額及び利子税の額に見合う担保を税務署に提供する必要があります。
具体的には、納税猶予の対象となる非上場株式そのものや、不動産、有価証券などがあります。
3.事業承継税制活用のメリット・デメリット
事業承継制度活用の最大のメリットは、対象株式の贈与税・相続税の納税が猶予になり、最終的には「税金ゼロ」になることです。
デメリットもありますが、これから具体的に説明していきます。
3-1.事業承継税制活用のメリット
対象株式の贈与税・相続税が納税猶予になり、最終的には免除となり「税金ゼロ」になります。
① 高額な相続税や贈与税が支払わなくてもよくなり、そのため納税資金を用意する必要がありません。
② 特例は期間限定ですので、それを口実に後継者が先代経営者に、事業承継を言いやすく、促しやすいことです。
3-2.事業承継税制活用のデメリット
事業承継税制活用のデメリットは、認定が取り消された場合のリスクが存在することです。
贈与税の納税猶予が取り消された場合、相続税よりも税率が割高になり、猶予された税額に対する利子税が課税されることになります。
① 納税猶予期間が極めて長期間に及びます。
② 取消事由に該当しますと、猶予された税額に加えて、利息に該当する利子税も支払うことになります。
③ 非常に複雑な制度であるにもかかわらず、経験のある税理士がほとんどいないということです。
このため、この制度に精通した専門家に継続的にサポートを受けることが重要です。
4.まとめ
事業承継税制のメリットは、高額な自社株式の場合ほど非常に大きなものになります。
事業承継には、後継者の育成などを含めると5年から10年はかかります。「特例事業承継税制」の適用を受け「税金ゼロ」にするには、2023年3月31日までに「特例承継計画」を提出する必要があります。
「まだ自分には関係ない」と先送りしていると「税金をゼロにする好機」を逃してしまうことになりかねません。
事業承継を成功させるには、「早め、早めに対策を講じる」ことです。是非、信頼できる「事業承継の専門家」「事業承継に精通した税理士」に相談され、継続的なサポートを受けることが大切です。
当社は、自信をもって、あなたの会社の事業承継のサポートをお手伝いします。