1. 土地評価の重要性(相続税の金額は土地評価の精度で大きく変わる)
土地を相続することになった場合、気になる方が多いのが相続税です。家や土地のような不動産を相続することになると、予想以上の税金を納める必要が出てくるケースも珍しくありません。相続税の税率は10%〜55%で、最も低い税率でも10%となっています。したがって、いかに課税対象となる金額を減らすのかが重要です。
ここで知っておいてもらいたいのが、土地評価の重要性です。土地は売買のときの金額で相続税を計算するわけではありません。相続税を計算するときの土地の金額は、国税庁が定めている方法で評価することになります。現金や預金のように額面通りの金額で計算するわけではないので、相続税の金額は土地評価の精度によって大きく変わるといえるでしょう。
ちなみに、家であれば、固定資産税評価額をそのまま相続税の計算にも使用します。固定資産税評価額は、固定資産税納税通知書という書類が毎年送られてくるので、その書類を見ることでわかります。
土地の評価額を下げるためにはいろいろなポイントがあります。ここからは、どのような土地であれば評価額を下げられるのか、順番に見ていきましょう。土地を相続することになりそうな方や、土地を相続した方は、ご自身の土地について照らし合わせながら見てみてください。
2.家の土地評価額を下げることができる項目
家の土地評価額をいかに下げることができるのかが、相続の際に気になるポイントでしょう。土地評価額を下げられる項目にはいろいろありますので、ご自身のケースで当てはまるものがないのかしっかりとチェックするべきです。以下のような状況であれば土地評価額が下がる可能性があります。
- 小規模宅地等の特例
- 500㎡以上の土地
- 無道路地(道路に接していない、あるいは少ししか道路に接していない土地)
- 道路・通路になっている土地
- 形の良くない土地(不整形地)
- 道路との間に高低差がある土地
- 傾斜のある土地や、一部崖になっている土地
- 幅員4m以下の道路に面する土地(セットバックが必要な土地)
- 騒音、悪臭等周囲の住環境が悪い土地(線路や踏切に接しているなど)
- 都市計画道路の予定がある土地や、土地区画整理事業施行中の土地
- 赤道(里道)や水路が中に通っている土地
- 墓地に隣接している土地
- 高圧線が通っている土地
- 庭内神しの敷地
このように、数多くの項目があるので、ご自身の土地に適用できるものがあるかもしれません。項目名を見ただけではわかりにくい部分もあるでしょう。それぞれどのような内容なのか、順番に確認していきます。
2-1.小規模宅地等の特例
小規模宅地等の特例とは、条件に当てはまることによって相続税評価額を減額することができる特例です。場合によっては最大で80%も減額できるので、小規模宅地等の特例を使えるかどうかは、相続税額に大きく関わってきます。
相続税額を抑えるためにはぜひとも利用しておきたい小規模宅地等の特例ですが、使うためにはいくつかの条件を満たす必要があります。すべての人が必ず使える特例ではないので、まずはご自身の土地で使えるのかを確認しましょう。条件については、2パターンあります。1つ目のパターンは「被相続人の事業の用に供されていた宅地等」の場合と、2つ目のパターンは「被相続人等の居住の用に供されていた宅地等」の場合です。
1つ目のパターンのように、被相続人が所有する土地で事業を営んでいたなら、小規模宅地等の特例が使える可能性があります。事業については、貸付事業を行っていた場合と、貸付事業以外を行っていた場合でさらに場合分けがされます。
貸付事業を営んでいた場合というのは、たとえば、被相続人が賃貸住宅のような不動産貸付事業を行っていた場合が挙げられます。その場合の条件の例としては、土地を相続した親族が事業を引き継いで、相続税の申告期限まで事業を続けることです。また、土地を相続税の申告期限まで保有することも必要となります。
貸付事業以外の事業を営んでいた場合の条件としては、たとえば、土地を相続した親族が事業を引き継いで、相続税の申告期限まで事業を続けることがあります。また、相続税の申告期限まで土地を保有し続けることも必要です。
2つ目のパターンのように、被相続人等の居住のための土地の場合、被相続人が住んでいた場合の土地が代表的でしょう。そのケースでは以下のいずれかを満たすことが求められます。
- 配偶者が土地を取得すること
- 被相続人と同居していた親族が取得し、相続税の申告期限まで居住して所有し続けること
- 被相続人と非同居の親族が取得し、次の要件を満たす場合
・被相続人に配偶者がいないこと
・被相続人と同居している法定相続人がいないこと
・被相続人が亡くなる前の3年間で、日本にあるその人あるいはその人の配偶者、三親等以内の親族または特別の関係がある一定の法人の所有する家に居住したことがないこと
・相続開始時にその人が居住している家屋を相続開始以前にその人が所有したことがないこと
小規模宅地等の特例はご紹介した以外にも限度面積等の条件があるので、利用を検討しているなら専門家に相談するのも良いでしょう。
2-2. 500㎡以上の土地
500㎡以上の土地の場合にも、土地の評価額を減らすことができるかもしれません。地積規模の大きな宅地と呼ばれる土地の評価方法で、平成30年から使われるようになりました。亡くなった人の土地が三大都市圏以外なら1,000㎡、三大都市圏なら500㎡以上のときに、使える可能性がある評価方法です。土地というと一戸建ての土地のイメージがあるかもしれませんが、マンションの1部屋であってもマンション全体の土地で判断することができます。
土地が路線価地域にあるなら、普通商業・併用住宅地区または普通住宅地区にある必要があります。一方で土地が倍率地域にあるなら、大規模工場用地に該当しないことが条件です。ほかにも、土地が市街化調整区域に該当しないことや、工業専用地域にないこと、指定容積率が400%以上(東京都の特別区では300%以上)の地域にないことといった条件もあります。
すべての条件を満たす場合には、規定の補正率をふまえた計算によって土地の価格が評価されます。
2-3. 無道路地(道路に接していない、あるいは少ししか道路に接していない土地)
無道路地という、少ししか道路に接していない土地も評価額が下がる可能性があります。無道路地には、建物が建てられない接道義務を満たさない宅地も含まれます。
無道路地の価格を出すときには、以下の手順で計算します。
- 仮定として考えた通路を開設する
- 奥行価格補正後の価額を求める
- 不整形地補正後の価額を求める
- 通路の価額を差し引いて無道路地自体の評価額を求める
無道路地の評価額を算出するまでにさまざまな計算が必要になるので、順番に行っていきましょう。
2-4. 道路・通路になっている土地
公道から住宅への通路となっている土地や、その場所に住む人たちが使う生活道路で市町村が管理していないものは、私道と呼ばれます。私道は道路として使用されている場合には、宅地の評価額の3割にするとされています。さらには私道を不特定多数の人たちが利用して通っているのであれば、評価そのものの必要がないとされています。
一方で、特定の住宅への通り道として使っている路地状の敷地については、宅地としてそのまま評価しなければなりません。相続した土地が道路として使われているなら、どちらの評価スタイルになるのか確認してみましょう。
2-5. 形の良くない土地(不整形地)
形の良くない土地は不整形地と呼ばれ、最大で40%ほどの減額が可能です。不整形地は、正方形や長方形以外の土地を指します。
不整形地の補正率を知るには、かげ地の割合が重要です。かげ地とは、その土地を正方形や長方形である整形地で囲ったときにはみ出る部分のこととなります。
不整形地の評価額を算出するには、以下の4つの方法があります。
- 不整形地を分けて求めた整形地をもとに計算する
- 不整形地の地積を間口距離で除して出した奥行距離をもとに求めた整形地により計算する
- 不整形地に近似する整形地を出して設定した近似整形地をもとに計算する
- 近似整形地を出して隣接する整形地と合わせて全体の整形地の評価額を計算をし、隣接する整形地の評価額を引いた価額をもとに計算する
引き継いだ土地が不整形地であるケースは多いので、確認してみてください。
2-6. 道路との間に著しい高低差がある土地
道路との間に著しい高低差がある土地も、評価額が減額となる可能性があります。周囲の土地よりも著しい高低差がある場合には、評価額が10%減額となります。
注意すべきは、評価減できない場合もあることです。道路との間の高低差が著しいものと認められない場合や、減額の理由が路線価や固定資産税評価額に反映されている土地の場合は、評価減されることはありません。
2-7. 傾斜のある土地や、一部崖になっている土地
傾斜のある土地や一部が崖になっている土地も、評価額が減額となる可能性があります。通常は30°以上の急斜面がある土地をがけ地といいますが、このがけ地があれば評価額が下がります。
どれくらい補正されるのかは、土地の面積に含まれるがけ地の割合や、方角によります。ご自身の土地に傾斜があるようなら、利用できないか確認してみてください。
2-8. 幅員4m以下の道路に面する土地(セットバックが必要な土地)
幅員4m以下の道路に面する、セットバックが必要な土地も、評価額が減額となる可能性があります。セットバックとは、土地を所有していても一定の部分には建築できないことで、日本語では後退という意味です。
将来的にその土地で建て替えを行う際に後退して建てなければならないため、建築可能な面積が減ります。それによって、セットバックが必要な部分には70%減の評価額にすることが認められています。
2-9. 騒音、悪臭等周囲の住環境が悪い土地(線路や踏切に接しているなど)
騒音や悪臭など周囲の住環境が悪い土地も、評価額が減額となる可能性があります。たとえば、線路や踏切に接している土地のような場合です。
そのような土地の場合、騒音・振動によって利用価値が低下しています。それを理由に、評価額が10%減額されることがあるのです。騒音の基準については、環境省が定めています。
2-10. 都市計画道路の予定がある土地や、土地区画整理事業施行中の土地
都市計画道路の予定がある土地や、土地区画整理事業施行中の土地も、評価額が減額となる可能性があります。都市計画道路予定地が含まれる土地は、都市計画が事業認可されるまでは2階建て以下しか建てることができません。
それによって土地の利用価値が下がっていると判断され、評価額が下がります。都市計画道路予定地の範囲内になる部分が、都市計画道路予定地の範囲内ではないものとした仮定での価額に、地区区分や容積率、地積割合に応じた補正率をかけて算出します。
2-11.赤道(里道)や水路が中に通っている土地
赤道・里道や水路が中に通っている土地も、評価額が減額となる可能性があります。赤道が通っている場合には、赤道を土地と一緒に評価するパターンと、赤道と土地を分けて評価するパターンの2つがあります。赤道の払い下げが可能で、赤道と土地の利用状況が一体だといえるなら、一緒に評価できます。赤道と土地が分断されているなら、分けて評価することになります。
赤道と土地を一緒に評価する場合には「一体に評価された土地の評価額-(払い下げにかかる費用相当額または権利価格)=赤道が通っている土地の評価額」という計算式で評価額を算出します。払い下げとは、市役所や財務省が、赤道を売ることです。
また、水路を隔てた状態で土地があるなら、接道義務を満たしている場合には評価したい土地と橋、水路を含めた全体部分を想定整形地と考え、評価したい土地を除いた橋と水路部分をかげ地にして不整形地の計算を行って評価額を算出します。
2-12. 墓地に隣接している土地
墓地に隣接している土地も、評価額が減額となる可能性があります。
墓地周辺にあって利用価値が低下しているものと認められれば、評価減となります。路線価に反映されておらず、客観的に見てある程度の規模の墓地であることが必要です。条件を満たせば、10%の評価減となります。
2-13. 高圧線が通っている土地
高圧線が通っている土地も、評価額が減額となる可能性があります。
電圧17万ボルト以上で建物が建てられないパターンや、電圧17万ボルト未満で高さ制限があるパターン、電圧17万ボルト未満で高さ制限もないが嫌悪施設となるパターンが対象です。どれくらい評価減になるのかは計算が難しいので、専門家に相談してみてください。
2-14. 庭内神しの敷地
庭内神しの敷地も、評価額が減額となる可能性があります。庭内神しというのは、神の社や祠等のご神体を祀り日常礼拝に使っているもののことです。
庭内神しとその土地が密接不可分だと認められれば、土地も一緒に非課税財産となります。つまり、相続した土地のうち、庭内神しの敷地面積については非課税となります。
3.もし相続税申告が終わっていたとしても還付が見込める
もしもすでに相続税の申告が終わっていたとしても、還付が見込めるケースがあります。ここで、還付が見込めるものと見込めないものについて、それぞれ確認しておきましょう。
3-1.還付が見込めるもの
相続税を申告してから相続税の金額を下げられると気づいたなら、その分の差額を還付してもらえます。相続税の還付を請求するには、期日があります。申告期限から5年以内であれば差額の還付が見込めるので請求の手続きを進めましょう。
3-2.還付が見込めないもの
逆に、相続税の申告期限から5年が経過しているのであれば、差額があると発覚しても還付の請求はできません。申告が終わってからも、不安があるなら専門家に相談して期限内に還付請求を行うべきです。
4.まとめ
家や土地を相続することになったとき、土地の評価額は非常に大きな問題です。
土地の評価額を下げるためにはさまざまな方法があるので、ご自身が使えるものがないのか見てみましょう。
評価額の計算や、利用できる制度をすべて把握することは、簡単ではありません。
少しでも不安があるようなら、専門家に相談してみてください。