贈与契約書は代筆でも作成できる。作成方法や注意点について徹底解説します

贈与は口頭での契約も可能ですが、将来のトラブルを未然に防ぐということから贈与契約書を締結しておくのが望ましいと言えます。もし、当事者が署名することができない場合でも、代筆で贈与契約書を作成することが可能です。
どのような場合に代筆での贈与契約書の作成が可能なのか、どのようなことに注意しておく必要があるのかについて解説します。

1.贈与契約書とは

贈与契約書は、贈与の当事者同士で約束した内容を書面(契約書)で作成したものです。贈与契約自体は当事者同士が合意していれば口頭でも有効になるのですが、贈与契約書を作成しておくことには大きなメリットがあります。

2.贈与契約書を書く必要性とメリット

贈与契約書を作成しておくことで、「トラブルを未然に防ぐこと」や「贈与が発生した際に必要になる手続きをスムーズに進められること」といったメリットがあります。主なものには、次の4つが挙げられます。

2-1.贈与に関するトラブルが防止できる

贈与契約は当事者同士の口約束でも成立するのですが、契約書がない場合は、当事者の一方の意思表示で、贈与を途中で撤回することができます。
口約束の場合は、1,000万円相当の資産の贈与を約束していても、100万円分の贈与が行われた後で撤回される可能性もあるということです。贈与者が相続税対策で贈与しようとしていたり、受贈者が学費に充てるための贈与だったりする場合などは、撤回されてしまうと困ったことになる可能性もあるでしょう。
しかし、贈与契約書を締結している場合は一方的な撤回ができないため、贈与契約後のトラブルを未然に防ぐことができると言えます。

2-2.遺産相続トラブルも防止できる

贈与契約は遺産相続時にも影響があります。相続人のひとりが生前贈与を受けている場合、その分を考慮して遺産分割することで不公平なく相続を行うことができますが、口頭での贈与の場合は贈与金額についての証拠がないため、納得感のある遺産分割ができずにトラブルになってしまう可能性もあります。
贈与契約書があれば、生前贈与された金額の証明になり、遺産相続のトラブルを防ぐことができるでしょう。

2-3.贈与税・相続税の税務調査対策になる

税務調査が入った場合にも、贈与契約書の存在が役に立ちます。申告漏れや脱税は、贈与や相続の際に起きやすいため、税務調査が入ったときには贈与についても詳しく調べられます。その際、適切な贈与契約書で適切な申告が行われていることが証明できれば、税務署から贈与を認められないで課税されてしまうような事態を避けられるでしょう。

2-4.不動産登記(名義変更)がスムーズになる

不動産の贈与が行われた場合は、不動産の所有権移転登記を行い、名義変更する必要があります。所有権移転登記をするためにはその理由を記載しなければならないのですが、贈与契約書はその証明書類として活用できます。
そのため、不動産の贈与を行う場合には、贈与契約書を必ず作成しておくべきだと言えます。

3.贈与契約書は代筆で作成できる!

贈与をしようと思っても、事情があって当事者が自署できない場合もあるでしょう。そういった場合には、代筆で贈与契約書を作成することも可能です。
ただし、いかなる場合でも代筆で贈与契約書を作成できるわけではありません。どういった場合に代筆が可能なのか、代筆で作成する場合に注意しておくべきことはあるのか、解説します。

3-1.代筆が必要なケースとそれぞれの注意点

当事者が自署できず代筆で贈与契約を作成するケースとしてよくあるのが、

  1. 成人しており高齢・病気などで字が書けない場合
  2. 未成年者の場合

というケースです。
ただ、代筆であっても「本人の意思によって」贈与契約が締結されたことを客観的に証明できるようにしておくことが大切です。贈与契約書を代筆で作成する際、それぞれのケースで注意しておくべき点を理解しておきましょう。

3-1-1.①成人しており高齢・病気などのため字が書けない場合

高齢や病気のために字が書けない場合でも、成人していれば、贈与についての判断をすることは可能です。そのため、贈与契約書の代筆にあたり、贈与契約が間違いなく本人の意思によるものであることを示す客観的な証拠を残しておくことが大切です。

3-1-1-1.注意点1:贈与契約書に当事者の実印を押して印鑑証明書を添える

贈与契約書に押印するときに実印を使うことで、「本人しか持っていないもの」を使って契約締結したと示すことができます。その際、その印影が実印であることを証明するために、印鑑証明書を添付しておきましょう。原則として本人しか発行できない印鑑証明書を添付することで、形式上は本人が締結した契約であることを証明できるようになります。

3-1-1-2.注意点2:第三者に立ち会ってもらい署名をもらう

贈与契約書を作成する場に第三者に立ち会ってもらい、立会人にも署名をもらうことで、贈与契約が当事者双方の意思でなされたものであることの証人になってもらうことができます。
立会人は、その贈与契約で利害関係のない人に依頼するのがよいでしょう。ただ、その贈与契約が遺産相続の場でトラブルを引き起こしてしまう可能性があることが予想される場合は、あえて、トラブルになる可能性のある親族に贈与の内容を理解してもらったうえで立会人として署名してもらうという方法もあります。

3-1-1-3.注意点3:公証役場で確定日付をもらう

第三者に立ち会ってもらった上で、実印で贈与契約書を作成したとしても、これだけで完全に当事者双方の意思で贈与契約がなされたと証明できるわけではありません。当事者が選定した立会人のもとで締結した契約書であり、自分たちに都合のよい日付で贈与契約書を作成したと疑われてしまう余地があるためです。
そこで活用できる手段が、公証役場で確定日付をもらうという方法です。
確定日付とは、実質的な公務員と認められる公証人が行うもので、「その文書がその日付に存在していたことを証明するもの」です。公証役場で公証人が付与する確定日付は、公証人が確定日付印を押したその日付になるため、贈与契約書がその日付には締結されていたものだと証明することができます。

なお、より完全な贈与契約書としたい場合には、贈与契約書を公正証書として作成する方法もあります(詳細は後述)。

3-1-2.②未成年者の場合

未成年者は「制限行為能力者」にあたり、贈与などの契約に必要な判断能力が不十分だとされています。その点を踏まえて、贈与契約書を作成する必要があります。

3-1-2-1.注意点1:親権者(法定代理人)が当事者に代わり契約書作成に携わる

未成年者が贈与契約を締結する際、法定代理人と定められている親権者(父母または後見人)の同意が必要です。そのため、未成年者は親権者の同意のないまま、単独で贈与契約書を作成することはできません。
自ら契約書に署名ができる場合でも、未成年者が契約をする際は、親権者による同意の署名が必要とされています。贈与契約書を作成する場合でも、親権者が同意している旨を示すために、親権者も署名・捺印しておきましょう。

3-1-2-2.注意点2:幼児も代筆による贈与契約が可能

まだ贈与内容の理解や自筆での署名ができない幼児などが当事者となる場合は、代筆で贈与契約書を作成することが可能です。ただし、代筆できるのは法定代理人である親権者だけです。親権者以外の人が代筆した場合は、贈与契約が取消されてしまうこともあります。
なお、代筆で贈与契約書を作成した場合も、「未成年者の親権者」としての署名・捺印が必要です。

3-1-2-3.例外:単に権利を得るだけの内容ならば贈与者単独で贈与契約ができる

未成年者の法律行為には、民法5条のただし書きに例外規定が設けられています。法定代理人の同意を得なければならないが「単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りではない」とされています。
この規定から、金銭を受け取るだけの贈与の場合は、親権者の同意は必要ないということになります。しかし、ある程度まとまった金額の贈与を行う場合は、親権者の同意とともに贈与契約書を締結しておくのがよいでしょう。一般的な贈与と同様に、遺産相続の際のトラブル防止や税務調査があった場合の証拠書類とできることなどのメリットがあるためです。

4.贈与契約書を作成するときのポイント

では、贈与契約書を作成するにはどのようにすればよいのでしょうか。贈与があったことを客観的に証明することができるようにするためのポイントをお伝えします。

4-1.5つの必要な記載事項

どのような贈与が行われたのかを明確に記載する必要があります。そのために、下記の5つを記載しましょう。

  • 贈与した日付
  • 贈与者の住所・氏名
  • 受贈者の住所・氏名
  • 贈与財産
  • どのような方法で贈与するか

これらを記載の上、署名・捺印(実印で印鑑証明書の添付が望ましい)しましょう。

4-2.贈与契約書に決まった形式・書式はない

民法では、贈与契約にあたって書面での契約は求められていません。そのため、贈与契約書の形式・書式についても定められていませんが、上記の5つの事項がもれなく記載されていないと、贈与があった証明としての効果は失われてしまいますので注意しましょう。

4-3.贈与契約書は手書き・パソコンでも大丈夫

形式・書式が決まっていないため、契約書は手書きでも印刷されたものでも構いません。しかし、印刷だけでは誰でも作れてしまうため、信憑性に問題があるとも言えます。パソコンで作成した場合でも、署名と日付は手書きで記入するのがよいでしょう。

4-4.贈与契約書に記載する数字は単位まで正確に

贈与された財産がどれだけかを正確に記載しましょう。現金の場合は「1,234,567円」などのように単位まで記載します。不動産の場合は、登記されている内容に合わせて記載しておくのが望ましいです。

4-5.贈与契約書を公正証書にすることでリスクを軽減

公証人に依頼して贈与契約書を公正証書として作成すると、法律的に有効な贈与契約書を作成することができ、不備等によって無効とされるリスクを減らすことができます。
また、公正証書として作成された書類は、原本が公証役場で補完されるため、紛失や盗難のリスクがなくなるというメリットもあります。
贈与する金額に応じた手数料がかかってしまうのですが、トラブルを未然に防ぐためのコストとして、まとまった財産を贈与する場合には検討する価値があるのではないでしょうか。

4-6.当事者が公証役場へ行けなくても代理人による契約手続きが可能

公正証書の作成は、本人が公証役場に行けない場合でも、代理人による手続きが可能です。
ただ、不備等があると公正証書を作成できないため、事前に公証役場に委任状や必要書類について問い合わせて、適切に手続きができるように準備しておきましょう。

5.贈与契約書を専門家に依頼するメリット

ここまで贈与契約書を作成するメリットと代筆での作成にあたっての注意点をお伝えしましたが、贈与契約書の作成を税理士などの専門家に依頼するという方法もあります。
相続や贈与に強い専門家であれば、代筆での贈与契約書をトラブルなく作成するサポートをしてもらうことができます。さらに、書面上で問題がない贈与ができるようにするだけでなく、生前贈与が相続時に与える影響などを踏まえた贈与内容についてのアドバイスを受けられます。そうすることで、形式上だけでなく贈与の内容についても、将来のトラブルを未然に防ぐことができるでしょう。

6.贈与契約書の作成方法・注意点に関するまとめ

贈与契約は口頭で締結することも可能ですが、後のトラブルや税務調査などの際に証拠書類になることなどから、贈与契約書を交わしておくことが望ましいと言えます。ただ、贈与者が高齢であったり、受贈者が未成年であったりする場合には、贈与契約書にサインができない場合もあります。そのようなケースでは、代筆で贈与契約書を作成することも可能です。

代筆で贈与契約書を作成する場合、通常の贈与契約書よりも注意を払っておく必要があります。実印で印鑑証明書を添付したり、確定日付を活用したりすることで、客観的に見ても適切な贈与契約であることを証明できるようになりますが、慣れていない人ではスムーズに作成するのは難しいでしょう。
そこで、専門家のサポートを受けることが考えられますが、贈与は贈与税や相続税とも関係が深いものです。税金に関する相談もできる税理士に相談することをおすすめします。
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