みなし贈与とは?定義や当てはまるケース、回避する為の方法も紹介

みなし贈与とは、「贈与とみなす」という意味です。「本来の贈与」のように、双方の合意がなくても(贈与の意図が双方ともになくても)実質的に贈与を受けたことと同じように経済的利益があるならば、贈与があったとみなされる行為です。

贈与とみなされるということは、贈与税がかかってしまう可能性があるということです。

うっかりみなし贈与を行って課税されてしまわないよう、この記事をよく読んで対策を取りましょう。

この記事では、「みなし贈与」について知っておくべき知識から、「みなし贈与」となるかもしれない注意したいケース、「みなし贈与」を回避する方法までご紹介します。

 

1.みなし贈与とは「贈与の意図はなかったが、贈与を行なったとみなされる行為」

双方の合意なく、贈与の意図もなかったが、贈与を行なったとみなされる行為が「みなし贈与」です。

「本来の贈与」の場合、当人たちが《贈与行為を行なった》という認識があるため、贈与税の支払いをする可能性があることを知っていますから、大きな問題にはなりません。

しかし「みなし贈与」の場合、当事者たちに《贈与行為を行なった》という認識がないことが多く、贈与税の支払いを怠ることが多くなります。

税務署が税務調査に入った時に指摘された後で、初めて「みなし贈与」のことを知ったという人が多い状況です。

ここでみなし贈与と判断される基準について知っておきましょう。くわしくは2章以降でご紹介します。

みなし贈与の判断基準

「社会通念上著しく低い価格」で取引することで、実質的に贈与となっていることや、相手に経済的利益が生じるような場合には、みなし贈与と判断されます。

※明確な基準が法律で定められているわけではなく個別に判断されます。

 

2.みなし贈与に関して知っておくべき4つの知識

みなし贈与について、知っておくべきことが4つあります。

1.みなし贈与は相続税逃れを防ぐために作られた

2.みなし贈与は贈与税課税対象となるので重税である

3.みなし贈与にあたるかどうかは税務署がケースごとに判断する

4.みなし贈与は取引を行なった後の対策がない

上記をひとつずつ解説します。

 

2-1.みなし贈与は相続税と贈与税逃れを防ぐために作られた

みなし贈与は相続税と贈与税逃れを防止するために作られたと言われています。

ここで税について整理しておきましょう。

【相続税】

相続等によって財産を取得した場合に、その取得した財産に課される税のことです。 財産の価額が高くなるほど税率が上がる超過累進税率を適用し、「資産の再分配を図る」という役割を果たしています。

【贈与税】

個人から贈与により財産を取得した場合に、その取得した財産に課される税のことです。 生前に贈与することで相続税の課税を逃れようとする行為を防いで、相続税を補完する役割を果たしています。

※資産の再分配(富の再分配とも言う)とは、租税・社会保障・福祉・公共事業などにより、社会の中で富を移転させることを言います。国などが、大企業や富裕層の所得・資産に累進的に課税して得た資産(富)を、社会保障・福祉などを通して経済的弱者にもたらすことです。

国民が納める税金の中でも、相続税と贈与税は税率が高いことが知られています。相続税や贈与税は財産の額が高ければ高いほど税率が上がり、相続税:(6億超を相続した場合)、贈与税:(4500万超えの贈与をした場合)最高で55%まで上がります。

相続税は財産の額が高ければ高いほど税率が上がる超過累進税率を採用しているため、多くの財産を持つ富裕層は、相続税が多額にならないように、生前贈与をすることで相続税を納めずに済む対策をしたいと考える方が多いでしょう。

しかし、贈与税はこういった相続税を納めることから逃れるために生前贈与をすることを防止する目的で作られたため、贈与税は相続税よりも高い税率が設定されています。

そしてさらに、税率の高い贈与税から逃れるために、本来の贈与ではなく「低価格で売買する」という行為が行われるようになったため、これらの行為を「みなし贈与」と呼ばれるようになったのです。

 

2-2.みなし贈与は贈与税課税対象となるので重税である

みなし贈与は、贈与税課税の対象となりますが、贈与税は相続税逃れのために作られているので、税率が相続税よりも高くなります。

  基礎控除後の課税価格
税率 一般贈与の場合 直系卑属の場合
10% 200万円以下 200万円以下
15% 300万円以下 400万円以下
20% 400万円以下 600万円以下
30% 600万円以下 1000万円以下
40% 1000万円以下 1500万円以下
45% 1500万円以下 3000万円以下
50% 3000万円以下 4500万円以下
55% 3000万円超 4500万円超

出典:国税庁「No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)」 

さらに、贈与税の申告をしないと、延滞税(最大年14.6%)と加算税(15%~40%)が課されます。

 

2-3.みなし贈与にあたるかどうかは税務署がケースごとに判断する

1章でご紹介しましたが、みなし贈与の判断基準は法律などで決められているわけではないので、明確な基準とは言えず、過去の裁判の判決などを元に判断しているのが実情です。なので、個々の難しいケースの場合は、税務署が判断することになります。

たとえば、親族間で著しく低い価格で土地の売買を行なったとします。

親が持つ3000万円の価値のある土地を、子に対して1500万円で売るといったケースです。通常であれば3000万円で売れる土地を半額の価格で子に売ったのですが、当事者は贈与ではなく売買だと思っています。しかし、税務署の解釈では、子が1500万円の得をしているので贈与であるとの判断を下します。

この贈与であると判断された部分を「みなし贈与」と呼び、みなし贈与となった部分(この場合は1500万円)について贈与税がかかることになります。

では、親が2500万円で売った場合ではどうなるのでしょうか?子は500万円得をしたことになりますが、税務署はどう判断するのでしょうか。

類似のケースの過去の裁判の結果は以下のようになっています。

”著しく低い価格” としての目安は、土地取引の場合であれば、「時価の80%未満の価格」を指すとの判断されている(東京地方裁判所の平成19年8月23日判決)

想定になりますが、2500万円で売却すれば、「時価の80%未満の価格」とはならないので、過去の判例から贈与税はかからないと思われます。

実際に税務署がどう判断するかは、さまざまな事情を考慮の上“社会通念にしたがい”判断されるということを覚えておきましょう。

 

2-4.みなし贈与は取引を行なった後の対策がない

一番気をつけたいことは、気づかずにみなし贈与となる行為を行なってしまうことです。気づかずに行なっているので、後になって税務署等の調査が入ってから発覚することが非常に多いのですが、発覚してから節税できるような方法はなく、対策を取ることができないので十分注意することが必要です。

 

3.注意したい「みなし贈与」となるケース

気づかないうちに行なってしまうことが多い「みなし贈与」なので、みなし贈与となるケースを事前に知っておくことが大切です。

  1. 不動産や土地の譲渡
  2. 株式の譲渡
  3. 低額譲渡
  4. 預金の移動
  5. 生命保険の名義変更
  6. 借金(お金の貸し借り)
  7. 債務免除
  8. 離婚の財産分与
  9. 納税義務の肩代わり

ここでは、上記の9つのケースについて紹介します。後で気づいたとしても、みなし贈与には対策がないことを踏まえて、しっかりと覚えておくようにしましょう。

 

3-1.不動産や土地の譲渡

2章ですでに触れましたが、土地などの不動産の売買において、「時価の80%未満」で取引された場合は、みなし贈与に該当するという判断が過去にされており、これが現在の実務の基準となっています。

この基準に照らし合わせれば、身内に安く土地を譲りたいが贈与税は回避したいということであれば、時価の80%以上の価格で売却を行えばよいということになります。

また、親が建てた家を、親名義にせず子ども名義にすることもみなし贈与と判断されます。ただし、子どもが家を建てたり購入するために親がお金を出してあげる行為は、一定金額まで贈与税がかからないようになっています。

 

3-2.株式の譲渡

持っている株式(株主としての権利)を、自分以外の誰かに譲ることを株式の譲渡といいます。株式の譲渡を行う場合、通常の株価に比べて著しく安く譲る行為は、みなし贈与と判断されます。

証券取引所を介して第三者へ売却する場合は、市場価額に則った適正な価格で譲渡されますが、個人的に譲渡する場合は価格を自由に決められるため、家業としている会社の経営権を子供に渡すために、自分の所有している株式を子どもに安く譲るようなケースがあり得ます。

株式の譲渡の場合、贈与税がかかるかどうかは、土地売買のケースの「時価の80%未満」が判定基準として使われていることが多いようです。

 

3-3.低額譲渡

不動産だけでなく、美術品などの動産を著しく安い金額で譲渡する場合も、みなし贈与と判断される可能性があります。これに関しては、2-3.でご紹介した通り、法律等で定められた基準はなく、個々のケースごとに判断されます。

借金の返済のために、安く財産を譲ってあげるというような場合は、例外として非課税となるケースもあります。

 

3-4.預金の移動

身内に一時的にお金を預ける際には気をつけるようにしましょう。配偶者や子供に一時的に金銭を預けたという場合も贈与と判断されてしまう可能性があります。

たとえば、子供に預けた500万円を子供が自分の預金口座に入金した場合、贈与で500万円もらった場合と、500万円預かっているだけの場合の見分けがつかなくなります。

預けているだけの場合は、その事実を証明するようにして、一定期間経過した後には返金してもらうようにしましょう。

介護などで、自分の財産を第三者に管理してもらう場合にも、贈与と見た目が変わらなくなってしまうので、その事実を書面等で残すようにしましょう。

 

3-5.生命保険の名義変更

生命保険の名義を変更したい場合には気をつけるようにしてください。生命保険の契約者を配偶者や子に変更すると、みなし贈与と判断されることがあります。この場合、課税が行われるタイミングは保険金を受け取ったときです。

贈与税課税対象の判断は、誰が保険料を払って誰が保険金を受け取るのかで行われます。

生命保険は、一定期間の保険料の支払いの後、解約や満期を迎えると返戻金や保険金が受け取れます。このため、生命保険の名義変更を行うと利益が移転したと考えられます。

たとえば、1年間の保険料が50万円、20年満期で1000万円受け取れる保険があるとします。夫が保険料を払い続けて15年目になってから、保険の契約者と受取人を夫からその子供に変更するとどうなるでしょうか。

この場合、子供が保険料を負担した額は5年分の250万円なので、受け取った1000万円から250万円を引いた750万円が贈与税の対象となります。

 

3-6.借金(お金の貸し借り)

身内同士のお金の貸し借りにも注意しましょう。金銭的な援助をしたい気持ちから、あまり意識せずにお金の貸し借りは行われてしまうことが多いですが、無利息、または利息の利率があまりにも低い場合は、みなし贈与と判断されることがあります。

ただし、高額な借金ではない場合、利息を取ってもかなり低額になるような場合は、非課税になるのが実務上の判断になっているようです。

 

3-7.債務免除

親が子どもに貸したお金を、子供が親に返済することを免除する行為も、みなし贈与と判断されることがあります。 たとえば「1,000万円貸したが、100万円返せばいい」とするような場合です。この場合は、900万円を贈与したとみなされて贈与税がかかる可能性があります。

 

3-8.離婚の財産分与

離婚の際の財産分与の割合があまりにも多額の場合にも、みなし贈与と判断される可能性が高くなります。 本来、財産分与で得た財産には税金がかかりません。しかし、贈与税の支払いから逃れるために、離婚の財産分与の制度を利用したと判断された場合は、みなし贈与に該当してしまうことがあります。

 

3-9.納税義務の肩代わり

自分以外の人の納税義務を肩代わりすると、その肩代わりした金額分がみなし贈与と判断されます。 たとえば、子どもが本来支払うべき税金を親が代わりに支払うといった行為です。このような場合も、その税金額の金銭を子供に贈与した行為として判断されてしまうのです。

 

4.みなし贈与を回避する方法

みなし贈与となるケースについて理解した後は、みなし贈与を回避する方法も知っておきましょう。 贈与税がかからないようにできる金額や方法はありますので、それをしっかり守って節税対策を行なってください。

 

4-1.生活費の贈与はみなし贈与にならない

本来は配偶者間や家族間であっても贈与税は発生しますが、生活費や教育費、年老いた親の面倒をみる費用など、社会通念上で妥当と認められるものについては贈与税はかかりません。

しかし、一括で贈与を受けてしまうと贈与税の対象となってしまうので、毎月必要に応じて贈与を受ける必要がある点に注意しましょう。

~生活費として、非課税で贈与を受け取る~

例)大学生の子供に仕送りをする

毎月10万円を生活費として4年間に渡って贈与する(合計480万円):非課税

入学時に480万円をまとめて渡す(贈与する):贈与税が課税される

 

4-2.毎年110万円までの非課税枠を活用する

贈与税にはいくつかの非課税枠がありますので、それらをうまく使い、贈与税が発生しないようにすることが可能です。

非課税枠の中でも一番利用できるのが、110万円の基礎控除です。暦年(1月1日~12月31日)ごとに贈与する暦年贈与の形態を取れば、贈与された人1人あたり年間110万円までは贈与税が非課税となります。

たとえば、1年間に300万円を贈与された場合は、110万円を引いた190万円に贈与税が課税されます。一方、1年間に110万円以下の金額を贈与された場合は、贈与税は課税されず、申告する必要もありません。

暦年贈与を使った贈与税対策としてよく知られているのは、年間110万円を複数年にわたって贈与する方法です。年間の贈与額が110万円以下であれば、複数年にわたって贈与しても贈与税はかかりません。

しかし、贈与契約の方法によっては、合計額を一括で贈与したとみなされて贈与税が課税されることもありますので注意が必要です。

この他にも以下のような非課税枠があるので、該当するかどうかチェックしてみてください。

  • 贈与税の配偶者控除(おしどり贈与):2,000万円まで非課税
  • 相続時精算課税制度:一時的に2,500万円まで非課税
  • 住宅取得資金等の贈与:最大1,200万円まで非課税
  • 教育資金の一括贈与:1,500万円まで非課税
  • 結婚・子育て資金の一括贈与:1,000万円まで非課税
  • 障害者への贈与:最大6,000万円まで非課税

 

5.自分で判断できないケースは税理士に相談する

みなし贈与に該当するケースは、住宅購入や保険、金銭の貸し借り、離婚などさまざまな場面にあり、どの場合がみなし贈与に該当するのか、明確に判断された事例がそれほどないため、素人判断を行うのは非常に危険です。

気づかずにみなし贈与を行ってしまい、あとで税務署から贈与であると指摘されてしまった場合には、多額の税金を納めることになってしまいます。

不動産をはじめ、生命保険や株式、宝石や美術品などの高額商品など、なにかしらの財産を移動するという行為を行った際には、必ず税金が絡んでくると覚えておくようにしましょう。

自分では判断できないむずかしいケースの場合は税理士に相談しましょう。

 

6.まとめ

みなし贈与とは、「本来の贈与」とは違うやり方で財産などの受け渡しを行うことをいい、贈与税の課税対象になることがあります。

ここで注意したいみなし贈与となるケースを復習しておきましょう。

  1. 不動産や土地の譲渡
  2. 株式の譲渡
  3. 低額譲渡
  4. 預金の移動
  5. 生命保険の名義変更
  6. 借金(お金の貸し借り)
  7. 債務免除
  8. 離婚の財産分与
  9. 納税義務の肩代わり

みなし贈与の判断は、特に親子間売買のような親族間の取引で、税務署から価格を厳しくチェックされることになりますので注意が必要になります。

明確な基準が法律で定められているわけではなく個別に判断されますので、素人判断を行うのは非常に危険です。自己判断がむずかしいケースの場合は専門家に相談するようにしましょう。

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