相続税は計算が複雑なことに加え、節税を図るうえで覚えておくべき制度も多いため、相続税対策は期間に余裕をもって進める必要があります。
しかし、親が余命宣告を受けるなどして、相続税対策に突如タイムリミットが生じることも珍しくありません。
そんなとき、相続税についてどこまで知っておけばいいのか?
短期間で実行可能な節税対策はあるのか?
これから解説していきますので、遺産相続を控えている方は是非参考にしてみてください。
1. 余命宣告を受けた時に確認したい相続税と贈与税のルール
まずは遺産相続にかかる相続税、および生前贈与にかかる贈与税について、基本的なルールを列挙しておきます。
基本を押さえておくだけでも、遺産相続が差し迫った際の心持ちにある程度は余裕を持てることでしょう。
1-1. 相続税はいくらから発生するか
相続税の有無を調べるにあたっては、まず純粋な遺産の価額から、葬儀費用や故人の債務、そのほか非課税財産を差し引きましょう。(非課税財産の対象については後述)
そうして求めた「正味の遺産額」のうち、基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人数)を上回る分のみが、課税遺産総額として相続税の対象になります。
例として、法定相続人が配偶者+子ども2人で、正味の遺産額が1億円のケースを見ていきましょう。
この場合、基礎控除額は4,800万円で、残りの5,200万円が課税遺産総額となります。
ただし配偶者控除の存在により、配偶者個人の相続額が1億6,000万円以下の場合、そこには相続税がかかりません。
また、配偶者+子どもで相続する場合、法定相続割合は配偶者が2分の1で、残りを子ども全員で等分する形になります。
ゆえに今回のケースでは、以下のような相続税計算を行うことになります。
<相続税計算(税率・控除額は速算表参照)>
- 配偶者:取得額2,600万円に対して相続税0円
- 子ども1人あたり:{(5,200万円-2,600万円)÷2} × 税率15%-控除額50万円=145万円(2人計290万円)
なお、課税遺産総額が基礎控除額以下の場合、相続税の申告・納税は必要ありません。
ただし、配偶者控除をはじめとした特例を利用している場合は、相続税が0円でも申告が必要となるので注意してください。
1-2. 贈与税はいくらから発生するか
贈与税には暦年課税と相続時精算課税の2種類あり、どちらを選ぶかで課税範囲が変わります。
暦年課税とは、1年間に受けた贈与の合計価額のうち、基礎控除110万円を上回る分に贈与税が課される仕組みです。
また、暦年課税はさらに「一般贈与」と「特別贈与」に分類され、18歳以上の人が父母や祖父母から贈与を受けた場合は特別、それ以外の贈与は一般に該当します。
特別贈与と一般贈与では、課税価格ごとの税率や控除額が異なるため、多方面から贈与を受けている場合は以下のような計算が必要です。
<特別贈与と一般贈与を500万円ずつ受けた場合の贈与税(税率・控除額は速算表参照)>
- 特別贈与税:{(500万円-基礎控除110万円) ×15%}-控除額10万円=48万5,000円
- 一般贈与税:{(500万円-基礎控除110万円) ×20%}-控除額25万円=53万円
- 合計:特別贈与税+一般贈与税=101万5,000円
一方の相続時精算課税は、贈与者が亡くなる年までに行われた贈与の総額を相続財産の価額に加算し、相続税として一括で納付する仕組みです。
18歳以上の人が60歳以上の父母・祖父母から贈与を受けた際、その翌年3月15日までに選択届出書などの必要書類を提出することで利用できます。(届出後、暦年課税への変更は不可)
暦年課税と同様に基礎控除が適用されるほか、相続発生までの全年合算で2,500万円の特別控除が設けられており、下記の条件を満たす限り贈与税は一切発生しません。
「年間贈与のうち基礎控除を超えた金額」の全年合算≦2,500万円
なお、特別控除枠を使い切ったあとは毎年、基礎控除を超える分に一律20%の税率が課されるものの、そこで支払った贈与税額は相続税から控除されます。
1-3. 生前贈与の持ち戻し期間
生前贈与の持ち戻しとは、暦年課税の対象者が相続発生日の直近数年間に受け取った贈与を、相続時に相続財産へ加算する制度です。
具体的な持ち戻し期間は元々3年間でしたが、直近の法改正により、2024年1月以降の贈与については最大7年間となりました。
相続財産へ加算する上で贈与税の基礎控除は適用されないものの、相続発生日の4~7年前の贈与に関しては、総額100万円を超える金額のみが持ち戻しの対象となります。
<持ち戻し期間のカウント例>
- 2026年に相続発生の場合:2023~2026年の3年間
- 2029年に相続発生の場合:2024~2029年の5年間
- 2032年に相続発生の場合:2025~2032年の7年間
余命宣告を受けてから生前贈与を始めても、高い確率で全額持ち戻しとなってしまうでしょう。
また、持ち戻しになっても「贈与として扱われなくなる」わけではなく、贈与税は贈与税で必要に応じて申告・納税する必要があります。
ただし、贈与税として納付済みの金額は相続税から控除されるため、二重課税にはなりません。
相続時精算課税に関しては、そもそも贈与総額を相続財産にカウントする制度なため、持ち戻しの考慮は不要です。
また、暦年課税とちがい、精算時には贈与を受けた年数分の基礎控除、および特別控除をしっかり適用できます。
2. 相続税対策
ここからは相続税の減免につながる特例、および遺産の価額から差し引ける非課税財産について触れていきます。
2-1.保険金を活用する
非課税財産の中でも代表的なものの1つが、生命保険の死亡保険金です。
死亡保険金は「500万円×法定相続人の数」までなら、受け取る人数や割合にかかわらず全額免除となります。
保険金は納税資金としても役に立つため、加入可能な生命保険があるなら契約しない手はありません。
ただし、余命宣告後に加入できる生命保険となると、選択肢は非常に限られてきます。
告知前に下記のような保険に加入しているか確認しましょう。
まず検討したいのが、「リビングニーズ特約」付の生命保険です。
リビング・ニーズ特約とは、被保険者が余命6ヶ月以内と診断された際、死亡保険金の一部または全部を生前給付金として受け取れる制度です。(上限3,000万円)
生前給付金は全額非課税所得となっている反面、相続開始日時点での残金には通常通り相続税がかかります。
給付金を使い切ることさえできれば、本来の非課税枠を上回る節税も可能ですが、大金を受け取る場合は事前に確実な消費計画を立てておきましょう。
次に検討したいのは、保険料を一括で支払うタイプの「一時払個人年金保険」です。
本来は将来受け取る年金を増やすための保険ですが、年金を受け取る前に被保険者が亡くなった場合は、支払済みの保険料を遺族が死亡保険金として受け取れます。
ただし年金の受取が始まってしまうと、非課税財産に数えられなくなるので注意してください。
2-2. 小規模宅地等の特例を活用する
土地は相続財産の中でも、特に評価額が高くつきやすく、相続税を払えないがために売却せざるを得ないケースも少なくありません。
そこで利用したいのが、被相続人が居住または事業に供していた土地を対象とする「小規模宅地等の特例」です。
具体的な減額率や限度面積は、以下のパターンに大別されます。
- 居住用宅地:330㎡を上限に80%減税
- 貸付以外の事業用宅地:400㎡を上限に80%減税
- 貸付事業用宅地:200~400㎡を上限に50~80%減税
特例の提供を受けるには、当該宅地での居住(配偶者除く)もしくは事業を、相続税の申告期限日まで継続している必要があります。
厳密には他にも様々な要件があるほか、評価額計算や遺産分割協議など申請段階の手間も多いので、実際に利用する際は税理士法人の力を借りましょう。
2-3.養子縁組を活用する
相続における最もシンプルな節税対策は、基礎控除に係る法定相続人の数を増やすこと、すなわち養子縁組の活用です。
通常、被相続人に実子がいる場合は養子一人、いない場合は養子二人まで法定相続人に含められます。
例外は特別養子縁組を結んでいる場合や、配偶者の連れ子を養子にしている場合で、これらに当てはまる子どもは人数制限なしで法定相続人に含まれます。
ただし、「相続税の負担を不当に減らしている」と税務署に認められた場合、対象の養子を法定相続人に含められなくなるので注意しましょう。
2-4.お墓などの祭祀財産(非課税財産)を生前に購入する
仏壇や神棚、お墓といった祭祀財産は、特に条件なく非課税財産に含められます。
被相続人が余命宣告を受けた家庭にとっては、近い将来使う可能性が高いものですから、入り用な品は生前に購入しておきましょう。
数量や金額が常識の範囲内である限り、税務署に課税逃れ等を指摘される心配はありません。
ただし、祭祀財産を所有している場合には、相続人同士の合議もしくは家庭裁判所にて「祭祀承継者」を決める必要があります。
ひとたび承継者に指定された人は、無期限で祭祀財産の管理を担うことになり、この義務は相続放棄でも免れません。
2-5. 持ち戻しとならない贈与の制度を活用する
相続税対策にあたっては、贈与税の特例を利用した持ち戻しの防止も有効です。
利用可能な制度の一例を以下で紹介していきます。
贈与税の配偶者控除の特例
贈与税の配偶者控除の特例は、婚姻期間20年以上の夫婦間で居住用の土地や建物、もしくはそれらを取得するための金銭が贈与された場合に適用できる制度です。
対象の贈与を翌年3月15日までに申告することで、従来の基礎控除に加えて更に2,000万円の配偶者控除を受けられます。
申告にあたっては登記事項証明書や評価明細書などの追加書類を求められるほか、取得した不動産には申告期限日の時点で実際に居住している必要があります。
住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置
住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置は、父母や祖父母から取得した居住用家屋、もしくは新築・増改築の資金を対象とした制度です。
対象の住宅が「省エネ等住宅」と認められる場合は1,000万円、その他の住宅でも500万円の非課税枠を利用できます。
利用を検討する際はまず住宅性能証明書を入手し、対象の家屋が以下の適用要件のいずれかを満たしているか確認しましょう。
- 断熱等性能等級5以上かつ一次エネルギー消費量等級6以上
- 高齢者等配慮対策等級3以上
- 耐震等級2以上
- 免震建築物
教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置
教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置とは、30歳未満の人が父母や祖父母から特定贈与を受けた場合に、贈与税が最大1,500万円まで控除される制度です。
特定贈与には信託受益権、および書面贈与をもとにした教育資金口座が該当し、制度申請にあたっては金融機関での手続きが求められます。
教育資金には、学校や習い事に関する出費が一通り含まれますから、子育て中の家庭においては積極的に利用すべきでしょう。
相続開始日時点での残金は相続財産として扱われるほか、教育資金に無関係な出費は支出額計算に加えられないので、使途や支出計画は事前にしっかり定めておいてください。
結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置
結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置とは、18~49歳の人が父母・祖父母から特定贈与を受けた際に、贈与税が最大1,000万円まで非課税となる制度です。結婚資金(上限300万円)には婚礼費用や新居費用、子育て資金には妊娠・出産周りの医療費や子どもの保育料などが該当します。
特定贈与の対象資産、および相続発生時の残金の扱いに関しては、教育資金の非課税処置と変わりません。
3. その他の相続対策
相続税対策において考えるべきことは、なにも節税だけではありません。
無用なトラブルを避けるためにも、以下の2点はしっかり準備しておいてください。
3-1.公正証書遺言の作成(争族対策)
公正証書遺言とは、法の専門家である公証人が、被相続人の意思をもとに正確な遺言書を作成する方式です。
自筆とちがって必要な記載事項を確実に満たせるため、遺言書の無効化によって争族に発展する心配はありません。
また、作成した遺言書は公証役場に保管されるため、親族による隠ぺいや改ざんも確実に防げます。
3-2.納税資金の確保
税額控除に関する制度は軒並み要件が細かい上、適用可否の判断には税務署の裁量も影響するものです。
そのため、控除を使える前提でギリギリの資金繰りをしていると、万が一適用できなかったときに納税が滞るおそれがあります。
ゆえに納税資金に関しては、「基礎控除以外の一切を適用せずに算出した相続税額」を全額確保しておくよう心がけてください。
まとめ
以上、余命宣告を受けてからでもできる相続税対策、および贈与税の持ち戻しを防ぐための特例活用について解説しました。
実際に相続税対策を検討する際は、税理士など法律の専門家にまずは一度相談してみてください。
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