遺言には、自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言の3種類があります。このうちの秘密証書遺言は、内容を秘密にしたまま存在だけを公証役場で証明してもらうことができる遺言です。
3種類の遺言にはそれぞれメリット・デメリットがあるためご自身の状況に合った種類の遺言を選ぶのが一番ですが、秘密証書遺言はオススメできません。詳しくは後ほどご説明しますが、遺言に関する制度が変わってきたことで、秘密証書遺言特有の良い面が薄まってきています。
実際、公正証書遺言が年間11万件作成されているのに対し、秘密証書遺言は年間100件とマイナーな遺言です。
残された人たちのために確実な遺言を準備するためには、公正証書遺言をオススメしています。
ここでは、秘密証書遺言がどういった特徴をもつ遺言なのか、オススメできない理由についてご説明していきます。
デメリットを踏まえたうえでそれでも秘密証書遺言を作成したい人向けに、作成上の注意点についても触れます。秘密証書遺言を作成するかどうかの判断材料にしてください。
1.秘密証書遺言とは
秘密証書遺言とは、内容を秘密にしたまま存在だけを公証役場で証明してもらう遺言のことです。
自分で用意した遺言に封をした状態で公証役場に持っていきますから、遺言の中身が他人に知られることはありません。亡くなった人が遺言を書いていたかどうかわからない時は、公証役場に問い合わせれば遺言の有無(存在)は確認できます。有るとわかれば、自宅や保管してありそうな場所を探せばいいわけです。
秘密証書遺言がどういったものなのかは、作成の流れを見た方がわかりやすいので下記をご覧ください。
① 遺言の本文を作成する
遺言の内容を考え、書面に起こします。
署名さえ自分で書ければ作成できます。
※代筆・ワープロでも可
② 遺言に封をして公証役場へ持参する
遺言に封をしてから押印し、公証役場に持参します。
公証人と2人の証人の前で、自分の遺言書であることを証明してもらいます。封がしてありますから中身を誰かに見られる心配はありません。
③ 遺言を持ち帰り、自分で保管する
公証役場で手続きが終わったら、遺言を持ち帰り自分で保管します。
封と押印がしてありますから、中身が他人によって偽造・変造される心配はありません。
このように、内容を誰にも知られることなく、その遺言が本人の遺言書であることを証明してもらうのが秘密証書遺言です。
他の種類の遺言と比べてどうかというと、一言でいってしまえば秘密証書遺言は「公正証書遺言と自筆証書遺言の合いの子」のようなものです。合いの子と言える理由が2つあります。
一つ目は、費用面です。
自筆証書遺言は特に費用がかからないのに対し、公正証書遺言は遺言に書く財産の規模に応じて費用が変わってきます。秘密証書遺言は手数料が一律11,000円です。
二つ目は、遺言の保存の確実性です。
自筆証書遺言は、ドラマなんかでよくあるように相続人によって書き換えられてしまったり、紛失してしまったりということがあります。そもそも書いていたのを知らなかった、なんてこともあります。
公正証書遺言は、検索システムを使って遺言書の存在があるかを調べることができますし、公証役場に原本が保管されていますから偽造や変造の心配がありません。
上記2つに対し、秘密証書遺言は押印後封がされている状態になりますから、他人が手を加えることはできません。遺言の有無に関しても相続人であれば公証役場に問い合わせることができます。
ただし、遺言に関する制度が見直され、2020年7月から自筆証書遺言を法務局で保管する制度ができましたから、秘密証書遺言のメリットが少し薄まってしまいました。
ここで、秘密証書遺言と他の種類の遺言の違いを整理しますから、下の表で見比べてみてください。
上記の表を見ると、秘密証書遺言は項目によって他の遺言と同じ特徴を持っているのがわかると思います。秘密証書遺言特有のメリットはあまりありませんから、オススメ度が×になっています。
2.秘密証書遺言をオススメしない4つの理由
ここでは、秘密証書遺言をオススメしない理由をわかりやすく説明します。
他の遺言と比較しながら解説しますから、どの遺言を残すのか選ぶときの参考にしてください。
2-1.内容が法的に有効でない可能性がある
秘密証書遺言は、基本的には自分で書いて内容を秘密にできるため、法的に有効でない遺言になってしまっている可能性があります。
法的に有効でない遺言とは、遺言の形式を守れていなかったり、誰に何の財産を渡すのかが不明確で曖昧な文章になっていたりする遺言のことです。
遺言の内容をあらかじめ法律に精通した専門家に確認してもらってから、秘密証書遺言として公証役場に持っていくのであれば有効な遺言を残すこともできるかもしれません。
ですが、有効な遺言を作成するという目的においては、公証人に作成してもらう公正証書遺言にすれば、わざわざ秘密証書遺言にする必要はありません。
せっかく書いた遺言が無効になってしまったら、自分の思いを子や孫、財産を渡したい相手に伝えることができません。また、財産を分けようとするときに相続人の間で揉めてしまい争いに発展してしまうこともあります。
円満な相続にするためには、公正証書遺言で有効な財産を残すのが一番です。
2-2.手続きの手間や費用がかかる
遺言を作成する上で、費用面が気になる人も多いのではないでしょうか。
費用面だけでいえば、自筆証書遺言であれば自分で書いて自分で保管するだけですからほとんど費用がかかりません。
秘密証書遺言は公証役場に手続きをしに行く手間がありますし、11,000円の手数料と証人一人当たり5,000円~1万円の費用がかかります。
遺言の存在を証明するためだけに最低2万円の費用をかけるべきか、よく考えてみてください。
2-3.遺言の中身の確認に家庭裁判所の検認が必要
遺言を残した人が亡くなったら、遺言を見つけた人や家族が勝手に開封してはいけません。家庭裁判所で検認の手続きが必要です。
遺言の偽造や変造を防ぐ目的で、きちんとした方式で作成されているか日付・署名・捺印などを確認してもらいます。
この手続きは1ヶ月以上かかりますから、その間は待つ必要があります。
公正証書遺言であれば、偽造や変造の可能性がありませんから、家庭裁判所の検認を受ける必要はありません。
2-4.遺言書の滅失・隠匿の心配がある
秘密証書遺言は、存在だけを公証役場で証明してもらった後自分で管理しなければいけません。万が一遺言書を紛失してしまったり、誰かの手によって隠されたりした場合、作成した意味が無くなってしまいます。
公正証書遺言では原本が公証役場に保管されますから、滅失・隠匿の心配はありません。
3.秘密証書遺言作成上の4つの注意点
ここまで、秘密証書遺言はあまりオススメしないことをお話してきましたが、どうしても秘密証書遺言で書きたいという人もいることでしょう。費用が安く済みますし、自分で書いても無効にならなそうな簡単な内容の場合には秘密証書遺言を選ぶ人もいると思います。
ここでは秘密証書遺言を無効な遺言にしないようにする為の注意点を5つ紹介します。
3-1.できる限り自筆で書く
秘密証書遺言は自筆証書遺言と違い、代筆が可能でパソコンでも作成できるため、手が不自由な人でも作成することができます(署名は自分で手書きすることが必要)。
ただし、できるだけ自筆で書くことをオススメします。
秘密証書遺言が無効になってしまったとしても、自筆証書遺言として有効になる可能性があるからです。
あらゆる可能性を考えて、秘密証書遺言はできれば自分で手書きしましょう。
~秘密証書遺言が無効になる場合とは~
- 本文に押印した印鑑と、封筒の綴じ目に押印した印鑑が違う場合
- 本来証人になれない人が証人になってしまった場合
- 検認手続きの前に勝手に開封してしまった場合
3-2.財産を明確に記載する
財産を正確に、特定できるように書きましょう。
【悪い記載例】
× 預金●●万円
× 神奈川の自宅
【良い記載例】
○ 銀行●●支店の●●万円
○ 神奈川県横浜市●●区●●町123-4の土地と建物
3-3.すべての財産について誰にどれくらいあげるのか正確に記載する
遺言に含まれていない財産があると、それを誰が取得するのか争いになってしまう可能性があります。考えられるすべての財産について記載しておきましょう。
また財産をどの割合であげるのか明確に記載しておきましょう。
【悪い記載例】
× 自宅は子供たちで話し合うように
【良い記載例】
〇 自宅の土地・建物の持ち分は全て長男に
分割方法を書くときには、遺留分(最低限保証されている一定の割合で相続する権利)を侵害しないように気をつけましょう。これを侵害するような分割方法があまりに偏った遺言を書いてしまうと、争いに発展した時に精神的にも経済的にも相続人の負担を増やしてしまいます。
3-4.付言事項で家族への想いを伝える
付言事項という本文とは別の部分で、残された人にメッセージを伝えることができます。
この付言は、争いを避けるのにかなり効果があります。
考えがあってその内容にしたということを相続人たちが知ることで、亡くなった人の想いを尊重しようという気持ちになり、争いが収まることもあります。
上記のようなポイントに注意して、財産を分けるときに困ることのないような有効な遺言を作成しましょう。
有効な遺言を作成できるか不安な人は、弁護士や税理士、行政書士、司法書士などの専門家に相談すると良いでしょう。
4.まとめ
秘密証書遺言は、内容を秘密にしたまま存在だけを証明してもらうものです。
高齢者の増加に伴い争族が増えていることを受けて、遺言の制度が見直されていますから、秘密証書遺言特有のメリットは小さくなってきています。専門家の目を通すことが争族を避ける上では欠かせませんから、公正証書遺言をオススメします。
どうしても秘密証書遺言を作成したい場合には、有効な遺言になるよう注意しましょう。