「子供がいないから、自分が亡くなった後は長年尽くしてくれた妻にすべての財産を遺したい」
「子供同士が不仲で、交流もほとんどない。相続争いにならないような遺言を残したい」
こんな考えをお持ちの方は「公正証書遺言」を残すと良いでしょう。
公正証書遺言とは公証役場において公証人に作成してもらう遺言書で、以下のようなメリットがあります。
- 形式の不備により無効になることがなく確実性が高い。
- 公正証書遺言の原本は公証役場で原則として20年間保管され、偽造や紛失の心配がない。
- 自筆証書遺言と異なり家庭裁判所の検認が不要なので、死亡後すみやかに効力が生じる。
- 字が書けなかったり、障害があっても遺言が残せる。
自分の考えに基づき、遺産相続を実行してもらいたい場合は、公正証書遺言を作成すると良いでしょう。
この記事では、公正証書遺言作成のために必要な書類と作成のプロセス、注意点などについてご紹介していきます。
自分の大切な財産を大切な人に確実に残すために、この記事をどうぞお役立てください。
1.公正証書遺言の作成に必要な書類一覧と取得場所
まずは公正証書遺言の作成に必要な書類とその取得場所を、以下の一覧で確認しましょう。
なお、①と⑥については、公正証書遺言を作成するすべての人に必要な書類で、②〜⑤については、該当する場合のみ必要な書類です。
必要書類 | 取得場所 |
---|---|
①遺言者本人について | |
本人の印鑑登録証明書(発行から3ヶ月以内のもの) 運転免許証、住民基本台帳カード(顔写真付き)でも可。 |
住所のある市区町村役場 |
本人の実印 | |
本人の戸籍謄本(発行から3ヶ月以内のもの) | 本籍地のある市区町村役場 |
②相続人に相続させるとき | |
遺言者本人と相続人の関係がわかる戸籍謄本(発行から3ヶ月以内のもの) ※遺言者の戸籍謄本にすでに相続人の名前が記載されている場合は、それで証明できるので不要。 |
本籍地のある市区町村役場 |
③相続人の資格のない人へ相続(遺贈)させるとき | |
受贈者の住民票(発行から3ヶ月以内のもの) ※法人の場合には資格証明書が必要。 |
住所のある市区町村役場 |
④相続財産に不動産が含まれているとき | |
登記事項証明書 | 不動産を管轄している法務局 |
固定資産税評価証明書(または納税通知書の課税明細書) | 不動産のある市税事務所や市区町村役場 |
⑤相続財産に預貯金や有価証券が含まれているとき | |
銀行名(証券会社名)や口座番号(証券番号)がわかる資料 ※金融機関の通帳など。 |
銀行や証券会社 |
⑥証人について | |
証人予定者の名前、住所、生年月日及び職業のメモと印鑑(認印でも可) | 住所のある市区町村役場など |
以上の他に、公正証書作成手数料が必要ですが、これは遺言の対象となる財産によって変動します。詳しくは3章にて説明します。
また、遺言の内容によっては追加で必要な書類や必要のない書類もあるため、詳細は遺言書を作成される公証役場にてご確認ください。
2.証人は2人必要
公正証書遺言を作成するには、2人以上の証人が立ち会う必要があります。
その理由は「公証人が正確に遺言を記載しているか確認する」「遺言の正当性の証明をする」ためです。
よって証人は公正証書遺言の作成時、遺言の正しさを証明するために必ず同席しなければなりません。
なお、「公証人」と「証人」は異なりますので注意しましょう。
公証人は「遺言書作成を直接行う公証役場の役人」、証人は「遺言書の内容が間違いなく記録されているか確認する人」のことです。
なお、証人を選ぶにあたっては条件があります。証人になれないのは以下の人です。
- 未成年者
- 推定相続人、受遺者、その配偶者や直系血族
- 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記、使用人
- 文字の読み書きができず、遺言の内容が確認できない人
これらの人は候補者リストから外してください。
証人は遺言書作成の当日は立ち会う必要がありますが、それ以外の打ち合わせなどの場に同席する必要はありません。
また、証人には遺言の内容が知られてしまうため、知人・友人に証人をお願いする場合は、その点も考慮するようにしましょう。
「自分には証人に適した人がいない」という方は、公証役場に相談すれば証人を紹介してもらえます。その場合は1万円ほどの手数料が生じることになります。
証人が決まったら、証人2名の身分がわかる資料(自動車運転免許証、保険証など)と印鑑(認印でよいが朱肉を使うもの)を、遺言書作成当日に持参してもらいましょう。
3.公正証書作成手数料
公正証書遺言の作成費用は法令で定められています。
その手数料は、下記のように、遺言の目的である財産の価額に対応しています。
公証人手数料令第9条別表
目的の価額 | 手数料 |
---|---|
100万円まで | 5000円 |
100万円を超え200万円まで | 7000円 |
200万円を超え500万円まで | 1万1000円 |
500万円を超え1000万円まで | 1万7000円 |
1000万円を超え3000万円まで | 2万3000円 |
3000万円を超え5000万円まで | 2万9000円 |
5000万円を超え1億円まで | 4万3000円 |
1億円を超え3億円まで | 4万3000円に超過額5000万円までごとに1万3000円を加算した額 |
3億円を超え10億円まで | 9万5000円に超過額5000万円までごとに1万1000円を加算した額 |
10億円を超える場合 | 24万9000円に超過額5000万円までごとに8000円を加算した額 |
この場合、相続財産の金額については、遺産の総額ではなく、相続人ごとに計算します。
【例】
1億7000万円の遺産を、妻に1億円、長男に4000万円、次男に3000万円相続させる遺言の場合、手数料の合計は「9万5000円」となります。
妻 :相続財産1億円 → 手数料4万3000円
長男:相続財産4000万円 → 手数料2万9000円
次男:相続財産3000万円 → 手数料2万3000円
※9万5000円=4万3000円+2万9000円+2万3000円
上記「公証人手数料令第9条別表」の基準を前提に具体的に手数料を算出するには、さらに下記の点に留意が必要です。
①財産の相続または遺贈を受ける人ごとにその財産の価額を算出し、これを上記基準表に当てはめます。そして、その価額に対応する手数料額を求め、これらの手数料額を合算して、当該遺言書全体の手数料を算出します。
②全体の財産が1億円以下のときは、上記①によって算出された手数料額に「遺言加算1万1000円」が加算されます。
③さらに、遺言書は通常「原本」「正本」「謄本」を各1部作成し、原本は法律に基づき役場で保管し、正本と謄本は遺言者に交付します。
原本についてはその枚数が法務省令で定める枚数の計算方法により4枚(法務省令で定める横書の証書にあっては、3枚)を超えるときは、超える1枚ごとに250円の手数料が加算され、正本と謄本の交付にも1枚につき250円の割合の手数料が必要となります。
④遺言者が病気または高齢等のために体力が弱り公証役場に赴くことができず、公証人が、病院、ご自宅、老人ホーム等に赴いて公正証書を作成する場合には、上記①の手数料が50%加算されるほか、公証人の日当と、現地までの交通費がかかります。
公正証書遺言の作成費用の概要は以上です。
具体的に手数料の算定をする際には、上記以外の点が問題となるケースもあります。その場合は、最寄りの公証役場でお尋ねください。
出典:日本公証人連合会
4.公正証書遺言を作成する
公正証書遺言は、遺言者本人の最寄りの公証役場で作成するのが一般的です。
ただし、本人が病気などで公証役場に出向けない場合は、自宅や病院などで作成することが可能です。(その場合は公証人が出張することになるため、別途日当や交通費などが発生します)
お近くの公証役場を探したい場合は、日本公証人連合会のホームページで調べることができます。
4-1.自分で公証役場に直接依頼する場合のプロセス
自分で公証役場に直接依頼する場合のプロセスは以下の通りです。
①相続財産の洗い出しを行い、 誰にどの財産を相続させる(遺贈する)かを決める。
②公証役場に面談の予約を入れる。
③公証人と打ち合わせて遺言の内容を決める。打ち合わせの場所は公証役場でも出張してもらうことも可能。遺言に財産を正確に記載するため、不動産の登記簿謄本や戸籍謄本など必要な書類を持参する。通常、公証人との打ち合わせは何度か行う必要がある。
④遺言の内容が決まったら、実際に公証役場で公正証書遺言作成の日時を決める。
⑤公証役場(出張してもらうことも可能)にて公正証書遺言書を作成する。最初に、立会証人2名の前で、遺言者の氏名、生年月日などを伝え、遺言者の本人確認を行う。次に、遺言者の家族関係について、配偶者、子供、兄弟について説明する。
⑥不動産はAに、預貯金はBとCにというように遺産を誰に相続させるかについて伝える。口頭で言えない人は、筆談、通訳などの方法で自分の意思を公証人に伝える。
⑦公証人が準備した公正証書遺言書の原案を読み上げるので、遺言者はその内容が自分の考えと同じであることを確認する。
⑧同じである場合、遺言者は公正証書遺言書の原案に署名押印する。続いて証人が署名押印。最後に公証人が民法969条の方法に従い真正に作成された旨を付記し、署名押印して終了。
⑨公正証書遺言書は、原本、正本、謄本の3通作成される。原本は公証役場に保管され、正本、謄本は遺言者に渡される。
⑩公証役場に費用を支払う。
4-2.自分で公正証書遺言を作成する際の注意点
自力で公正証書遺言を作成する場合、注意しなければならないことが何点かあります。
①遺言書の完成まで時間的な余裕をもたせる
公証役場との遺言書案の打ち合せが必要なので、遺言書が完成するまでに2週間〜1ヶ月程度の時間的な余裕をもちましょう。
②公証人に遺言書の内容を相談することはできない
公証人はあくまでも第三者として公正・中立な立場で、遺言者が話した内容に基づいて遺言書を作成するのが職務です。そのため、書式の法的有効性を確保することはできても、遺言の内容について相談することはできません。
③遺留分に配慮しなくてはならない
兄弟姉妹とその代襲者(甥・姪)以外の法定相続人は、遺言によっても侵害することのできない最低限の相続分として、遺留分(下記表を参照)が認められています。
もしこの遺留分を侵害するような遺言書を作成した場合は、遺留分を侵害された法定相続人は、他の相続人に対して遺留分減殺請求(遺言によって遺産を受け取ることができない相続人が遺留分として遺産の分配を受けることができるようにする手続きのこと)を行うことができます。
②で書いた通り、公証人は遺言者から伝えられた通りの内容で遺言書を作成するので、もし遺留分を侵害する遺言であっても、公証人はそのままの内容で遺言書を作成します。
そのため、遺言者自身があらかじめ遺留分について考慮に入れた上で、遺言の内容を決定する必要があります。
遺留分とは、保障された相続財産の最低限度の割合のこと
遺留分とは、民法によって兄弟姉妹(甥・姪)以外の法定相続人に保障された相続財産の最低限度の割合のことをいいます。
本来、自己の財産は遺言や生前贈与など原則自由に処分することができますが、この遺留分制度によって被相続人の処分が一定限度で制限されています。
ここでいう遺留分が認められる者は、兄弟姉妹とその代襲者(甥・姪)以外の相続人、つまり、下記の人です。
- 子とその代襲者(直系卑属)
- 直系尊属(親など)および配偶者
なお、遺留分を侵害された相続人は、侵害した受遺者や受贈者等に対して、遺留分の減殺請求(※)を行うことができます。
※遺言によって遺産を受け取ることができない相続人が遺留分として遺産の分配を受けることができるようにする手続きのこと。
遺留分の割合
相続人の組み合わせ | 遺留分 | 各人の遺留分 |
---|---|---|
配偶者と子 | 1/2 | 配偶者 1/4、子 1/4 |
配偶者と直系尊属 | 1/2 | 配偶者 2/6、直系尊属 1/6 |
配偶者と兄弟姉妹 | 1/2 | 配偶者 1/2、兄弟姉妹 なし |
配偶者のみ | 1/2 | 配偶者 1/2 |
子のみ | 1/2 | 子 1/2 |
直系尊属のみ | 1/3 | 直系尊属 1/3 |
兄弟姉妹のみ | なし | なし |
*子や直系尊属が複数人いる場合は、「各人の遺留分の割合」をその人数で均等に分ける。
5.弁護士に依頼するメリット
遺産が多い場合や、不動産が含まれているなど複雑なケース、相続人同士でもめることが予想される場合は、公正証書遺言作成を弁護士に依頼することを検討しても良いでしょう。
弁護士にお願いする主なメリットは以下の通りです。
- 遺言者の希望を法的に実現できる遺言書が作成できる。
- 相続人間にトラブルが生じるリスクを回避することができる。
- 相続人の調査、財産目録の作成、司法書士・税理士・公証人との交渉など、面倒なことを代理で行ってもらえる。
- 弁護士に相談しておくと、事前に公証人と協議の上、決定した内容で公正証書遺言の案が作成されることが多いため、公証役場での手続きが短時間で済む。
- 遺言の中で弁護士を遺言執行者に指定しておくと、遺言のすみやかな実現が期待できる。(執行時に費用が発生する)
6.まとめ
最後に、公正証書遺言を残すメリットをもう一度確認しておきましょう。
- 形式の不備により無効になることがなく確実性が高い。
- 公正証書遺言の原本は公証役場で原則として20年間保管され、偽造や紛失の心配がない。
- 自筆証書遺言と異なり家庭裁判所の検認が不要なので、死亡後すみやかに効力が生じる。
- 字が書けなかったり、障害があっても遺言が残せる。
必要な書類をそろえたり、証人を2人用意するなど、少し面倒なこともありますが、基本的には自力で作成することができますので、遺産相続について心配する要素がない方はご自分で作成するのも良いでしょう。
トラブルが予想される場合や悩み事を相談したい場合、手続きが面倒という方は弁護士にお願いすれば確実ですし、安心感が得られるのも大きなメリットですね。
この記事が公正証書遺言作成に向けて一歩を踏み出す一助となれば幸いです。