「相続登記とは何なのだろう?」、「手続きする場合はどんな手順を踏めばいいの?」
そんな心配をお持ちではないでしょうか?
相続登記は不動産の所有者が亡くなった場合に必要な手続きです。なぜなら、亡くなった方が所持していた不動産の名義を変更し、新しい所有者を明確にするための手続きだからです。
ただ、概要は理解できても「相続登記を放置するとどんなリスクがあるの?」「具体的にどうやって手続きすればいいの?」ということは気になるポイントですよね。また、不動産の場合、価値も大きくなるため確実に手続きを完了させたいところです。
そこでこの記事では、相続登記の概要を解説したうえで、登記を忘れてしまった場合のリスクや、申請を行うための手順について具体的にご紹介していきます。
この記事さえ読んでいただければ、相続登記の不明点がなくなり、次に取るべきアクションを理解できるようになります。順を追って説明していきますので、焦らず最後まで目を通してください。
1.相続登記は不動産の名義変更
相続登記は土地・家・マンションなど不動産の所有者が亡くなった場合に、相続人への名義変更を行う手続きのことを指します。
手続きが必要な理由は、相続登記を怠った場合に不動産の所有者が不明確になることで、争いが起きたり売買が自由にできなくなるなど不利益を被る可能性があるためです。
また、相続登記の期限は定められていないため、放置しても罰則などは発生しません。そのため自発的に手続きを行わなければ、どんどん後回しになっていくということです。
次の章で、相続登記しないことで発生しうるリスクを詳しくまとめています。相続登記の概要を理解するためにも必ず目を通してください。
2.相続登記をしないことによる4つのリスク
この章では相続登記を放置することの4つのリスクを解説していきます。
相続登記は期限が定められてないがゆえに、「ついうっかり登記を忘れていた」ということになりがちです。「相続登記をしなければいけないことはわかっているが腰が重い」という方もいることでしょう。
そのような場合、すぐにこの章を目を通していただくことをおすすめします。なぜなら、相続を先延ばしにした場合どのようなことが起こるのか簡単に理解できるようにまとめているからです。ご自身や親族のためにも、必ずこの章の内容を頭に入れておいてください。
2-1.遺産分割協議が難航する
遺産分割協議とは、亡くなった方の遺産の分け方を相続人全員で協議することです。
遺産分割協議は時間が経つほど協議が難しくなると考えるべきです。その理由は、時間の経過とともに新しい相続が発生して相続の関係者が増え、人間関係が複雑になっていくからです。
例えば、父、母、長男、次男の4人家族のケース。長男、次男はそれぞれ妻と子3人を抱えていたとします。不動産所有者の父が亡くなった場合、母、長男、次男の3人が相続人となります。しかし、相続登記をしないまま、次男が亡くなった場合、次男の妻と子3人も相続人となり、相続登記は母、長男、次男の妻、子3人の6名で行う必要が出てきます。
遺産分割協議は相続人全員で行う必要があり、協議書も相続人全員の捺印が必要です。相続人が亡くなったり、親族が増えるにつれて親族同士の関係性も薄くなっていくと、全員が集まって協議することが難しくなります。そうすると協議が前に進まなくなる可能性が高くなるのは想像できます。
このように、相続登記を放置することによって遺産分割協議は難航する可能性が高いのです。
2-2.相続した不動産を差し押さえられる可能性がある
遺産分割協議で不動産を取得できることになっても、相続登記をしていないと他人から不動産を差し押さえられ、結果的に不動産の所有権を得られなくなる可能性があります。
共同相続人に借金があり、債権者に不動産を差し押さえられてしまうことがあるためです。
例えば、3人の相続人がおり1人に借金があったとします。借金の債権者は借金を抱えている相続者の法定相続分を相続登記し、差押登記することができます。
そのとき借金を抱えている相続人が不動産を取得しなくても、差押登記が取り消されることはありません。
つまり、借金を抱えていない相続人の資産まで差し押さえられてしまうということです。法定相続分を超える相続財産の取得は、登記・登録等を行わなければ、第三者である債権者に対抗できないとされているからです。
このような事態を避けるためにも相続登記は必須と言えます。
2-3.不動産を売却できなくなる
相続登記をしないまま家や土地を売却しようとすると、不動産会社から「相続登記が済んでいないのですぐには売れない」と指摘を受けるケースがあります。
不動産の売却には、相続人への名義変更が完了している必要があるからです。
一般的には不動産の売却と相続登記の準備を並行して行っていくことになります。ただし、被相続人が亡くなってから時間が経過していると相続登記に想像以上に時間がかかってしまうリスクは考慮しておくべきです。
相続登記の有無が売却への足かせとなり、土地の資産評価額が時間の経過とともに落ち込んでしまう可能性があります。こうなると機会損失が発生し、非常にもったいないことです。
2-4.必要書類の入手が難しくなる
相続登記を行う際、関係者の戸籍謄本や住民票の除票など公的書類が必要です。
しかし、相続登記を放置して時間が経過するほど必要書類を準備するのが難しくなります。公的書類は保管期限が定められているためです。
例として、死亡者の住民票の除票は5年間の保存と定められており、期限を過ぎると書類が廃棄されている可能性があります。
すぐに手続きを行えばスムーズに取得できた書類も、手続きの着手が遅れることで余計な手間がかかったり、書類を取得できないことで前に進まないリスクもあるのです。
この場合もお金と時間が余分にかかることが予想されるため、相続登記が必要なのに完了していない場合は、早急に着手しましょう。
3.相続登記を行うための5つのステップ
ここまで相続登記の概要と相続登記しないことで発生しうるリスクについて解説してきました。ここまで読んでいただいた方なら、相続登記は必須の手続きとして認識できたことでしょう。
そこでこの章では、実際に相続登記を行うための手順について解説していきます。
5つのステップに分けて解説していきますので、順を追って目を通すようにしてください。
3-1.登記簿の状況確認のため「登記事項証明書」を取得する
相続登記を行う際、まずは対象物件の登記簿の状況を確認します。遺産分割協議や登記申請書の作成時にも物件の詳細な情報が不可欠だからです。
また、不動産の名義が直近で亡くなった親族のものだと思っていたら、実は別人の名義だったということも考えられるからです。例えば、父親が亡くなり不動産の相続登記を行おうとしたら、相続登記がされておらず、名義は亡くなった祖父のままだったということが起こりえます。
物件情報を詳しく知るためには、「登記事項証明書」を取得することです。登記事項証明書には、不動産の地番や所有者・担保に関する情報が記載されているためです。
登記事項証明書は法務局で取得可能です。ただし発行に際して、建物の「家屋番号」、土地は「地番」を把握しておかなければなりません。
毎年届く固定資産税納税通知書、または権利証や登記簿謄本に地番や家屋番号は記載されています。手元に無ければ法務局で地番や家屋番号は検索することができます。
まずは相続登記したい土地の家屋番号・地番を調べてから法務局に足を運び、登記事項証明書を取得しましょう。
3-2.被相続人と相続人の戸籍謄本等を収集する
不動産の名義人が明らかになったら、遺産の相続関係を正確に把握しましょう。
亡くなった名義人が遺言書を残していない場合、相続登記は法定相続人が全員で手続きを行う必要があるからです。
相続関係を正確に把握するには戸籍謄本等が必要です。
戸籍謄本等にはいくつか種類があります。
- 戸籍謄本
- 改製原戸籍
- 除籍謄本
- 附表
これらすべての書類が必要ということではなく、必要な情報が記載されている謄本を準備しましょう。なぜなら、亡くなった方の死亡から出生までを遡る必要があるからです。例えば、戸籍謄本のみでは必要な情報が不足する場合、他の謄本もそろえる必要があるということです。
戸籍謄本等は市区町村役場で発行されます。亡くなった方の本籍地の市区町村で「出生から亡くなるまでの戸籍謄本」を請求してください。
また、結婚などを機に本籍地が変更されている場合があります。その場合、以前の本籍地を調べて役所に謄本の発行を申請する必要があります。遠方の役所から取得する場合は取り寄せ可能です。
3-3.遺産分割協議書を作成する
被相続人の遺言が残されていない場合、亡くなった方の遺産は相続人全員で話し合って分配を決定します。この話し合いのことを遺産分割協議と呼び、協議の内容をまとめたものが遺産分割協議書です。相続人が1人だけの場合は遺産分割協議書は不要です。
遺産分割協議では、被相続人が所有していた土地や建物の配分を決めていきます。遺言が残されていない限り、配分方法は相続人に委ねられます。
遺産分割協議書には、どの不動産を誰が相続するか明確にしたうえで、相続人全員の署名捺印をして下さい。この時、実印の捺印が必要です。
不動産の名義変更に伴う遺産分割協議書の文例は以下の通りです。ぜひ参考にして書面を作成してください。
3-4.その他書類を作成・収集する
相続登記に必要な書類は以下の通りです。ここでは以前にご紹介した書類も含めて、取得できる場所も一覧にまとめていきます。
被相続人の書類 | 戸籍謄本等 (戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍) |
直近の本籍地、転籍前や婚姻前の本籍地所在の市区町村役場 |
---|---|---|
住民票の除票または戸籍の付表 ※登記簿上の住民及び本籍地の記載が必要 |
被相続人の最終居住地の市区町村役場 | |
相続人の書類 |
戸籍謄本 ※法定相続人全員のもの |
本籍地の市区町村役場で取得 |
住民票 ※新しく不動産の名義人になる相続人のもの |
居住地の市区町村役場で取得 | |
遺産分割協議書 ※相続人全員で遺産分割協議を行い、その内容を書面にまとめたもの |
相続人が作成 | |
印鑑証明書 ※相続人全員分 |
市区町村役場で取得 | |
相続人全員の本人確認資料 ※運転免許証、パスポートなど |
相続人が準備 | |
不動産に関する書類 | 固定資産評価証明書 ※名義変更する年度の直近証明書 |
市区町村役場または市税事務所 |
公的機関では書面の保管期限が定められているほか、相続人全員分の書類が必要なものもあり相続人が増えるほど準備に時間がかかることが予測できます。ぜひ早めに準備に取り掛かるようにしてください。
3-5.法務局で登記申請を行う
遺産分割協議を終えて必要な書類が揃ったら法務局に申請を行います。名義変更する不動産の所在地がある法務局へ申請が必要です。
法務局で登記申請を行う際、以下の2つの準備が必要です。
(1)登記申請書の準備
(2)登録免許税の納付
順番に解説していきます。
(1)登記申請書の準備
法務局 への申請時には「登記申請書」が必要です。
登記申請書のフォーマットは法務局のHPからダウンロード可能です。
相続登記の条件によって申請書の内容は異なります。ご自身のケースに当てはまる申請書を使用するようにしましょう。
(2)登録免許税の納付
登記申請と同時に「登録免許税」の納付が必要です。登録免許税は、不動産の固定資産評価額の0.4%と定められています。
例えば、不動産の固定資産評価額が3,000万円の場合、3,000万円×0.4%=12万円の登録免許税がかかります。
固定資産評価額は公的機関から発行される「固定資産税の納税通知書」に記載されています。あるいは、市区町村の役所に出向いて固定資産評価証明書を取得することで評価額が分かります。
登録免許税は、現金または収入印紙で納付します。
(a)現金で納付する場合
金融機関で登録免許税(国税)納付用の納付書に必要事項を記入して、窓口で登録免許税を支払います。領収書を法務局での手続き時に提出してください。
(b)収入印紙で納付する場合
収入印紙は法務局の印紙売り場や金融機関で購入可能です。
4.相続登記にかかる費用
「相続登記の流れは分かったけれど、高額な費用が必要なのでは?」そうお考えの方も多いのではないかと思います。そこでこの章では相続登記を行う際の費用について解説していきます。
相続登記を行う際に方法は2つあります。1つは自分で手続きを行う方法、もう1つは司法書士に依頼する方法です。
ここでは、自分で行っても司法書士に依頼しても必ず必要な費用と、司法書士に依頼することで発生する費用のそれぞれを解説していきます。
4-1.必ず必要な費用
相続登記の際に自分で手続きを行っても、司法書士に委託しても必ず必要な費用は以下の2つです。
(1)登録免許税
(2)書類取得費用
それぞれ詳しく解説していきます。
(1)登録免許税
詳細は3-5.2で解説していますので、※こちらをご参照ください。
(2)書類取得費用
相続登記に必要な書類と取り寄せるのに必要な費用は以下の一覧にまとめました。
戸籍謄本 | 450円/通 |
---|---|
改製戸籍謄本・除籍謄本 | 750円/通 |
住民票 | 300円/通 |
固定資産評価証明書の交付手数料 | 400円/通 |
登記事項証明書 | 600円/通 |
印鑑証明書 | 300円/通 |
遠方から、取り寄せる場合は郵送費用がかかります。また、相続人の人数によって費用は変動します。
例えば、相続人が3人の場合、
- 被相続人の戸籍謄本=450円
- 相続人の戸籍謄本:450×3人分=1,350円
- 相続人の住民票:300×3人分=900円
- 固定資産評価証明書の交付手数料:300円
- 登記事項証明書:600円
- 印鑑証明書:300円
合計費用:3,900円(郵送費用は除く)
と試算できます。
4-2.司法書士に依頼する場合の費用
相続登記を司法書士等の専門家に依頼する場合、手続きのみ依頼する場合は、費用の相場は6万~8万円前後というデータがあります。このデータは司法書士の報酬に関するアンケート結果によります。
報酬平均値 | |
---|---|
北海道地区 | 60,983円 |
東北地区 | 60.667円 |
関東地区 | 65,800円 |
中部地区 | 63,470円 |
近畿地区 | 78,326円 |
中国地区 | 65,670円 |
四国地区 | 65,578円 |
九州地区 | 62,281円 |
※ 平成30年1月実施
※ 有効回答数1,098
※ 法定相続人は3名で、うち1名が単独相続した場合
ただし、手続きのなかでどこまで委任するかによって費用は上下する事は頭に入れておきましょう。
例えば、遺産分割協議書の作成も委託したり、書類の取得から委託する場合には、工数が増えるため、手続きのみ委託する場合よりも費用は高額になります。
また、登記する不動産が複数ある場合も費用は多めに見積もっておきましょう。
5.まとめ
ここまで相続登記をしないことで起きうるリスクや、登記を済ませるための流れについて解説してきました。
相続登記をしないことで、予想以上の機会損失が発生する可能性があることはご理解いただけたのではないでしょうか。名義変更は将来的に物件を売買するときに必須ですし、相続の発生から時間がたつにつれて相続登記自体が手間になっていくからです。
この記事でご紹介した相続登記の手順に従って、速やかに登記に向けて準備を始めましょう。
また、「想像よりも様々な準備が必要なことが分かった」「忙しくて書類の準備が進まない」という場合、相続人同士で費用を捻出し、司法書士に申請作業を委託するのも方法の一つです。
この記事が相続登記についての疑問を解消し、登記申請を進めるためのきっかけとなれば幸いです。