遺言書には基本的に何を書いても良いことになっていますが、法律上の効力が発生する事項は限られています。
遺言書は実際どこまで効力があって、無効となってしまうのはどんな場合なのか、気になるところですよね。
今回の記事では、遺言書で必ず覚えておきたい効力の範囲と、遺言書を無効にしないためのポイントをご説明します。
また、2018年7月の法改正により遺言に関する民法の一部が改正されており、そちらについてもご紹介していきます。
遺言の効力についてよく理解して、ご自身やご家族の遺言書作成に役立ててください。
1.覚えておきたい遺言書の3つの効力範囲
遺言書に記載した内容について法的効力が認められる範囲は、民法で定められています。
遺言書の効力が生じるのは、大きく分けて次の3つの事項の範囲なので必ず覚えておきましょう。
1-1.財産の分配・処分に関する事項
まず第一に、財産について「誰に、何を、どれだけ相続させるのか」を具体的に遺言書に残すことで法的効力が生じます。
具体的には、以下のような内容が遺言書で効力がある事柄の代表例として挙げられます。
遺言書で効力が生じる、財産に関する事項の代表例
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遺産相続の割合や遺産分割方法についての指定
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遺贈(法定相続人以外に遺産を継承する)
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生命保険金の受取人変更
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特別受益の持ち戻しの免除(※)
※特別受益の持ち戻しの免除とは、被相続人から特別受益〈特別な贈与〉を得た相続人が、それ以外の相続財産については法律に基づき減額とされるところを遺言により免除されることを言います。
遺言書の効力を十分に発揮させるためには、相続財産の金額までを具体的に明記する必要があります。
あいまいな記載の場合は相続人の間で協議することとなり、遺言書の効力が発揮されなくなってしまう場合もあるので注意してください。
1-2.身分に関する事項
次に、近しい人の身分に関する事柄も、遺言書に記載することで効力が及ぶ範囲が決められています。
具体的には、以下の項目についてのみ法的な効力が生じます。
遺言書で効力が生じる、身分に関する事項
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婚姻関係にない相手との間の子の認知
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未成年後見人の指定(推定相続人に親権者のいない未成年がいる場合後見人を指定できる)
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未成年後見人を監督する監督人の指定
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推定相続人の廃除、または廃除の取り消し
上記以外の身分に関する事柄を遺言書に記載しても効力は認められませんので、覚えておきましょう。
1-3.遺言の執行に関する事項
遺言内容を実行に移す「遺言執行者」の選任など、遺言の執行に関する事項には法的効力が生じます。
遺言の執行に関する事項は遺言書に記載した場合にのみ効力が発揮されます。遺言書に残しておかなければ有効にはならないので注意してください。
例えば、妻宛の手紙に遺言執行者の希望を記載したとしても法的効力は生じません。
遺言の執行に関することは、具体的に下記の2点が効力の発生する範囲となっています。
遺言書で効力が生じる、遺言の執行に関する事項
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遺言執行者の指定(遺言内容を執行する人物を選任できます)
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遺言執行者の指定の委託(遺言執行者の依頼を特定の第三者に委託することができます)
遺言によって遺言執行者の指定をしている場合、相続人は遺言執行者を介さずに勝手に遺産を分配することはできません。
確実に遺言を執行してもらいたい場合は指定をするようにしましょう。
2.遺言書の効力が及ばないこと
遺言書にいくら記載をしても、上記1でご紹介した事項以外は法的効力が及ぶことはありません。
次から遺言書に記載すれば効力が及ぶと勘違いしやすい3つの事柄について解説します。こちらも併せて覚えておきましょう。
2-1.相続人の最低限の相続権利「遺留分」は侵害できない
民法では、遺言によっても侵害することができない相続人の最低限の権利を保証しており、これを「遺留分」と言います。遺留分は遺言によっても侵害はできません。
例えば、特定の人に遺産を多く相続させるために「すべての財産を◯◯に譲る」などと記載しても、遺言者の配偶者・子・父母は最低限の遺産を受け取ることができる権利があります。
遺留分を侵害する内容が記載されている遺言の場合、その通りには執行されず、相続人の不仲にもつながりかねないので、遺言書に記載する際には遺留分に配慮するようにしましょう。
2-2.子の認知以外の身分についてのこと(養子縁組・離縁・結婚・離婚)
遺言書には、実の子の認知以外の身分行為に関する事柄を記載しても効力は発生しません。
例えば、以下のような婚姻や養子縁組に関する内容を記載しても、効力を持たないので覚えておいてください。
- 「◯◯と養子縁組を結ぶ」
- 「死後は配偶者との婚姻関係を解消する」
2-3.付言事項
付言事項とは、遺産分配など以外の法的効力を持たない事柄について遺言書で付言する事項のことを言います。
書式形式は自由で、一般的には次のような内容が書かれる傾向があります。
- 相続分を指定した理由
- 葬儀や法要についての希望
- 自身の死後の家族への願い、家業継承などの希望
- 家族への感謝の気持ち
- 遺体の処置方法の希望(医療への臓器提供など)
付言事項は法的な拘束力を持ちませんが、故人の思いが相続人に伝わり、結果的に付言事項の内容をできるだけ実現しようとする動きが生まれる可能性があります。
例えば、相続配分を指定した理由について具体的に明記した場合、相続人間の争いを回避することにつながるといったケースもあります。
付言事項を残すかどうかはご自身の判断に任されますが、生前の思いを明確に伝えられることから、利用価値は高い項目と言えるでしょう。
3.遺言書を無効にしないためのポイント
遺言書は作成上のルールが法律で決められており、ルールに反すると遺言書が無効となってしまう場合があります。
ここでは、遺言書を無効にしないための大事なポイントを3つご紹介します。
遺言作成を検討している方は、以下の点に留意してください。
3-1.法律で定められた作成方法を厳守する
遺言書の作成方法は遺言書の種類によって、一定の要件が決められています。要件を満たしていない遺言書は無効となってしまいます。
下記は、主に作成されることの多い遺言書の種類と作成方法です。
遺言書を作成する際には、選択した種類の作成方法を必ず守るようにしてください。
【自筆証書遺言】
遺言書の全文と日付、署名を必ずすべて自筆で作成し、押印する。(封印の有無は遺言者の希望による)
【公正証書遺言】
公証役場で証人2人以上の立ち会いのもと、遺言者が口述して作成する。(遺言者が病気などで公証役場に行けない場合は、公証人に自宅や病院に出張可能)
【秘密証書遺言】
遺言書の本文や日付は代筆やパソコン作成が可。署名は必ず自筆で行い、押印する。(所定の方法にて封印する必要がある)
※遺言書内容について加除訂正をする場合も、法律で決められた方式を遵守する必要があります。
「自筆証書遺言」の作成方式が緩和(2019年1月13日より施行)
2018年7月の民法改正により遺言に関する民法の一部が改正され、自筆証書遺言に関する以下の点が変更となっています。
法改正前
- 自筆証書遺言の添付資料は、財産目録もすべて自筆で作成しなければならない。
法改正後
- 財産目録に限っては、自筆でなくても認められる。(目録をパソコンで作成したものや、通帳のコピー、登記事項証明書等の添付が可能)
※ただし添付するすべてのページに署名と押印が必要となります。
3-2.遺言書の保管は最善の場所を選ぶ
遺言書を無効にしないためには、遺言書を最善の場所に保管する必要があります。
なぜなら、遺言者の死後に遺言書がきちんと発見されて遺言内容が実行されなければ、遺言書を書き残した意味をなさないからです。
遺言書の保管には、安全で紛失の心配がなく、尚且つ、死後すみやかに発見してもらえる場所を選ばなければなりません。
そのためには下記のような工夫が必要となってきます。遺言書の改ざんや紛失を防ぎながら保管できる方法を各自で考えてみましょう。
- 遺言書原本を、本人の貴重品入れなど目につきやすい場所へ保管する
- 税理士や弁護士など信頼できる人物に遺言書原本を預けておく
- 公正証書遺言の場合は、遺言書の存在を家族にあらかじめ伝えておく
また、公正証書遺言以外は家庭裁判所にて検認手続きを受ける必要があり、検認を行わず発見者などが勝手に開封した場合は5万円以下の過料に処せられます。
このため、遺言書を保管する際には、遺言書と一緒に未開封で検認手続きを受けるよう促すメモを添えるなどの配慮ができるとベストです。
遺言書を法務局で保管する制度がスタート(2020年7月10日施行)
法改正により、これまで自宅で保管されることが多かった自筆証書遺言を法務局で保管する制度が創設されました。
これにより、遺言者本人が法務局に遺言書を持参して保管の申請を行えば、遺言書開封前に必要だった家庭裁判所での検認手続きが不要になります。
このほか、以下のことが新たに可能となります。
- 遺言書原本に加え、法務局にて電子化画像データとしても保管される
- 遺言者本人による遺言書の閲覧や遺言書保管の撤回がいつでも可能
- 相続開始後は、相続人は遺言書の写しを請求したり、遺言書の閲覧が可能
3-3.公正証書遺言を選択する
遺言書を無効にしないための確実な方法として、公正証書遺言を選択するという方法があります。
公正証書遺言の優れた点は、遺言者の口述内容を元に公証役場にいる公証人が関与して遺言書を作成するため、遺言者が希望を端的に伝えるだけで遺言書が作成できる点です。
また、公証人手数料はかかるものの、原本は公証役場に保管され、亡くなった後の検認手続きも不要なので、安全に保管しつつ死後すみやかに遺言が執行される条件が揃っています。
遺言者が高齢で自筆証書遺言の作成が難しい場合や、自分で遺言書を作成してみたいけれど法律で定められた方法で作成できるか心配な場合は、公正証書遺言を選択されることをおすすめします。
4.まとめ
遺言書を作成する際は、法的効力の及ぶ範囲をよく確認した上で、「誰に、何を、どれだけ相続させるのか」などの遺言者の希望を明確に伝えるようにしましょう。
また、せっかく作成する遺言書を無効にしないためにも、遺言書の種類ごとに定められた作成方法を厳守し、保管場所にも工夫をすることが重要です。
遺言書の記載事項が多い場合や時間のない方は、専門家に依頼することを検討したほうが良いかもしれません。
遺言者の亡き後に残される家族や大切な相続人のためにも、遺言書は思い立ったときにすみやかに作成し、その後の人生を安心して暮らせるようにしましょう。