「遺言がある場合、その執行者を選ばなくてはならないの?」
「遺言執行者はいなくても大丈夫?」
と悩んでいませんか?
原則として、遺言の実現は相続人が行えばよいのですが、遺言により認知を行う場合や、遺言で相続人を廃除しなければならない場合などは遺言執行者が必要です。
また、相続人同士でもめている場合、遺言執行者を選任して収拾がつくこともあります。
この記事では遺言執行者を選任すべきかそうではないか正しい理解のもと判断していただけるよう、大きく以下の4点について紹介していきます。
- 遺言執行者を選任する重要性
- 遺言執行者を選任すべきケース
- 選任をスムーズに進めるための実践的な手順
- 選任前に知っておきたい注意点
この文章を読むことで、円滑な相続手続きを実現していただけますと幸いです。まずは遺言執行者を選任することの重要性から解説していきます。
1.遺言執行者を選任する重要性
遺言執行者を選任することはとても重要です。
なぜなら、相続人同士が利害の対立からトラブルになるケースが多いからです。そのようなときに遺言執行者を選任すれば、相続人による勝手な遺産の処分を防ぐことができるので、利害関係の対立によるトラブルを減らすことができ相続の手続きをスムーズに進めることができるようになります。少しでもトラブルが発生しそうだと感じるのであれば遺言執行者を選任することを推奨します。
一方で、トラブル発生のリスクが少ないのであれば、相続人同士の話し合いのもと遺言の内容通りに相続を実行すればよいだけですから遺言執行者を選任する必要はありません。
つまり、トラブル発生の可能性が低く、次の章で紹介する「遺言執行者を選任すべきケース」に当てはまらないのであれば遺言執行者を選任する必要がないと言えます。(※遺言書により遺言執行者に指定されていたとしても本人の意向によって辞することもできます。)
【参考】
遺言執行者が選任される場合には以下の3つがあります。(民法第1006、1010条参照)
- 遺言者が、遺言で遺言執行者を1人または複数人(第三者でも可)を指定した場合
- 遺言者が、遺言で遺言執行者の指定を第三者に委託し、その委託を受ける場合
相続人など利害関係者の申立てにより、家庭裁判所が遺言執行者を選任する場合
2.遺言執行者を選任すべき3つのケース
遺産相続や財産分与で相続人同士が争っている場合、家庭裁判所が遺言執行者を選任することで、トラブルが解決する場合もあります。
つまり、トラブルが発生するであろう場合に遺言執行者を選任することは重要ですが、そのほかにも選任すべきケースが3つあります。
- 遺言によって認知するケース
- 遺言によって相続人廃除を行うケース
- 遺言によって一般財団法人設立の意思表示および定款に記載すべき内容を定めたケース
これら3つが遺言に記載されている場合は遺言執行者を選任しなければなりません。
2-1.遺言によって認知するケース
遺言により認知(法律上の婚姻関係によらず生まれた子どもを父親が子と認める行為)する記載がある場合は、遺言執行者を選任しなければいけません。
なぜなら、民法第781条第二項・戸籍法第64条により、遺言執行者が認知の届け出などを行う必要があると決められているからです。
2-2.遺言によって相続人廃除を行うケース
遺言により遺産を相続させたくない人を廃除する場合は、遺言執行者を選任しなければいけません。これは民法第893条に定められており、遺言執行者が家庭裁判所で相続人廃除の手続きをしなければいけないからです。
なお、廃除を取消す場合も遺言執行者が家庭裁判所へ請求する必要があります。たとえば、父親に対して許しがたい暴言を吐いたり暴力を振るった息子に相続人の廃除の意思表示をしたとしても、息子が十分に反省しているとなれば遺言執行者が家庭裁判所に申し立てることで廃除を取り消すことができるということです。
2-3.遺言によって一般財団法人設立の意思表示および定款に記載すべき内容を定めたケース
遺言で一般財団法人設立の意思表示および定款に記載すべき内容を定めた場合は、遺言執行者の選任が必要です。(参考:一般財団法人及び一般財団法人に関する法律第152条により)
遺言執行者は、遺言に記載されている内容にのっとって定款を作成し、公証人による認証などの手続きを済ませる必要があります。
3.遺言執行者を選任する具体的な手順
遺言執行者を選任するためには、利害関係人(相続人・遺言者の債権者・遺贈を受けた人など)が、遺言者の最後の住所地(基本的には住民票のある住所)の家庭裁判所で、遺言執行者選任の申立てをする必要があります。
具体的な申し立ての準備や手続きの進め方について解説していきます。
3-1.遺言執行者選任の申立て準備
まずは申し立て先の家庭裁判所を把握する必要があります。家庭裁判所の管轄区域を調べるには、裁判所のサイトを参照してください。
また、遺言執行者選任の申立てには必要書類を準備しなければいけません。使用する書類は以下のとおりです。それぞれ市町村の役所で取得することが可能です。もしくは郵送などで取り寄せることも可能ですので日中に役所に行く時間がない等の場合は郵送を活用しましょう。
- 遺言者の死亡が記載されている戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本(全部事項証明書)
- 遺言執行者候補者の住民票または戸籍附票
- 遺言書の写し(遺言書の検認調書謄本の写しも可)
- 利害関係を証する資料(親族の場合は戸籍謄本など)
- 家事審判申立書(必要事項を記入することで、遺言執行者選任の「申立書」になります)
3-2.申立書の記入方法
遺言執行者を選任するためには「家事審判申立書」に記入、提出する必要があります。「家事審判申立書」は、家庭に関する事件(親子関係・夫婦関係・相続など)に関して、家庭裁判所で手続や裁判が必要なときに提出する書類です。
① 家事審判申立書の事件名には「遺言執行者選任」と記入しましょう。
②申立て手数料は800円です。800円分の収入印紙を購入して貼り付けましょう。収入印紙は大手コンビニで購入することが可能です。
③申立人の欄に住所・氏名・職業など必要事項をもれなく記入してください。
④「申立人」と書かれた欄の下部の空欄には「遺言者」と記入し、住所に関しては「最後の住所」と追記してください。
⑤「遺言者」の欄は③と同様に住所・氏名・職業など必要事項をもれなく記入してください。
⑥次に2ページ目に移ります。「申立ての趣旨」欄は以下の文例を参考に記入してください。下記文言の日付部分を、必要に応じて平成を令和に変更して記入すれば大丈夫です。
遺言者の平成(令和)○年○月○日にした遺言につき、遺言執行者を選任するとの審判を求めます。
⑦「申立ての理由」欄は以下の文言に沿って記入してください。日付や住所など「○」部分をご自身の情報で記入しましょう。例文「1」のなかで「不動産の遺贈を受けた」という部分は、遺言書の内容次第で変わりますのでご注意ください。また例文「2」では、希望の遺言執行者が弁護士になっていますが、これもご自身のケースを当てはめてください。
1.申立人は、遺言者から別添の遺言書の写しのとおり、遺言者所有の不動産の遺贈を受けた者です。
2.この遺言書は、平成(令和)○年○月○日に御庁においてその検認を受けました(平成(令和)○年(家)第○○○○号)が、遺言執行者の指定がないので、その選任を求めます。
なお、遺言執行者として、弁護士である次の者を選任することを希望します。
住所 ○○県○○市○○町○丁目○番○号
連絡先 ○○県○○市○○町○丁目○番○号○○ビル○階 ○○法律事務所
(電話番号 ○○○-○○○-○○○○)
氏名 乙山 松雄(昭和○年○月○日生 )」
※申立手続の概要・申立書の記載方法がよくわからない場合、東京家庭裁判所では無料案内を行っています。予約の必要はなく、平日9:30~11:30/13:00~16:00に直接裁判所へ行き、1階の家事手続案内室の番号札をとって順番を待つことで案内してもらえます。電話でのご案内はしていないようですのでご注意ください。
3-3.遺言執行者選任の申立書を提出
最後に家庭裁判所へ申立書を提出して手続きは完了です。各地の家庭裁判所によって受付時間等異なりますのでそれぞれ確認してください。ここでは、東京家庭裁判所を例に提出方法を解説します。
東京家庭裁判所では、直接1階家事訟廷事件係の受付に行くことで提出の手続きが進みます。受付にある番号札を取って、自分の順番を待ちましょう。
受付時間は、
平日の8:30~12:00/13:00~17:00です。
※月・水・金曜日は17:00~19:30の夜間受付あり
※祝日・12月29日~1月3日を除く
週明けと週末は混雑しがち、かつ時間帯としては13:00~15:00あたりが混むとのことです。火水木曜日の午前中もしくは夕方の時間を狙って訪問することで比較的スムーズに手続きが進む可能性が高いです。
なお、申立書の提出は申立人本人でなくても可能です。郵送でも受け付けていますが、慣れていない人や手続きに不安がある人は、避けておくことが無難です。事情を把握している人が直接家庭裁判所に提出することをおすすめします。なぜなら、受付担当者が書類の内容で疑問点がある場合、それに関して質問されることもあるからです。事情を知らない方が質問を受けてもなかなかスムーズに返答することはできないでしょう。
4.遺言執行者を選任する上で知っておきたい2つのこと
遺言執行者を選任することは相続手続きを円滑に進めるために非常に重要です。確実に円滑に進めるためにも、2つの注意点を事前に把握しておきましょう。
4-1.相続税の申告は10ヶ月以内に行わなければいけない
相続または遺贈で得た財産(死亡前3年以内に贈与で取得した財産を含む)などの合計額が、遺産に係る基礎控除額を超える場合、相続税の申告が必要です。
相続税の申告は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に行うことになっています。また申告期限までに申告しても、その税金を期限までに納めなかったときは、利息にあたる延滞税が発生します。さらに申告もれなどの過失があった場合は、ペナルティが発生してしまいます。
10ヶ月の期限を超えないためにもスピーディーに遺言執行者を選任し、円滑な相続手続きを目指しましょう。
4-2. スムーズに相続手続きを進めるためにも積極的に専門家に依頼する
スムーズに遺産相続を行いたいのであれば、各分野に強い専門家に依頼するのが無難といえます。相続税のような期限はないものの、不動産などの相続登記に不安があるのであれば、まず司法書士に相談するのが一般的です。また、遺産分割や親族間のもめごとなど幅広く対応してもらいたいのであれば、弁護士が適任でしょう。家庭裁判所に遺言執行者の選任を依頼する場合、弁護士などの専門家をつけてもらえることもあります。専門家の依頼は前向きに視野に入れることを推奨します。
ただし、専門家が遺言執行者に選任された場合はそれなりの報酬が必要となります。ご参考までに、専門家が遺言執行者に選任された場合の、報酬の相場を紹介します。
- 司法書士や税理士:20~75万円
- 弁護士:30~120万
- 信託銀行:108~200万
※遺産総額が大きい場合、その総額の1~3%を相場とするケースもあります。
5.まとめ
相続トラブルによるリスクを避けるためにも遺言執行者の選任はとても重要です。
今回紹介した3つのケースに当てはまらないとしても、トラブル発生のリスクがある場合は遺言執行者を選任することを積極的に検討しましょう。
本記事がスムーズな相続手続きを実現するための一助となれば幸いです。