内縁関係とは、婚姻届を役所に提出していないものの、夫婦と変わらない関係にある男女のことをいいます。
事実婚という言葉を聞いたことがあると思いますが、意味は内縁と変わりません。
内縁の夫が亡くなった場合、内縁の妻には相続権があるのかどうか。内縁の夫(妻)との間に子がいる場合は、その子には相続権があるのか。
「ご自身が内縁関係を築いている」「身近に内縁関係を築いている人がいる」という方は気になる話題ではないでしょうか?
ここでは、内縁関係にある人の相続について解説していきますので、一緒に確認していきましょう。
1.内縁の妻(夫)に相続権はない
内縁の妻(夫)に相続権はありません。
下の図をご覧ください。
父が亡くなった場合の相続人は1人(子A)のみで、内縁の妻は相続人となりません。
1-1.内縁の妻(夫)との子は、条件を満たせば相続権が認められる
内縁の妻(夫)との子は、原則として相続権がありません。
しかし内縁の夫が子どもを「認知」すれば、その子どもは相続人となります。
下の図をご覧ください。
父が亡くなったとき・・・
父が子B(内縁の妻との子)を認知していない場合
:相続人は1人(子A)
父が子B(内縁の妻との子)を認知していた場合
:相続人は2人(①子A、②子B)
となります。
1-2.認知された内縁の妻(夫)との子と実子の相続分は同じ
意外だと思われるかもしれませんが、認知された子と実子の相続分に変わりはありません。
上の図のように、父が亡くなったときの、子A(実子)と子B(認知した内縁の妻との子)の相続分は等しくなります。
「認知された子だから…」といって実子と相続分に違いが生じることはありません。
ちなみに内縁の妻は「認知」をする必要はありません。内縁の妻が出生届を提出することによって、その子が内縁の妻の戸籍に入る(=内縁の妻と親子関係になる)ためです。
2.内縁の妻(夫)が財産を引き継ぐパターン2つ
内縁の妻(夫)に財産を引き継がせる方法もありますので、ご紹介していきます。
2-1.特別縁故者だと認められた場合
内縁関係のどちらかが亡くなって、残された内縁の妻や夫が財産を引き継ぐパターンのうち1つは「特別縁故者になる」というケースです。
- 特別縁故者とは
- 相続人ではないが、被相続人(亡くなった人)と特別な関係にあったために、財産を受け取る権利が発生した人のことをいいます。
- (※特別縁故者だと認められるためには、「被相続人に法定相続人がいない」という条件を満たしている必要があります。)
特別縁故者となるには、被相続人の最後の住所地にある家庭裁判所で、相続財産の分与を求める「特別縁故者に対する財産分与の申し立て」という手続きを行い、「特別縁故者」だと認めてもらう必要があります。
申し立てに必要な書類と費用は以下の通りです。
申し立てに必要な書類
-
申立書(裁判所のホームページからダウンロードできます)
-
申し立てを行う方の住民票または戸籍の附票(取得方法は市町村役場のサイト等でご確認ください)
申し立てにかかる費用
-
収入印紙(800円分)
-
連絡用の郵便切手代
※ ただし特別縁故者は「相続税加算の対象」となり、相続税の納付額が2割加算されますので注意しましょう。
2-2.遺言がある場合
内縁の妻(夫)が財産を引き継ぐパターンのもう1つは、内縁の妻に財産を引き継がせる旨が記載された「遺言がある」というケースです。
たとえば「内縁の妻に〇〇(建物や預金などの財産)を遺贈する」と書かれている遺言がある、というような場合です。
ただし遺言を作成する際には、遺留分(一定の範囲の相続人に保障された財産の取り分のこと)を侵害しないように気をつける必要があります。
下の図のように、離婚協議中の母(被相続人からみて妻)がいながら、内縁の妻と同居をしており「全財産を内縁の妻に譲る」旨を記載した遺言を残して、夫が亡くなったとします。
法定相続人である母と子Aには遺留分がありますから、全財産が遺言どおり内縁の妻へ譲られた場合、母と子Aは、内縁の妻に対して不足分を請求(=遺留分減殺請求)することができます。
この請求が引き金となりトラブルへと発展する可能性もありますので、内縁の妻(夫)へ遺産を引き継がせるために遺言を作成しようと考えている方は遺留分の侵害には十分に注意しましょう。
3.内縁の妻(夫)に賃借権が認められる場合がある
内縁関係のどちらかが亡くなった場合、残された内縁の妻(夫)に賃借権が認められる場合があります。
残された内縁の妻に対して、賃借権を認めた裁判例もあります。
ちなみに賃借権とは、賃料を支払って借りたものを使用することができる権利のことをいいます。
たとえば内縁の夫が借りたアパートで同居している内縁の夫婦がいるとします。内縁の夫が亡くなった場合、残された内縁の妻が引き続きそのアパートに住み続けることができます。
これは内縁の夫婦が共同でアパートを借りたとみなされ、内縁の夫婦のどちらかが亡くなったからといってすぐに賃借権がなくなるわけではないと考えられるからです。
ただし、どんな場合でも認められるというわけではありませんから、トラブルを防ぐために遺言のなかでアパートの賃借権を誰に譲るのか記載しておくことをおすすめします。
4.まとめ
内縁の夫婦の相続についてお話ししてきました。
内縁の方には相続権はありませんが、財産を引き継ぐパターンが2つあるということが分かりましたね。
特別縁故者になるための条件や手続きは複雑であるため、内縁の妻(夫)が財産を引き継ぐパターンで多いのは、おそらく遺言によるものだと思います。
遺言によって、財産分与をスムーズに行うことができれば何の問題もありませんが、遺言があることによって、泥沼の争いが勃発してしまったら、遺言を残した側はもちろん、これから財産を引き継ぐ人も決して良い気分にはなりませんよね。
遺言を作成する側も、作成してもらう側も遺留分の侵害には十分に注意しましょう。