不動産の生前贈与についてお調べ中ですね。財産を渡すときには、贈与税や相続税について考えなければなりません。不動産は評価額が高くなりやすく、税金も高額になりやすいので贈与と相続のどちらを使うのかお悩みの方も多いことでしょう。不動産を生前贈与するべきなのかどうかは、ケースによって異なります。今回は不動産の生前贈与にかかる税金についてや、相続で不動産を引き継いだ場合の税金について詳しく見ていきますのでご自身の状況と照らし合わせながらご確認ください。
1.不動産の生前贈与にかかる税金について
不動産の生前贈与にかかる税金は、いくつかあります。贈与税だけというわけではないので、注意しておきましょう。具体的には、以下の3つの税金を押さえておかなければなりません。
- 贈与税
- 不動産取得税
- 登録免許税
贈与税以外の税金の存在を忘れていると、贈与と相続を正しく比較できません。まずは生前贈与で必要となる3つの税金について詳しく見ていきましょう。
1-1.贈与税
贈与税は、贈与を行ったときに発生する税金です。贈与というのは、贈与者が受贈者に財産を譲り渡すことですが、贈与者が生きていることがポイントとなります。贈与税は不動産だけではなく、自動車や現金などの場合も課税対象です。贈与税には、課税方法が2種類あります。暦年課税制度と相続時精算課税制度があって、税金の計算方法が異なるのです。
まず、暦年課税制度というのは、1月から12月の間の1年で行った贈与について税金を考える制度となります。誰でも利用でき、財産の種類にも制限はありません。暦年課税制度の場合には受贈者に1年間で110万円の基礎控除額があるので、110万円以下の金額の場合は税金が発生しない点も特徴的です。つまり、不動産を生前贈与された場合でも、課税対象となる金額から基礎控除額である110万円が引かれ、課税されます。相続時精算課税制度をご自身で選択しなかったなら、原則は暦年課税制度で税金が課税されるのでどちらを利用するか事前に考えておきましょう。
相続時精算課税制度では、生前贈与について2,500万円まで贈与税が非課税となるものの、相続が発生したときに他の相続財産と合わせて相続税を課税します。また、贈与の年の1月1日に60歳以上の父母や祖父母が20歳以上の子や孫に生前贈与を行った場合に、相続時精算課税制度を使うかどうかを選択可能です。利用できる人が限られているので、注意しておきましょう。もしも2,500万円を超えて贈与した場合には、超えた金額に対して一律20%の贈与税が課税されます。
2,500万円の非課税枠を特別控除額と呼びますが、複数年にわたって枠は利用可能です。つまり、相続時精算課税制度を使うと決めてからは、累計していきます。
どちらが得になるのかはケースによりますので、注意が必要です。1度でも相続時精算課税制度を選んでしまうと、その後の同じ贈与者からの贈与については、暦年課税制度による110万円の基礎控除を使えなくなりますので利用する前にしっかりと検討をしましょう。
贈与税は暦年課税制度の場合には1年の間に贈与された財産の合計金額に対して、翌年の2月1日から3月15日の間に申告と納税を行います。前年の贈与について申告するので忘れてしまいやすいですが、気をつけておきましょう。申告と納税を行うのは、贈与を受けた人です。手続きについては、税理士に依頼することもできます。贈与税の申告は、税務署に書類を持参する方法や書類を郵送する方法、電子申告を行う方法の3種類です。都合がつかない場合やご自身で行うのが難しい場合には、税理士に相談してみてください。
また、相続時精算課税制度の場合には、贈与された年の翌年の2月1日から3月15日の間に一定の書類を提出しなければなりません。手続きをしなければ暦年課税制度での課税となるので、相続時精算課税制度を希望するのなら忘れずに行いましょう。
贈与税が具体的にいくらになるのかを判断するには、不動産の評価額を知る必要があります。土地の評価額は路線価方式か倍率方式で出し、建物の評価額は固定資産税評価額からの算出です。路線価や倍率を調べるには、国税庁のホームページを使ってください。また、建物の評価額は納税通知書に記載されている固定資産税評価額を確認しましょう。
贈与税の計算方法は、一般税率と特例税率の2パターンあります。一般税率は、1年間で贈与を受けた金額から基礎控除額である110万円を引いて、以下の税率を掛けて控除額を引いて課税価格を計算する方法です。
基礎控除を差し引いた課税額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 0.1 | – |
200万円超~300万円以下 | 0.15 | 10万円 |
300万円超~400万円以下 | 0.2 | 25万円 |
400万円超~600万円以下 | 0.3 | 65万円 |
600万円超~1000万円以下 | 0.4 | 125万円 |
1000万円超~1500万円以下 | 0.45 | 175万円 |
1500万円超~3000万円以下 | 0.5 | 250万円 |
3000万円超~ | 0.55 | 400万円 |
もしもあなたが合計1,000万円の不動産を贈与された場合には、「1,000万円-110万円=890万円」と基礎控除を差し引いた課税額が計算できます。そして、贈与税は「890万円×0,4−125万円=291万円」です。
一方で、特例税率の場合はどうでしょうか。特例税率で計算する場合は限られており、2015年以降で、贈与された年の1月1日の時点で20歳以上になっている子や孫に贈与された財産なら特例税率の対象です。計算方法は一般税率のケースと同じですが、税率や控除額が異なるので見ておきましょう。
基礎控除を差し引いた課税額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 0.1 | – |
200万円超~400万円以下 | 0.15 | 10万円 |
400万円超~600万円以下 | 0.2 | 30万円 |
600万円超~1000万円以下 | 0.3 | 90万円 |
1000万円超~1500万円以下 | 0.4 | 190万円 |
1500万円超~3000万円以下 | 0.45 | 265万円 |
3000万円超~4500万円以下 | 0.5 | 415万円 |
4500万円超~ | 0.55 | 640万円 |
もしもあなたが合計1,000万円の不動産を贈与された場合には、「1,000万円-110万円=890万円」と基礎控除を差し引いた課税額が計算できます。そして、贈与税は「890万円×0,3−90万円=177万円」です。一般税率のときには291万円だったので、特別税率の方が税額が低くなることがわかります。
1-2.不動産取得税
不動産取得税は、名義変更をしたときに新しい名義人に発生する税金です。名義変更の際に1度だけ納めます。不動産取得税の計算方法は、「固定資産税評価額×4%」です。ちなみに相続で不動産を手に入れた場合には不動産取得税は課税されません。生前贈与で不動産を渡す際に気をつけなければならない税金です。
1-3.登録免許税
登録免許税は、土地の名義変更のときに発生する税金です。生前贈与で受け取った土地を名義変更のために所有権移転登記を行う際に発生します。登録免許税の計算方法は、「固定資産評価額×2%」です。登録免許税は、生前贈与でも相続でも不動産の名義変更が必要になる場面では常に発生するので注意しておかなければなりません。ちなみに、相続で不動産を引き継ぐ場合には登録免許税は「固定資産評価額×0.4%」となっています。
2.相続で不動産を受け取った場合の税金について
相続で不動産を受け取った場合には、相続税がかかります。不動産を生前贈与するのか、相続するのかお悩みの場合には、発生する税金を比較することが大切です。相続税について詳しく確認し、ご自身のケースで発生する税額を計算してみてください。
2-1.相続税
相続税とは、相続が起きたときに発生する税金です。すべての相続財産の金額を合計し、基礎控除額を超えた場合には納税しなければなりません。相続税の基礎控除額は、「3,000万円+600万円×相続人の数」で計算できます。つまり、相続人が自分を含めて3人の場合は、「3,000万円+600万円×3人=4,800万円」です。不動産を含めた相続財産の合計額が4,800円未満であれば、相続税は発生しません。一方で、相続財産の合計額が6,000万円なら、「6,000万円−4,800万円=1,200万円」となるので1,200万円に相続税が課税されます。
相続税を算出するときは、相続財産の合計額から基礎控除額を差し引いて計算した課税遺産総額を、一旦、法定相続分で分割したものと仮定して相続税の総額を計算します。そして、実際の相続割合を考慮しながらそれぞれが相続税を負担する割合を決めていきます。相続税を計算するには、以下の速算表を用いるのが便利です。ご自身の課税対象となる金額を算出し、計算してみてください。
課税対象となる金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | - |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
3.生前贈与と相続の違い
生前贈与と相続のどちらで不動産を引き継ぐべきなのか、まだお悩みかもしれません。ここで生前贈与と相続の違いについて、メリットやデメリットを確認しておきましょう。不動産の生前贈与を考える際に知っておきたい相続時精算課税制度についてもご紹介します。
3-1.メリット・デメリット
生前贈与で不動産を受け渡すメリットは、現在の不動産の所有者が生きている間に行えることだと言えるでしょう。所有者が存命のうちなら、詳しく話し合いながら手続きを進めていくことができます。相続で不動産を引き継ぐ場合、相続人の間で所有権や税金について揉めてしまうケースも珍しくはありません。
一方で、相続税よりも贈与税のほうが税率が高い点には気をつけなければなりません。課税対象となる金額が2,000万円のとき、贈与税は一般税率だと50%です。しかし相続税は15%となっています。単に税率だけを見て相続を選ぶのはおすすめできませんが、不動産を引き継ぐ手法を検討する際の判断材料のひとつになるでしょう。さまざまなケースでの税額を試算し、最も良いやり方を考えてみてください。
3-2.相続時精算課税制度とは
不動産を生前贈与する際には、相続時精算課税制度があることをお伝えしました。生前贈与について2,500万円まで贈与税が非課税となるので、不動産を贈与しやすくなります。税金の支払い時期を先に伸ばせるので、生前贈与のタイミングでお金の心配をしなくても済むのです。生前贈与で不動産を譲るのなら、相続のときにトラブルになりやすい土地の贈与も円滑にまとまりやすいでしょう。全員が生きている状態で話し合えるので揉めにくく、相続争いを防止できるのは非常に嬉しいメリットだと言えます。
一方で、贈与税はかからないものの相続発生時には相続税を納めなければならないので注意しなければなりません。また一度相続時精算課税制度を利用すると、その贈与者からの贈与については暦年課税制度に戻すことはできないので注意が必要です。
ちなみに、相続時精算課税制度は評価額が変動する不動産や株式を持っている場合、評価が低いときに生前贈与しておくことで将来納めることになる相続税額を抑えられます。将来的に評価額が上がりそうな不動産については、相続時精算課税制度を検討すると節税しやすいです。相続時精算課税制度については専門的な知識のある税理士に相談し、利用を決定することをおすすめします。
4.まとめ
今回は不動産を生前贈与するか相続するかについて、税金の観点を中心にご紹介しました。不動産は評価額が高いケースも珍しくなく、税金のことはしっかり考えておかなければ大きなトラブルになってしまいます。生前贈与と相続のどちらがベストなのかはご自身の状況によりますので、まずはどれくらいの税金が発生するのかを計算してみましょう。
また、贈与税や相続税以外にも納めなければならない税金がある点もポイントです。不動産の受け渡しによって、予想外の税金が発生して親族間で揉めることはよくあります。贈与の場合は不動産取得税や登録免許税、相続の場合は登録免許税を忘れないことが大切です。
不動産を引き継ぐ場合、生前贈与と相続のどちらを選ぶべきなのか答えが出せないようであれば、税理士のような専門家に相談してみてください。専門家に相談することで、あなたの状況に最適な手法を提案してもらえるはずです。