経費とは、個人企業や会社などがその事業を続けていくために必要になる支出のことです。
経費を支払えなければ、事業に必要な商品や原材料の仕入れもできませんし、従業員を雇うことも、事業所の建物を借りることもできません。
実際に経費を支出する際には、経営者の立場からは経費の効率的支出、つまり最小限の支出で最大限の効果を得ることが目標になりますが、税務上の所得の計算においてはできるだけ多くの経費を認めてもらうことが重要です。
経費は所得の計算において総収入から差し引かれるものなので、その額が大きいほど課税される所得は少なく、税額もそれに応じて少なくなるからです。
私たちランドマーク税理士法人には現在約450名の社員が在籍しており、税務署OBも多く在籍していますが、設立以来約10年間、税務、会計に関する専門家としての知識・経験を培ってきました。
ここでは、主として個人事業の所得税申告において、最大限の経費が認められるためにはどのような点に注意すればよいか、私たちの知識・経験に基づいてその重要なポイントを解説していきます。
個人事業主の皆様の決算、申告の参考にしていただければ幸いです。
1.経費とは事業等の収入を得るために必要な支出
1-1.経費が多ければ節税につながる
個人事業主の事業所得の額は、その1年間の総収入金額から必要経費を差し引いて求めることになっています。
そこで、税務上は必要経費をできるだけ多く認めてもらえれば、課税される所得ひいては税額を減らすことができることになります。
経費のことを理解すれば、それを節税に活かすことができるのは、このような理由によるものです。
たとえば、自宅兼事業場の修繕費100万円のうち2分の1が事業の必要経費になることが分かったのでこれを経費に加えたとすれば、所得金額は50万円減少し、仮に税率が20%なら所得税額は10万円減少することになります。
下の表で確かめてみましょう。(※ 事業所得以外の所得はないものと仮定しています。)
修繕費の追加がない場合 | 修繕費の追加がある場合 | 差 額 | |
---|---|---|---|
① 総収入金額 | 5,000万円 | 5,000万円 | 0万円 |
② 修繕費の追加金額 | - | 50万円 | 50万円 |
③ その他の必要経費の金額 | 4,300万円 | 4,300万円 | 0万円 |
④ 事業所得の金額(①-②-③) | 700万円 | 650万円 | -50万円 |
⑤ 所得控除の金額 | 200万円 | 200万円 | 0万円 |
⑥ 課税所得の金額(④-⑤) | 500万円 | 450万円 | -50万円 |
所得税額 (⑥×20%-43万円) | 57万円 | 47万円 | -10万円 |
1-2.所得税においてはどんなものが「必要経費」になるのか
所得税において必要経費とは、事業を行なうために必要なすべての費用であると考えられ、それに含まれるものには、事業の収入を得るために直接要した売上原価などの費用や、販売費、一般管理費その他業務上の費用があります。
各費用の内容や必要経費として処理する基準は下の表のとおりです。
区分 | 費用の内容等 | 必要経費として処理する基準 |
---|---|---|
売上原価 | 売上収入を得るために販売した物品など(サービスを含む)の仕入れや製造等に要した原価 | その収入を上げたときに対応して必要経費として処理する |
販売費 | 物品・サービスの販売業務に要した費用 | 償却費を除き、12月31日現在で支払うべき義務(債務)の確定したものに限りその年の必要経費として処理する(注) |
一般管理費 | 事業の全般的な管理運営(会計や人事、庶務などの業務)に要した費用 |
(注) 債務の確定については、2-1.で、償却費については3-7.でくわしくご説明します。
なお、必要経費になるものは、実際に支払ったものに限らず、債務の確定している未払の費用が含まれますが、支払った費用のうち前払費用(翌年以後の経費となるべき支出)になるものは除かれます。
2.必要経費と認められるために注意すべき4つのポイント
税務上「必要経費」と認められるためには、次の4つの点に注意することが必要です。
① 債務が確定していること
② 事業に必要なものであること
③ 家事支出との区分が明確になっていること
④ 支出を証明できる資料があること
以下でくわしくご説明します。
2-1.債務が確定していること
先にも述べたとおり、販売費その他の費用が必要経費として認められるには、その年の12月31日現在で支払うべき義務(債務)が確定していることが必要です。
そのためには、その年の12月31日において次の3つの条件をすべて満たしている必要があります。
① 債務が成⽴していること
契約や取引約款、商慣習などに基づき、支払義務が法的に存在していることをいいます。
② その債務に基づいて支払等をするべき原因となる事実が発⽣していること
支払義務が生じるもととなった物品の購入やサービスの提供がなされたことをいいます。
③ ⾦額が合理的に算定できること
したがって、必要経費と認められるためには、上記の3点を証明できるように会計上の記録やその証拠書類等を整備しておくことが重要です。
2-2.事業に必要なものであること
必要経費と認められるには、その支出が事業を行う上で必要なものであり、合理的な事業上の目的のために行われたものであることが必要です。
事業と無関係な個人的な支出や無駄な支出、通常と異なる内容や金額および時期の支出は、税務調査による否認を受けやすいといえます。
2-3.家事支出との区分が明確になっていること
個人事業の場合には、必要経費と認められない家事費や、必要経費との区別が困難な家事関連費といったものがあり、その内容と相違点は下の表のとおりになります。
主な内容 | 費用の例示 | 事業の必要経費になるか否か | |
---|---|---|---|
家事費 | 個人事業主とその家族の生活費の支出 | 私用のための旅費交通費、個人的な交友相手に対する慶弔費等 | 必要経費にならない |
家事関連費 | 家事と事業の両方に関連し共通する支出 | 自宅兼店舗の水道光熱費や固定資産税、家事と事業の両方に使用する車両のガソリン代や修理代等 | 事業に必要な部分だけが必要経費になる |
家事費に関しては、事業の費用との区別を明確にしておくことが重要です。
できれば家事と事業のそれぞれの支払いに充てる現金や預金口座を別にしておくことが望まれます。また領収書等の証拠書類も別に保管するべきです。
家事関連費は、事業に必要と認められる部分に限り必要経費になりますが、それを区分する基準をはっきりと決めておく必要があります。
たとえば、自宅兼店舗の水道光熱費や火災保険料等は、使用する面積の比等の適切な基準で家事費と必要経費に按分するなどの方法が考えられます。
2-4.支出を証明できる資料があること
必要経費と認められるには、その経費の支出を証明する資料等が必要です。
通常は領収書などによって支出を証明できますが、中には領収書がもらえない電車賃や慶弔費などもあれば、紛失してしまう場合もあります。そんな場合であっても、きちんとした記録を残すことで経費の支出を行なったことが証明できれば、領収書等がなくても必要経費にすることができます。
記録の方法は、会計帳簿や出金伝票への記入で十分です。支出の日付、金額、相手先および目的(たとえば電車賃なら行先と用件)を明らかにしておけば、必要経費と認められることは難しくありません。
3.各経費別の必要経費になるか否かの判断の要点
次に具体的な経費別に、必要経費になるか否かについて判断が難しい点などをご説明します。
3-1.租税公課(固定資産税、自動車税等)
事業に使用している資産に課される固定資産税などは必要経費になります。
しかし、自宅兼事業所となっている建物などに対する固定資産税は、そのうち事業に使用している部分に係る額に限って必要経費になるので、先にご説明したとおり、適切な基準で家事費と必要経費に按分する必要があります。
なお、一般的に税金が必要経費にできるのは、その納付義務が確定した日の属する年であり、実際の支払日の属する年ではありませんので、注意してください。
ただし、固定資産税などで納期が分割して定められているものは、実際に納付した日の属する年の必要経費とすることもできます。
同一生計の配偶者その他の家族等が所有する土地・建物等を事業に使用している場合に、その土地・建物等に対する固定資産税は事業の必要経費になります。
たとえば、父親所有の建物を店舗として使用していれば、その建物の固定資産税を父親が支払っていても、それは租税公課として必要経費にすることができます。
損害保険料や減価償却費についても同様に必要経費になります。
ただし、その家族等に支払った地代や家賃等は必要経費にはならないので、注意してください。
3-2.旅費交通費
旅費交通費は、特に家事用と事業用の支出の区別が難しい費用だといえます。
先にもご説明したとおり、日付、行先および用件を明確に記録して、事業のための支出であることが説明できるようにしてください。
海外渡航費など多額の支出の場合は、業務上必要であってかつ通常要する範囲の額が必要経費になりますので、こうした点を説明できるようにしておく必要があります。
事業に関係のない観光などに要した費用を混在させることは避けるべきです。
電車賃・バス代のような交通費は基本的には領収書等がもらえませんが、領収書がないものであっても記録をきちんと残すことで、事業のために支出したものは必要経費にできます。
こうした費用を漏らしていないか、洗い出してみてください。もし漏れていたものがあったら、今後は出金伝票等で記録を残すように気を付けてください。
また、家事と事業に共通で使用している乗用車があれば、そのガソリン代や通行料等で事業に使用した分は必要経費になりますので、これもよく見直してください。
なお、自動車税や自動車保険料、車両の減価償却費についても同様に必要経費になります。
家事費と必要経費の区分は車両の走行距離の比により按分するのが一般的です。
運転の日時・行先・用件および距離の記録をノートなどで残しておけば、税務上も認められやすいと思われます。
3-3.接待交際費
接待交際費は税務調査などによる否認を受けやすい経費です。
必要経費と認められるのは、業務に必要な支出に限られますが、明確にそれを判定することは困難だからです。
支出または接待を行なった相手先を明らかにしておき、それが個人的な交友関係等ではなく事業上の関係先であることを証明できるようにする必要があります。
なお、内部者だけでの飲食費などでも、内容によっては会議費や福利厚生費として必要経費にできるものもありますので、参加者の身分や人数、会合などの目的を正確に記録しておくようにしてください。
事業上の関係先は直接の取引相手だけとは限りません。
同業者や将来の取引先となる見込みがある者についても、事業上必要な情報交換や相互理解等を目的として飲食接待、旅行等を行なったことを説明できれば、そのための支出は必要経費として認められることもあります。
接待交際費のなかでも、お祝金、香典などの慶弔費は領収書をもらえない場合がほとんどと思われますが、事業上の関係先に関する慶弔費支出が経費から漏れてないか見直してみてください。
なお、金額の記載がない礼状や招待状であっても証拠書類になりますので、領収書でないからといってあきらめる必要はありません。
<補論>
個人事業者の場合は接待交際費に限度金額の定めはありませんが、会社など法人の場合は、その規模によって経費(法人の場合は「損金」といいます。)にできる接待交際費の限度額が決められています。資本金1億円以下の法人は年に800万円まで損金にできますが、1億円を超える法人では、接待交際費は全額損金とは認められません。
3-4.損害保険料(火災保険料、自賠責保険料等)
事業に使用している資産に係る火災保険料や自賠責保険料などは、事業所得の計算上必要経費に含めることができますが、長期の損害保険料の場合は注意が必要です。
それは、長期保険には、満期返戻金の定めがあり保険料の一部がその積立に充てられるものもあるからです。
このような積立保険料にあたる部分の金額は、保険積立金などの資産に上げておくことが必要です。
3-5.修繕費
事業用の資産に係る修繕費は必要経費になりますが、修理、改良などに要した費用のうち、その資産の価値を増加させたり使用可能期間を延長させたりしたと認められる部分(これを「資本的支出」といいます。)の額は、一時の修繕費にすることができず、資産に上げる必要がありますので、注意してください。
ただし、資本的支出と認められるものであっても、少額(20万円未満)なものや周期の短い費用(おおむね3年以内の周期でその修理等が繰り返されることが実績等から明らかなもの)は支出の年の必要経費とすることができます。
資本的支出と修繕費との区別が明らかでない支出については、形式的な基準により判定する取扱いや、支出額等の一定割合を修繕費とする特例もあります。くわしいことは税理士などの専門家にご相談ください。
修繕、特に大規模な修繕を実施するかどうかは、経営判断に左右されるところが大きいといえます。
それだけに、事業の業績によっては修繕を先送りにしたり前倒しで実施したりすることも、よくある例です。
以前から実施を検討していた大規模修繕等がもしあれば、その修繕を業績が好調な時期に行うことで節税効果が期待できます。
3-6.消耗品費(文房具代、消耗工具代等)
事務用品や作業用消耗備品など消耗品は、原則としてそれが消費されたときに必要経費となります。
したがって、一度に多量の物品を購入しても、そのうち未使用分の額は必要経費と認められず、資産に上げる必要がありますので、注意してください。
ただし、毎年ほぼ一定数量を購入して常時消費していく事務用品や包装材料などの消耗品に限り、それを購入した年の経費とすることも認められています。
下記の3-7.でもご説明しますが、取得額が10万円未満の資産は取得した年の消耗品費として必要経費にすることが可能です。
たとえばパソコンなどで1式当たり10万円未満のものであれば購入時の一時の必要経費とすることができます。
10万円未満の事務用機器等で買い替え時期が近づいているものがないか、検討してみましょう。
3-7.減価償却費
2年以上の期間にわたって使用ができる建物や機械などの固定資産は、取得した年に一時に必要経費にすることはできず、使用可能な全期間の必要経費として配分していく処理(減価償却)が必要です。
この使用可能期間(耐用年数)については財務省令の別表として「法定耐用年数表」が公表されています。
なお、固定資産であっても、使用可能期間が1年未満のものや取得額が10万円未満のものは、その全額を事業に使用を開始した年分の必要経費とすることができます。
また、10万円以上20万円未満の固定資産については、その取得額の合計額を一括して、使用開始以後3年間で毎年3分の1ずつの額を必要経費として処理することができます。
この取扱いについてくわしいことは税理士などの専門家にお尋ねください。
中小企業に対しては、減価償却資産について即時償却の特例を認める制度があります。
それは、中小企業者である青色申告者が取得した10万円以上30万円未満の減価償却資産の取得額の合計額のうち年300万円までの額を、所定の申告を条件として、事業への使用を開始した年の必要経費にできるというものです。
この対象になるのは機械や工具等に限らず、減価償却資産であれば、たとえばソフトウェアにも適用できます。
更新を検討しているソフトウェア等がある場合などに、この特例を利用すれば節税が期待できます。
3-8.福利厚生費(健康保険料、レクリエーション費等)
福利厚生費は、従業員を使用している場合に限り必要経費にできるものです。
事業主のみ、または事業主と家族のみで事業を行っている場合は原則として必要経費にはなりません。
従業員を対象に慰安のための旅行を行なった場合は、次の条件を満たすものは福利厚生費として必要経費になります。
① 旅行の期間が4泊5日以内であること。
② 旅行に参加した人数が全体(職場単位の旅行の場合にはその職場ごと)の人数の50%以上であること。
①②を満たす旅行であっても、自己の都合で参加しなかった者に対して金銭を支給する場合には、給与の支給とみなされて課税対象になりますのでご注意ください。(この場合は参加者に対しても給与課税がされます。)
取引先に対する招待旅行の費用は接待交際費に、実質的に私的な旅行と認められるものの費用はその者に対する給与になりますので、正しく処理することが必要です。
個人事業の場合は従業員に対して退職金を支払うことは難しいと思われますが、中小企業退職金共済制度(中退共)を利用すれば、それが可能になります。
従業員のモチベーションを高める効果もありますので、中退共加入を検討してはいかがでしょうか。
掛金は全額が必要経費(福利厚生費)として認められますし、新規加入や増額の際には国による一部助成も受けられます。
3-9.給料賃金
個人事業において、同一生計の配偶者などの親族がその事業で働いている場合に、その者に対して給料等を支払っていても、その金額は原則として必要経費にはなりません。
ただし、次のような特別の取り扱いが認められています。
① 青色事業専従者給与
次の条件を満たす給与の額が、必要経費として認められます。
(1) 青色申告者(青色申告の承認を受けている者)が、同一生計の配偶者その他の親族(15歳以上の者に限ります。)であって、その青色申告者の事業でその年を通じて6か月を超えて働いている者に支払った給与であること
(2) 「青色事業専従者給与に関する届出書」を税務署に提出していること
(3) 届出書記載のとおり支給された、記載金額以下の額であること
(4) 行なっている仕事の内容に照らし正当な額であること(過大な額は必要経費にはなりません。)
青色事業専従者には賞与を支給することもできます。
その支給額は事前の届出の金額以内である必要がありますが、届出書には「〇か月以内」といった記載で良いこととなっているので、若干多めの月数で届出ておき、事業が好調な時は限度いっぱいまで支給し、不調なら減額する(または支給しない)ことも可能です。
上手に活用すれば、所得の分散による節税効果が大きい制度であるといえます。
② 事業専従者控除の特例
白色申告者の事業で働く同一生計の親族がある場合に、その人数等に応じて計算された一定金額を、必要経費とみなして控除することが認められます。
控除額は、次のイ又はロの金額のどちらか低い金額です。
イ 事業専従者が事業主の配偶者であれば86万円、配偶者以外は専従者一人につき50万円
ロ この控除をする前の事業所得の金額を、専従者の数に1を足した数で割った金額
白色事業専従者控除を受けるための条件は、次のとおりです。
(1) 白色申告者の営む事業に事業専従者がいること
事業専従者とは、白色申告者と同一生計の配偶者その他の親族(15歳以上の者に限ります。)であって、その年を通じて6月を超える期間、その白色申告者の営む事業で専ら働いている者をいいます。
(2) 確定申告書にこの控除を受ける旨やその金額など必要な事項を記載すること
なお、不動産所得における青色申告の事業専従者給与又は白色申告の事業専従者控除は、不動産貸付けが事業と認められる規模で行われている場合は適用がありますが、そうでない場合には適用がありません。
ここで事業と認められる規模とは、貸家なら5棟、貸室なら10室以上が目安とされています。
3-10.利子割引料
事業用資産を取得するために行った借入金の利子は、その事業所得を計算する上で必要経費になりますが、住居兼店舗のように家事にも使用される資産の取得の場合は、家事費と事業費との区分計算が必要になりますので注意してください。
区分計算の方法は、先にご説明したとおり、家事と事業との使用面積の比などの適切な基準による按分計算を行なうことになります。
4.必要経費とされない支出
次のような費用等のなかには、実際に支払っても必要経費にならないものがあります。
① 家事費、家事関連費
事業主自身やその家族の生活費、交際費や住宅費などの家事費は必要経費にはなりません。
また家事と事業の両方に関連する支出である地代・家賃、火災保険料、水道光熱費などの家事関連費は、業務を行う上での必要性が明らかでない部分は必要経費にはなりません。
② 同一生計の家族などに支払う費用や給与
同一生計の配偶者その他の家族等に対して地代家賃等の費用を支払っても、それは必要経費にはなりません。
また、家族等に給与賃金を支払っても、先にご説明した青色事業専従者給与を除いて、必要経費にはなりません。
③ 所得税、住民税、相続税など
所得税や住民税は所得に対して課されるものなので、所得の額を計算するうえで控除される必要経費にはなりません。
相続税や贈与税も、事業と関係なく個人が取得した財産に対して課されるものなので、必要経費にはなりません。
④ 罰金、科料および過料など
罰金や科料および過料などは必要経費になりません。
罰金等を支払うことで税金が減少するのは不当であるとの政策的見地による取扱いです。
5.税務署に疑いをもたれないために注意すべき3つのポイント
税務署の調査によって必要経費が否認されれば、過少申告加算税などのペナルティを課される可能性があります。
税務署に疑いをもたれないために、どのような点に注意すべきかを次にご説明します。
5-1.前年と比べて異常な増減はないか
経費の額に前年(またはそれ以前)と比較して異常な増減があった場合は、利益操作のために異常な取引がなされたと疑いをもたれる可能性があります。
常に経費の動きに注意を払い、大きな変動についてはその理由を明らかにしておくことが必要です。
事故、災害、経営環境の変動その他の異常な原因によって多額の臨時的な支出が必要となった場合には、その事実を証明できる資料の入手、保存を心がけてください。
5-2.経費の支出に合理性はあるか
支出の合理性は、その支出の内容、金額のみでなく、相手先や支出のタイミング等すべての面において問題になります。
たとえば通常の取引先ではない相手先に対して多額の経費支払があった場合や、需要の低くなっている時期に商品を大量に仕入れたりした場合などには、合理的な理由がなければ疑問をもたれる可能性があります。
通常と異なる支出があった場合には、その必要性(合理的な理由)を説明できるようにしておいてください。
5-3.年末に多額の支出がないか
年末近くに通常と異なる多額の経費支出があった場合は、利益操作の疑いをもたれる可能性があります。
業界の慣行や契約の内容により年末に支出が多くなることはあり得ますが、そのような正当な理由なしに、単に利益を圧縮したいといった動機で経費支出を増やそうとすることは避けるべきです。
年末に大量の商品や消耗品、または高額な固定資産を購入しても、3-6.および3-7.に説明したとおり、その全額が一時に必要経費と認められることは、原則としてありません。
かえって、年末近くの大きな支出は目を付けられやすいという点に注意する必要があります。
6.まとめ
これまで必要経費と課税所得との関係や、必要経費になるか否かの判断のポイント、および税務調査で疑問を持たれないために注意すべき点などをご説明してきましたが、その要点は、経費の支出が事業にとって必要であり、合理的なものであることを説明できるようにしておくことであるといえます。
また、いくつかの経費については節税のためのヒントを付けていますが、これもその経費支出が事業のために必要であり合理的であるということを前提にしたものです。
上手に活用するためには、常に経費支出の内容や目的、動向等に注意を払う必要があります。
これまで何度もご説明したとおり、経費支出の記録を残すことは、その支出が事業上必要であったことを証明する基礎となるものです。
記録の信頼性を高めるためにも、会計帳簿などの一定のしくみを設けて継続して記録を行うことが望まれます。