相続が発生し亡くなった人が自動車を持っていた場合、どのような手続きをしなければいけないのか不安に感じている人も多いのではないでしょうか。
相続した自動車に乗ろうと思っている人、売却を考えている人、災害や事故でボロボロの車だから廃車にしたい人、それぞれ必要な書類や細かい手続きの方法が変わってきます。
ここでは、自動車を相続した人が揃えるべき書類や必要な手続きを、パターン別で詳しく解説していきます。相続した自動車をどうしていきたいのか、ご自身の意向と照らし合わせながら確認してください。
1.自動車を相続する人全員が、名義変更をする必要があります
亡くなった人が自動車を持っていた場合、相続した人が車に乗り続けようと思っているのか、売却や廃車手続きをしようと思っているかに関わらず必ず名義変更が必要です。
名義が亡くなった人のままの場合には売却や廃車の手続きができません。他人が持ち主である物を勝手に売ることはできませんから当然のことですよね。
仮に、名義変更をせずに相続した自動車に乗り続けた場合、その車を売却・廃車にすることができなかったり、後に手続きをするときに書類をさかのぼって取得するのが難しかったりと、何かと不都合なことが起こる可能性があります。
期限や罰則はありませんが、早めに名義変更をしておくことをお勧めします。
自動車の名義変更のおおまかな流れ
① 相続発生時に自動車の名義が誰になっているのかを確認
② 自動車を受け継ぐ新しい所有者を決める
③ 名義変更の手続きをする
自動車の名義変更は上記①~③の順で進めていきます。
①~③は全員必須のもので、これで新しい所有者への名義変更が完了し、自動車を相続できたことになります。
その後はその自動車をどう扱っていきたいかで変わってきますので、2章でご説明します。
それでは、上記4つの項目を詳しく解説していきます。
1-1.相続発生時の自動車の名義を確認する
まず、自動車を誰から誰に相続するのかを把握する必要があります。
亡くなった人が使っていたのだから、相続発生時の名義はその人になっているだろうと思われるかもしれません。ところが、その自動車をローンで購入していた場合、信販会社や自動車販売店・ディーラーの名義になっている場合があります。
自動車の名義は車検証に記載されています。ローンを完済するまでは、名義がディーラーや信販会社、使用者が亡くなった人となっているケースが多いようです。車検証は自動車に備え付けることが義務付けられていますから、車の中を探してみてください。
自動車にローンが残っている場合、残債は相続する人が一括精算するのが通常です。それが困難な場合には新しい所有者で再びローンの審査が行われます。ローンを引き継がないという決断をした場合には自動車の名義はローンを組んだ会社に戻ることになります。
1-2.自動車を受け継ぐ新しい所有者を決める
次に、誰が自動車を受け継ぐのかを決めます。
遺言書があり、自動車を誰に受け継ぐのかが記載されている場合には、その遺言書を添付して名義変更の手続きをすることになります。遺言書が無い場合、誰が自動車を受け継ぐのかを遺産分割協議の中で決める必要があります。そこで作成された遺産分割協議書を添付して名義変更をすることになります。
ただし、自動車の価格が100万円以下である場合には「遺産分割協議成立申込書」という簡略化されたものでも手続きが可能です。
遺産分割協議書が相続人全員の実印が必要なのに対し、遺産分割協議成立申込書は自動車を相続する1人の実印だけで済みます。この場合は自動車の価格が100万円以下であることの証明として査定証の添付が必要です。
遺産分割成立申込書で名義変更をする場合には相続人全員の実印は必要ありませんが、後々のトラブルや訴訟を避けるためにもほかの相続人に自動車を相続することについて了承を得ておくと良いでしょう。
1-3.警察署で車庫証明を申請する
自動車の名義を誰から誰に変更するかが決まったら、名義変更の手続きをすることになります。その時に車庫証明が必要ですから、相続財産に車がある場合には、警察署に行って車庫証明を申請しましょう。
ご自身が登録する車庫証明の場所を管轄する警察署に印鑑を持って行き、所定の書類に必要事項を記入し手数料を払って申請します。1週間程度で発行されますから、再度管轄の警察署に行き交付を受けます。
後に説明する3-3.のように、自動車を共有相続する場合には誰の車庫証明で名義変更すればいいのか気になるかと思います。この場合には、相続するときに使用者を一人決めることになっていますから、その使用者の車庫証明で名義変更をしてください。
1-4.運輸支局で名義変更の手続きをする
自動車を誰から誰に相続するのかが明らかになったら、必要書類を揃えて運輸支局(※)に手続きをしに行きます。必要書類は相続人の人数によって変わりますので、詳細は3章で詳しく説明します。
運輸支局は平日の限られた時間帯しか営業していませんから、行くのが難しい人は行政書士の先生やディーラーに依頼することも検討しましょう。費用の相場は1万円~3万円程度です。
運輸支局の窓口に行けば案内してもらえますから、当日の手続きについて事前に知っておくべきことは特にありません。事前に準備する書類に加え、新しい所有者自ら手続きに行く場合には実印を持っていく必要があります。誰かに依頼する場合には委任状を用意してください。
※ 陸運局のほうが聞き覚えがあるかと思いますが、現在は陸運局と海運局が統合され運輸支局となっています。
2.自動車の新しい所有者になった後の手続き
ここからは、相続した車を今後どうしていきたいかによってすべきことが変わってきます。
それぞれのパターンを見ていきましょう。
2-1.相続した自動車に乗り続ける場合
相続した自動車に乗り続ける場合には、保険の引継ぎ・変更が必要です。
自動車の任意保険に関しては、受け継いだ自動車に乗り始める前に必ず引継ぎや変更を済ませましょう。自動車保険の被保険者が亡くなった人のままの場合、万が一事故を起こしてしまったらと考えると、安心して車に乗れませんよね。
家族間で等級をそのまま引き継げる場合とそうでない場合がありますから、保険の見直しや変更を検討する必要があります。
自賠責保険は、車両に付帯する保険で強制的に加入することが法律で定められているものですから、急いで変更する必要はありません。ただし、事故が起こった時の手続きが面倒になりますから、任意保険と同時に変更しておくことをお勧めします。
2-2.相続した自動車を売却する場合
相続した自動車を売却する場合、通常の車を売却するときに必要な書類に加え、2つの書類が必要です。
≪通常の車の場合≫
-
実印
- 印鑑証明書
- 自動車検査証
- 自動車税納税証明書
- 自賠責保険証
- リサイクル券
≪相続した車の場合≫
上記≪通常の車の場合≫書類に加え
- 被相続人の戸籍謄本
- 遺産分割協議書
被相続人の戸籍謄本と遺産分割協議書は、相続が発生していることとその自動車を売る権利があることの証拠として必要な書類です。この書類を持ってディーラーや中古買取業者に行き、売却をします。
2-3.相続した自動車の廃車手続きをする場合
売却しようにも値段がつかない、もしくは引き取り費用のほうが高い場合は廃車手続きをして自動車を処分することができます。必要書類を揃えて運輸支局で手続きをします。
廃車手続きは大きく2つに分けられ、事故や災害で価値のなくなってしまった自動車を処分する場合の永久抹消と、一時的に車の使用をやめ自動車税の支払いを止める一時抹消があります。それぞれ必要書類が違いますから、運輸支局のホームページでご確認ください。
3.【パターン別】自動車の名義変更に必要な書類
亡くなった人の自動車を誰が相続するかによって、名義変更に必要な書類が変わってきます。
考えられるパターンとして
- 相続人が一人だけでその人が相続する場合
- 複数の相続人のうち一人が相続する場合
- 複数の相続人で共有相続する場合
があるかと思います。
それぞれ準備する書類の種類や目的が違いますから、ご自身が当てはまるパターンの必要書類をご確認ください。
3-1.相続人が一人だけでその人が相続する場合の必要書類
必要書類 | 備考 |
---|---|
故人の戸籍謄本 | 全部事項証明書 |
相続人の戸籍謄本 | 全部事項証明書 |
相続人の印鑑証明書 | 発行から3ヶ月以内のもの |
相続人の実印 | |
車検証 | 原本 |
車庫証明書 | 故人と相続人が同居の場合は不要 |
上記には相続人が一人しかいないことを証明する意味合いのものが含まれています。
3-2.複数の相続人のうち一人が相続する場合の必要書類
必要書類 | 備考 |
---|---|
遺産分割協議書 | もしくは遺産分割協議成立申込書 |
故人の戸籍謄本 | 全部事項証明書 |
相続人の戸籍謄本 | 全部事項証明書 |
相続人の印鑑証明書 | 発行から3ヶ月以内のもの |
車検証 | 原本 |
車庫証明書 | 40日以内のもの |
複数の相続人がいる中で一人が自動車を相続する場合には、誰が取得するのかが協議で決まっていることを証明する書類として遺産分割協議書の提出が求められます。ほかの相続人が勝手に名義を変えて売買できないようになっています。
3-3.複数の相続人で共有相続する場合の必要書類
必要書類 | 備考 |
---|---|
故人の戸籍謄本 | 全部事項証明書 |
相続人の戸籍謄本 | 全部事項証明書 |
共同相続する人全員の印鑑証明書 | 3ヶ月以内のもの |
車検証 | 原本 |
車庫証明書 | 40日以内のもの |
自動車は複数人で所有することが法律で認められています。共有名義に変更する際には新たに所有者になる相続人全員の印鑑証明書が必要です。
4.軽自動車の相続での名義変更は通常の売買と同じ手続きで済みます
相続する自動車が軽自動車の場合、遺産分割協議書や戸籍は必要ありません。
通常の自動車の売買と同様の手続きで済みます。なぜ軽自動車の手続きは簡単になっているのかと言いますと、中古の軽自動車は比較的価値が低く、遺産争いが考えにくいという理由があります。ですから、相続人が複数いる場合にも、そのうちの一人が自由に名義変更できるようになっています。
5.まとめ
自動車の相続は、まず誰から誰に相続するのかを明確に把握する必要があります。その後必要書類を準備して運輸支局で名義変更の手続きをすることになります。
名義変更をしないままでいると、万が一事故が起こった際に面倒なことになりますし、車を売ることもできませんから早めにやっておきましょう。
名義変更手続きは基本的にはご自身でできるものですが、運輸支局に行く時間が取れない人は行政書士やディーラーに相談してみましょう。