「遺産分割調停の日に急な用事が入ってしまった、どうしよう。欠席しても遺産を相続できるのかな・・?」
遺産分割調停は平日の日中しか行われないため「平日の日中なんて参加できないよ!」とお悩みになっている方も多いのではないでしょうか?
遺産分割調停は欠席できますが、欠席することはおすすめしません。
なぜなら、欠席することで本来より多く相続できるはずの遺産を相続できなくなってしまう可能性があるからです。被相続人の財産に対して大きく貢献をした人は、本来より多くの財産を相続できることがあるのです。
欠席することはおすすめできませんが、実は遺産分割調停を欠席した時に発生するデメリットを回避する対処法があります。この方法を知らないと大きな損をしてしまう可能性があります。
この記事では遺産分割調停は欠席するとどのようなデメリットが発生するのか、そして遺産分割調停を欠席した時に発生するデメリットを回避する方法を紹介します。
ご覧いただくことで、遺産分割調停を欠席するとどうなるのかがわかり、欠席しても本来より多くの遺産を相続できる方法を実行できるようになります。
1.遺産分割調停は欠席できます
結論から言うと、遺産分割調停は欠席することができます。
ただし、欠席すると本来より多くの遺産を相続できる制度である「寄与分」が認められなくなってしまう可能性があります。そのため遺産分割調停は欠席すべきではありません。
1-1.遺産分割調停を欠席すると遺産分割審判に移行するため損をする可能性が高まります
遺産分割調停 | 遺産分割審判 | |
---|---|---|
遺産相続配分 | 比較的自由に相続配分を決められる | 法律に基づいた相続配分 |
主張が通る確率 | 高 | 低 |
多くの遺産を相続できる確率 | 高 | 低 |
遺産分割調停を欠席すると遺産分割審判に移行します。遺産分割審判とは遺産分割調停で話し合いがまとまらなかったり、遺産分割調停で欠席者が出た場合に裁判官が主導して判断を下す手続きです。
遺産分割調停は裁判ではなく、自主的解決を促す話し合いであるため、そもそも法律で決められた相続配分とは異なる遺産分割を行っても問題はありません。
遺産分割調停の話し合いに参加する担当者である調停委員は「社会生活上の豊富な知識経験や専門的な知識を持つ人」の中から選ばれます。したがって、法律の知識が豊富でない人が遺産分割調停を担当する場合もあり、遺産分割調停での話し合いに法律の知識が必ず必要になるわけではありません。
一方、遺産分割審判は裁判官が法律に基づいて遺産配分を決定します。
遺産分割審判に移行すると、基本的には法律に基づいた相続配分で遺産相続することになります。遺産分割審判では法的な根拠を元に主張をすることが必須となるため、正しい法律の知識が必要になります。結果、遺産分割調停と比較して主張が通りづらい傾向があります。
遺産分割審判も遺産分割調停と同様に欠席することは可能です。
しかし、上記で説明した通り、遺産分割調停は裁判ではなく、話し合いであるため主張が通りやすく、そもそも法律で決められた相続配分とは異なる遺産分割を行っても問題はありません。
これに対し、遺産分割審判では法的な根拠を元に主張することが必須となり、法律に基づいた相続配分で遺産相続をします。
したがって、遺産分割調停を欠席した結果、遺産分割審判に移行してしまうと、本来多く相続できるはずの「寄与分」の主張が難しくなり、法律で決められた相続分で遺産相続することになり損をしてしまう可能性があるため、遺産分割調停は欠席すべきではありません。
1-2.遺産分割調停を欠席すると認められない可能性のある寄与分とは?
寄与分とは簡単に説明すると、被相続人の財産の維持や増加に影響するような貢献をした人は他の相続人よりも多く遺産相続できる制度です。
相続の場面では、法律で決められた相続配分にしたがって遺産を分けることが基本ですが、相続人の中に被相続人の家業を無給で手伝ってきた人や、介護してきた人がいる場合、その人の貢献を評価しないで法定相続分で遺産を分けてしまうと不公平になってしまいます。
そこで財産の維持や増加に貢献した人には寄与分を認めて、相続分を増やすことで公平をはかっています。
1-3.寄与分が認められる人
厳密には異なりますが、寄与分が認められる人は、上図網掛け部分の「被相続人と血がつながっている人と配偶者」と覚えておけば大きな問題はないでしょう。(具体的には、法律で定められた順位に基づく法定相続人に寄与分が認められるため、血がつながっていても、法定相続人以外には寄与分が認められません。)
そのため、被相続人の友人知人、被相続人に親切にしていた他人などには寄与分は認められません。
2019年7月1日から特別寄与請求権として「被相続人の相続人ではない親族」も寄与分が認められるようになります
従来の法律では、「被相続人の子の配偶者」には寄与分が認められていなかったため、遺言で遺産相続するなどの対策で遺産を相続していました。この問題を解消するため、民法が改正され、2019年7月1日から「被相続人の相続人ではない親族」も寄与分が認められるようになります。
「被相続人の相続人ではない親族」と範囲が広いですが、上記問題により創設された背景があるため「被相続人の子の配偶者」が被相続人に行った介護や家業の手伝いの貢献分を特別寄与として請求することがほとんどだと考えられます。条文を確認したい方は法務省のホームページの18ページ第1050条をご覧ください。
また、寄与分は「被相続人の財産の維持または増加に貢献した人」にのみに認められます。
例えば被相続人に対して介護を行い、本来発生するはずの介護施設費用を削減したり、被相続人が行っている家業を手伝い、財産の増加に貢献した行いがこれにあたります。
詳しく寄与分について知りたい方はこちらのページをご覧ください。
以上のことから、遺産分割調停は出席すべきです。ただし、遺産分割調停を出席する以外にも下記4つの対処方法があります。
- 弁護士を代理人に立てて遺産分割調停に出席する
- テレビ会議を利用して遠隔地から遺産分割調停に出席する
- 調停条項案に合意する書面を提出する
- 相続分の放棄・譲渡をする
どうしても遺産分割調停に出席できない方に私がおすすめする対応方法は「弁護士を代理人に立てて遺産分割調停に出席する方法」です。
なぜなら、弁護士を代理人に立てることで法的な根拠に基づく話ができるため主張が通りやすくなり、寄与分が認められる確率が高まるからです。
弁護士を立てる以外にも遺産分割調停を対応する方法はありますが、可能であれば弁護士を代理人に立てて遺産分割調停に出席することをおすすめします。
次から弁護士を代理人に立てるべき理由を詳細に紹介していきます。
2.弁護士を代理人に立てるべき3つの理由
弁護士を代理人に立てることをおすすめする理由の詳細は以下をご覧ください。
2-1.法的な根拠を持って遺産分割調停を有利に進められる
法的な知識を持つ弁護士が遺産分割調停に参加することで主張が通りやすくなるため、寄与分を認めてもらえる可能性が高くなります。
上述したように遺産分割調停での話し合いは法律の知識が豊富ではない人が担当する場合があります。そのため法的な根拠を背景にした話に弱い場合があります。
結果、法的な知識を持つ弁護士が主張することで、意見が通りやすくなり、寄与分を認めてもらえる可能性が高くなります。
2-2.遺産分割審判になっても有利に進められる
遺産分割審判は法的な根拠に基づいて主張を行うことが必須になります。
そのため、弁護士を代理人にしていなければ、自ら法律について調べ、法律にのっとった主張をする必要があります。
弁護士は法律の専門家なので、自分の意見に法律的な話を交えて話をしたり、書面を作成してくれるため、遺産分割審判になっても相続を有利に進めることができます。
2-3.遺産分割調停を行う準備を任せられる
遺産分割調停を行う際に必要な作業を弁護士に任せることができるため、スムーズに進めることが出来ます。
遺産分割調停を行うためには、遺産の金額や不動産、借金の有無などの被相続人の身の回りの調査をしたり、被相続人の戸籍謄本を取り寄せ、書類を作成したりと面倒な作業をする必要があります。
これらの作業を弁護士に任せられるので依頼人の負担が少し減ります。
3.弁護士依頼費用の相場
一般的に全国の弁護士が所属している「日本弁護士連合協会」が決めた報酬の基準値が依頼費用の相場となっています。下記に弁護士を立てると発生する費用である「着手金」と「報酬金」の相場を記載します。
- 着手金:案件を担当すると発生する費用(最低金額は10万円)
- 報酬金:相続した遺産の金額に合わせて発生する費用
相続した遺産の金額 | 着手金 | 報酬金 |
---|---|---|
300万円以下 | 8% | 16% |
300万円を超え3000万円以下 | 5%+9万円 | 10%+18万円 |
3000万円を超え3億円以下 | 3%+69万円 | 6%+138万円 |
3億円を超える場合 | 2%+369万円 | 4%+738万円 |
弁護士の依頼費用は相続した遺産の金額や弁護士事務所によって異なります、そのため「この場合の依頼費用はいくらです。」と断定はできません。
そのため、上記依頼費用の相場から計算した弁護士依頼費用を下記に記載しますので参考にしてみてください。
3-1.具体例1:500万円を相続した場合の弁護士費用は「102万円」
500万円を相続した時にかかる弁護士費用を計算してみました。発生する弁護士費用は「102万円」となります。
500万円は依頼相場料金の「300万円を超え、3000万円以下」に含まれるため、弁護士費用を構成する着手金と報酬金は上図に記載のある手数料が発生します。そのため、弁護士費用は着手金と報酬金と足した「102万円」となります。
3-2.具体例2:4000万円を相続した場合の弁護士費用は「567万円」
次は4000万円を相続したときにかかる弁護士費用を計算してみました。発生する弁護士費用は「567万円」となります。
4000万円は依頼相場料金の「3000万円を超え3億円以下」に含まれるため、弁護士費用を構成する着手金と報酬金は上図に記載のある手数料が発生します。そのため、弁護士費用は着手金と報酬金と足した「567万円」となります。
4.どうしても弁護士を代理人に立てられない場合の3つの対処法
弁護士を立てることは依頼費用が発生する以外にデメリットはありませんので、弁護士を代理人に立てることをおすすめします。
しかし、お金の都合でどうしても弁護士に依頼できない・・という方は下記の方法で遺産分割調停を対応することが可能です。
4-1.遠方から対応できる場合はテレビ会議システムを利用する
テレビ会議システムを利用することで、遠方から自ら遺産分割調停に参加することが可能です。
ただし、テレビ会議システムを利用するためには家庭裁判所に許可を取る必要があるため、事前に遺産分割調停が行われる家庭裁判所に問い合わせをする必要があります。詳しくは遺産分割調停が行われる家庭裁判所にお問い合わせください。
注意点として、遺産分割調停が行われる当日にテレビ会議システムが設置されている家庭裁判所に出向いて対応する必要があるため、自宅や事務所から遠隔で参加することはできません。
4-2.特に意見がない場合は調停条項案に合意する書面を提出する
遺産分割調停で話し合う内容に合意することを記載した書面である「調停条項案に合意する書面」を調停委員に提出することで、遺産分割調停を対応することが可能です。
ただし、この対応をしてしまうと、寄与分の主張ができなくなります。
結果、寄与分を認めてもらえる可能性の高い人は相続配分が少なくなり、損をする可能性があります。そのため、寄与分を認めてもらえる可能性のある方にはおすすめできない方法です。
遺産分割調停で話す内容に特段意見がなく、他の相続人と同じ意見である場合は、調停条項案に合意する書面を提出すれば問題はありません。
調停条項案に合意する書面の書式は定められていないため、書式の詳細はお近くの家庭裁判所までお問い合わせください。
4-3.相続分の放棄、もしくは他の相続人に相続分を譲渡して遺産分割調停から脱退する
相続分の放棄をするか他の相続人に相続分を譲渡することで、遺産分割調停から脱退することができます。
この場合は残った相続人で遺産分割調停を進めることになるため、脱退した人は遺産分割調停に関わる必要はありません。
遺産を相続する意思がない場合や他の特定の相続人に自分の相続分を譲渡したい場合は、相続分の放棄、もしくは相続分の譲渡をして遺産分割調停から脱退することをおすすめします。
相続分の放棄・譲渡は、遺産相続のいざこざに巻き込まれたくない場合や、相続分が非常に少額であるため相続する意思がなく、早く遺産分割調停から脱退したい場合に利用するとよいでしょう。
遺産分割調停から脱退するために行う「相続分の放棄」は「相続放棄」とは異なります
「相続分の放棄」では遺産を相続できなくなるだけで、被相続人の借金などの債務は他の相続人とともに負担しなければなりません。
「相続分の放棄」をしても相続人であることには変わりはありません。遺産も債務も全て放棄し、相続人でなくなる「相続放棄」とは異なります。
5.まとめ
遺産分割調停を欠席することは可能ですが、欠席すると本来より多く遺産を相続できる寄与分が認められなくなる可能性があります。
そのため、遺産分割審判は欠席すべきではありません。
被相続人と血がつながっている相続人の方で、被相続人の財産に対して大きく貢献した場合は、寄与分が認められる可能性がありますので、その場合は弁護士を代理人に立てて遺産分割調停に参加をすることをおすすめします。