相続税における事業承継についての特例
経営者が後継者に事業を引き継ぐ際、問題となるのは経営する法人の株式の承継です。後継者は安定した企業経営を行うために十分な株式を取得する必要がありますが、後継者には買取資金がないのが通常です。従って、経営者が後継者に株式を贈与する、又は後継者が相続により株式を取得することになりますが、これらの方法では多額の贈与税・相続税が発生して、承継を妨げることがありました。特例は、経営承継円滑化法及び税法により負担の軽減を図るために導入された制度です。「事業承継税制」、「金融支援」、「民法特例に係る認定」の3つがあります。
事業承継税制について
事業承継税制とは、後継者が、都道府県知事の認定を受けた非上場会社の株式等を先代経営者から相続又は贈与により取得した場合において、相続税、贈与税の納税が猶予される特例制度です。
相続税の納税猶予制度
- 相続、遺贈により後継者が納付すべき相続税のうち、相続により取得した非上場株式等に係る課税価額 の80%に対応する税額が納税猶予されます。
※相続前から後継者が既に保有していた議決権株式等を含め、発行済議決権株式総数の2/3に達するまでの部分に限ります。
贈与税の納税猶予制度
- 生前贈与により後継者が納付すべき贈与税のうち、贈与により取得した非上場株式等に係る課税価額の全額に対応する税額が納税猶予されます。
※贈与前から後継者が既に保有していた議決権株式等を含め、発行済議決権株式総数の2/3に達するまでの部分に限ります。贈与の納税猶予から相続への納税猶予の切替は申請が必要です。
<認定の会社の要件>
中小企業者であること、上場会社・風俗会社でないこと、従業員が1名以上いること、資産保有・運用会社に該当しないこと等
※平成25年度改正(平成27年1月施行)により親族外承継も対象化しました。
<後継者の主な要件>
【相】は相続税、【贈】は贈与税
- 相続開始時又は贈与時において、後継者と後継者の親族などで総議決権数の 過半数を保有し、かつこれらの者の中で筆頭株主であること。【相】【贈】
- 相続開始の直前において役員であり、相続開始から5ヶ月後に代表者であること。【相】
- 贈与時に20歳以上、贈与の直前において3年以上役員であり、かつ、 代表者であること。【贈】
<事業継続の主な要件>
- 相続税・贈与税の申告期限から5年間は、以下の要件で事業を継続が必要。【相】【贈】
①雇用の8割以上を5年間平均で維持
②後継者が代表を継続
③先代経営者が代表者を退任(有給役員として残留可【贈】)
④対象株式を継続して保有
⑤上場会社、資産管理会社、風俗関連事業を行う会社に該当しないこと 等
手続き上の留意点
①審査は都道府県 ⇒都道府県知事の認定、税務署へ申告
②【申告期限後5年間】県へ「年次報告書」を提出(1年に1回)⇒税務署へ「継続届出書」を提出
③【5年経過後】税務署へ「継続届出書」を提出(3年に1回)
金融支援について
先代経営者の死亡や退任が原因となって、承継及び事業に支障が生じている中小企業者に対し、都道府県知事が認定を行い、以下の金融支援措置を講じています。
(1)中小企業信用保険法の特例
認定を受けた中小事業者(会社及び個人事業者)の資金需要に対応します。中小企業信用保険法に規定されている保険枠と別枠化し、債務保証の枠を拡げることで金融機関からの資金調達が行いやすくします。
・株式や事業用資産の買い取り資金
・信用状態が低下している中小企業者の運転資金等を想定しています。
(2)株式会社日本政策金融公庫法及び沖縄振興開発金融公庫法の特例
代表者個人の資金需要に対応します。
・株式や事業用資産の買い取り資金、相続にかかる遺留分減殺請求への対応資金、相続税、贈与税の納税資金等
なお、特別に低い金利(特別利率)が適用されます。
※それぞれ審査があります。
民法特例に係る認定について
贈与については、親族内の遺留分権利者の全員が合意をすることにより、相続法における法律関係を合一的に確定させる「民法特例」の制度です。これによって、株式等の分散を防止し、後継者への円滑な集中を図るものになっています。
①除外合意(遺留分減殺請求の未然防止)
②固定合意(贈与株式の評価額を予め合意時に固定し後継者が株式価値上昇分を保持できる)
最後に
以上は平成29年度の法律、情報に基づいております。計画の立案と実行にあたっては、最新の情報の入手、事前準備と、税理士等専門家の助言を得て、迅速に進める必要があります。
事業承継に心配な方はまず一度相談してみることをお勧めします。納税額を少なくするためにできる対策は様々ありますので、将来必ず起こる相続のためにしっかりと対策をとり、次の世代に大切な資産を引き継げるよう準備をしましょう。
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