1.未成年者が相続人にいる場合
相続が起きた際に、未成年の人が相続人の一人となる場合もあるでしょう。相続が起きた後に発生する遺産相続では、相続人の全員が参加して遺産分割協議を行う必要があります。遺産分割協議で、遺産の分け方について話し合うのです。
一方で、遺産分割協議には未成年だと加わることができないとされています。未成年の場合、まだ判断能力が十分に備わっておらず、適切な法律行為ができないと考えられているからです。とはいえ、未成年だからといって相続ができないわけではありません。相続人の中に未成年がいる場合には、未成年の分は代理人が遺産分割協議に加わり、話し合いを行います。
今回は、未成年者が相続人に含まれている場合にどのような手続きが必要となるのかについてしっかりと見ていきましょう。
1-1.特別代理人が必要
未成年者が相続人にいる場合には、代理人が遺産分割協議に参加します。その代理人のことは、正式には特別代理人と呼びます。特別代理人というのは、家庭裁判所によって決められた手続きのために特別に選ばれる代理人です。
代理人には他に、法定代理人という種類もあります。法定代理人は、親権者や未成年後見人、成年後見人です。たとえば親権者であれば、未成年者に代わって財産上の行為を行うことができます。
特別代理人は法定代理人とは違い、一定の手続きの代理のみが可能です。したがって、決められた必要な手続きが完了した際に、役割も終えます。遺産相続の際の特別代理人の役割は、遺産分割協議での話し合いや、遺産分割協議書への署名と押印、預金の引き出し、相続登記などの手続きです。
相続人に未成年がいる場合で親権者が代理人となれない場合には、特別代理人を選び手続きを進めていきます。特別代理人を選ばないことには遺産相続の手続きが開始できませんので、早めに選ぶ必要があります。
特別代理人には、成人していて相続の当事者でなければなることができます。特別代理人になるのには弁護士や司法書士などの有資格者でなくても構いませんので、相続人でない親族者に依頼する場合もあります。ただし、任せられる人がいない場合には、弁護士や司法書士といった専門家に特別代理人を依頼するケースもありますので、必要なら専門家に頼ってください。
1-2.利益相反行為とは
未成年の相続人のために特別代理人を選ぶ際には、利益相反行為とならないように注意しなければなりません。未成年の人の代理人には親権者や未成年後見人が選ばれることが多い一方で、遺産分割協議や相続放棄という相続関係の手続きの際には法定代理人ではない特別代理人を選ばなければいけないケースがよく見られます。これがなぜかというと、親子の間で利益が相反することによって、未成年の人の利益・権利が侵害されないようにするためです。
相続人に未成年が含まれる際には、多くのケースで未成年の人の親権者も相続人となります。そのとき、親権者が未成年の相続人の代理人となると、子どもに十分に遺産を渡さずに自分の利益を大きくしようと動くおそれが出てきます。そのため、未成年を守るために、相続人は特別代理人になれないとされているのです。
また、相続人の中の未成年の人の数だけ、特別代理人を選ぶ必要があります。一人で複数の子どもの特別代理人になると、特定の子どもの利益だけが多くなるかもしれないためです。もしも相続が発生した際に未成年が相続人に含まれる場合には、未成年の人数と代理人について早めに確認したほうが良いでしょう。
1-3.特別代理人が必要となるケース
特別代理人が必要となるのは、相続人に未成年が含まれる場合と、成年被後見人が含まれる場合です。
1-3-1.未成年の場合
未成年の場合は親権者が特別代理人となるかを確認することが大切です。被相続人が夫で相続人が妻と未成年の子どもの場合には、親権者である妻も相続人となりますので、特別代理人にはなれません。
1-3-2.成年被後見人の場合
相続人に成年被後見人がいる場合にも、親権者同様に成年後見人が代理人となるケースが多いです。ただし、成年後見人も相続人に含まれている場合には、成年被後見人のために特別代理人を選ばなければなりません。
1-4.特別代理人になれる人
特別代理人になるために、何らかの資格は必要ありません。ですので、母や父がなれない場合には祖母や祖父がなることもあります。
家庭裁判所は特別代理人の選任については、未成年者本人との関係や利害関係の有無などの点を考慮したうえで適格かどうかが判断されるとしています。ちなみに、すでに述べたように弁護士や司法書士などの有資格者が特別代理人になることもありますが、ほとんどの場合には報酬が発生するので注意が必要です。
2.特別代理人選任の手続き
特別代理人の選任には手続きが必要です。家庭裁判所に必要書類を準備して申し立てる必要がありますが、申し立てが可能な人や、申立先の裁判所は決まっているので事前に確認しておきましょう。
2-1.特別代理人選任に必要な書類
特別代理人を選任するには、必要書類を集めなければなりません。ちなみに、申し立てるタイミングで特別代理人となる候補者をすでに決めておくことも必要です。
必要書類は、以下の通りです。
- 800円分の収入印紙を貼り付けた特別代理人選任申立書
- 未成年の相続人の戸籍謄本
- 申立人の戸籍謄本
- 特別代理人候補者の住民票か戸籍附票
- 遺産分割協議書の案のような利益相反についての資料
- 連絡用の郵便切手
遺産分割協議書の案を出さなければならないので、先に遺産分割についての案を考えてから特別代理人を選ぶことになります。そして特別代理人が選任されてから、正式な遺産分割協議を行うのです。ただし、家庭裁判所が必ず申し立てを受理するとは限りません。遺産分割の内容が未成年の相続人の利益を侵害しているような案である場合には受理されないこともあるのです。したがって、法定相続分の遺産は相続させるようにするのが理想的だと言えるでしょう。
2-2.申立先の裁判所
申し立てる裁判所はどこでも良いわけではありません。未成年者の住所を管轄している家庭裁判所に申し立てます。
2-3.申立人
申し立て可能な人にも条件があります。相続人となる未成年者の親権者や利害関係者です。
3.特別代理人が不要なケース
いくつかの場合では、特別代理人が不要となります。どのようなケースで不要となるのかも見ておきましょう。
3-1.遺言書の指定に従った場合
1つ目は、遺言書の指定に従った場合です。
遺言書で相続の割合が指定されているというような場合にはそれに従うことで、利益相反の心配がなくなるので、基本的には特別代理人を選定する必要がなくなります。
3-2.法定相続分に従って分割した場合
2つ目は、法定相続分に従って遺産を分割した場合です。
たとえば遺産分割協議をせずに不動産を法定相続分に従った持ち分で相続人全員の共有名義として登記するケースでは、特別代理人の選定が不要となります。
この場合も利益相反の心配がないためです。
3-3.相続放棄した場合
3つ目は、相続放棄した場合です。ただし、未成年が単独で相続放棄の手続はできず、代理人が手続きをしなければなりません。
その場合にも親子や兄弟姉妹の間での利益相反には注意が必要です。利益相反のおそれがある場合には、未成年の相続人に特別代理人を選定する必要が出てきます。
ちなみに、未成年者と親権者の両方が相続放棄をする場合にはどちらも遺産を受け取らず利益相反が起きないため、未成年者と親権者の両方が相続人のケースでも特別代理人を選ぶ必要はなくなります。
3-4.未成年者の親権者が相続人でない場合
4つ目は、未成年者の親権者が相続人ではない場合です。
未成年者の親権者が相続人でない場合は、法定代理人として手続きを行えるので特別代理人は必要なくなります。
ただし、未成年者一人につき親権者一人しか代理できない点には注意しておきましょう。
4.未成年者控除が受けられる
未成年が相続人となるときは、未成年者控除という制度を使うことができます。
4-1.未成年者控除とは
未成年者控除とは、相続税の税額控除の制度です。
未成年の人は所得がないケースが多く、成人するまでにも教育費のようなさまざまな負担があります。そのような負担を軽減するために、未成年者控除は存在しています。
4-2.未成年者控除の金額
未成年者控除の金額は、未成年の相続人が成人するまでの年数で以下のように計算します。
- 未成年者控除の金額=(18歳-未成年者が相続したときの年齢)×10万円
成人年齢が変わったため、相続の開始が令和4年3月31日以前の場合では「(20歳-相続したときの年齢)×10万円」で計算します。
たとえば、相続の開始が令和6年6月1日で、相続人が8歳だった場合の控除額を計算すると、「(18歳-8歳)×10万円=100万円」です。この金額を、相続税額から差し引けます。
4-3.未成年者控除の適用条件
未成年者控除を利用するためには、以下の適用条件を満たす必要があります。
- 取得した財産が相続または遺贈によるものであること
- 財産を取得した時に日本国内に住所があること
- 財産を取得した時点で18歳未満であること
- 財産を取得する未成年者が法定相続人であること
未成年者控除は、制度を利用する未成年者が相続または遺贈によって財産を取得することが条件となるので、未成年者が財産を一切相続しない場合には制度を使用することができません。一方で、相続する金額についてのルールはありませんので、少額であっても相続財産を得ることによって未成年者控除を活用することができます。
そして、未成年者控除を適用するには、相続開始時に日本国内に住所がなければ不可能です。したがって、海外に住んでいる場合には未成年者控除を利用できません。ただし、相続人が日本国籍を持っている場合や、被相続人か相続人のどちらかが相続開始の5年前以内に日本国内に住所を持っていた場合には未成年者控除を利用することができます。
また、18歳未満の相続人であれば、何歳でも未成年者控除の対象です。したがって、たとえ生まれてすぐの赤ちゃんだとしても、他の条件を満たしているのなら未成年者控除を適用できます。相続発生時に母親のお腹にすでにいる胎児も、生まれた後は相続人とされるので未成年者控除を適用することが可能です。
最後に、相続財産を取得して未成年者控除を使用する未成年者が法定相続人であることも条件のひとつです。法定相続人は、簡単にまとめると以下の表のようになります。
配偶者 | 常に相続人になる |
被相続人の子ども・孫 | 第1順位 |
被相続人の親・祖父母 | 第2順位 |
被相続人の兄弟姉妹や甥・姪 | 第3順位 |
表を見たときに、本人よりも優先順位の高い相続人がいる場合には、法定相続人にはなれません。また、被相続人の孫が法定相続人になれるケースは一部のみです。どのようなケースかと言うと、本来であれば相続人になる被相続人の子どもが亡くなっていて代襲相続が起こる場合と、孫が被相続人と養子縁組をしているケースのみとなります。
未成年者が相続する場合に相続税額が心配なときは、まずは未成年者控除の条件を満たしているのか確認してみてください。
4-4.未成年者の相続税から控除しきれない場合
もしも未成年者の相続税から控除しきれない場合には、残っている控除額は扶養義務者の相続税を控除するのに使うことが可能です。扶養義務者とは制度を使った未成年者の父母や祖父母、兄弟姉妹などです。
未成年者控除を使用する場合には、使い残しがないように注意しましょう。
5.まとめ
未成年者が相続人となる場合に知っておくべき特別代理人や未成年者控除について解説しました。
未成年者が相続人にいる場合には、特別代理人が遺産分割協議に参加しますが、利益相反については注意しなければなりません。特別代理人を選定する手続きの際には家庭裁判所への申し立てが必要となりますが、利益相反のおそれがあるとされると申し立てが受理されないおそれがあります。
また、未成年者が相続をする際には、未成年者控除という制度が使えることがあります。未成年者控除は一定の条件を満たすことによって、相続税額を抑えるために活用できます。未成年者の相続税から控除しきれない場合には、残っている控除額を扶養義務者の相続税額の控除に使えるので、ぜひ覚えておきましょう。
未成年者がいる場合には相続の手続きが複雑になりやすく時間がかかるので、相続税についても一層早めに考えることが重要です。
もしも不安なことがあるようでしたら、早めに専門家にご相談ください。