1.NISA口座を相続すると、税金はかかる?
相続についてのお悩みのひとつに、NISA口座を相続するとどうなるのかというものがあります。亡くなる前にNISA口座を開設していた人に相続が発生した場合、預金だけではなくNISA口座についても考えなければならなくなるので要注意です。
NISA口座ではさまざまな方法で資産運用できますが、NISA口座の名義人が死亡した場合にはNISA口座で保有していた投資商品も相続財産として考えます。したがって、NISA口座で扱っていたものも相続税の課税対象となるのです。
相続が発生したときには、NISA口座に含まれている投資商品の評価額を計算し、相続税を計算します。計算方法については後ほど詳しく解説しますので、ご安心ください。
1-1.NISAとは?
まずそもそも、NISAとはどういうものなのでしょうか。「名前は知っているけれど、実際にどういうものなのかはわからない」という方も少なくないでしょう。不意な相続によって初めてNISAという言葉を知る方も多いはずです。
NISAというのは、少額投資非課税制度を意味します。一定までの金額の投資であれば、ルールを満たすことによって利益が非課税となる制度です。この制度は2014年から開始されました。
ちなみに、名前の由来はイギリスのISA(Individual Savings Account)です。これは、個人貯蓄口座を意味します。イギリスのISAの日本版ISAとして、NISA(Nippon Individual Savings Account)という名前で呼ばれるようになったのです。
NISA外での投資では、通常、売却益や配当金には20.315%の税金が課されます。NISAを利用するだけで大きな節税効果が得られるので、気軽に始められる投資の方法として人気となっています。
ただし、すでに述べたように相続の際にはNISAで扱っていた投資商品も相続財産となるので気をつけなければなりません。
1-2.税制改正での変更点
NISAについては、税制改正によって変更点がありますので、お伝えします。
そもそもNISAは2024年から新しい制度になりました。これまでは一般NISAとつみたてNISAの2種類の投資方法があり、どちらかを選ばなければなりませんでしたが、2024年の新制度では1つにまとめられたのです。
新しいNISAでは、成長投資枠とつみたて投資枠という枠ができ、非課税になる金額も大きくなりました。それぞれの枠を併用できるので(最大1,800万円)、従来よりも自由度の高い投資ができるようになったのがポイントです。今まで以上に、幅広い方々が利用しやすい制度になったといえるでしょう。
新NISAの成長投資枠とつみたて投資枠について簡単に確認しておくと、成長投資枠は従来の一般NISAのような内容です。一括または積み立てで投資対象を購入することができ、1年間での投資可能枠は240万円です。非課税となる保有限度額は1,200万円で、一定条件をクリアした株式や投資信託、ETFなどさまざまな投資商品を扱うことができます。
一方でつみたて投資枠は、従来のつみたてNISAのような内容です。定期的に積み立てることによって投資ができ、1年間での投資可能枠は120万円です。非課税となる保有限度額は1,800万円と成長投資枠よりも多いのが特徴的です。ただし、つみたて投資枠では、長期投資や積立投資などに適していると判断された投資信託しか扱えないので、成長投資枠よりも選択肢は狭まります。とはいえ、選択肢が限られていることによって、投資初心者の方でも手軽に投資をスタートできるのが魅力的な投資枠となっています。
以上、NISAという制度そのものについて解説しました。制度について確認したところで、ここからはいよいよNISA口座の相続時の取り扱いについて解説していきます。
2.NISA口座の相続時の取り扱い
具体的に、NISA口座の相続時の取り扱いについて見ていきましょう。今回チェックするポイントは、以下の4つです。
- 相続人のNISA口座には移管できない
- NISA口座を引き継ぐ際の取得価額
- 相続発生時までの含み益は、非課税
- 相続が発生した後の配当金や分配金は課税の対象
これらのポイントを押さえることによって、NISA口座と相続についての知識が深まるはずです。それぞれについて順番に解説していきます。
2-1.相続人のNISA口座には移管できない
1つ目のポイントは、相続人のNISA口座には移管できないということです。
被相続人がNISA口座で投資を行っている場合、相続人も自分のNISA口座を持っていたとしてもそちらに中身を移すことはできません。被相続人のNISA口座から相続人のNISA口座に移管はできず、相続人の通常口座に移動させることになっています。
また、NISA口座の非課税期間は相続が発生した日までです。口座の名義人が存命の間は非課税で投資ができますが、相続が発生すると非課税は適用されなくなることを押さえておきましょう。
2-2.NISA口座を引き継ぐ際の取得価額
2つ目のポイントは、NISA口座を引き継ぐ際の取得価額についてです。
NISA口座と通常口座の違いとして知っておくべきなのが、取得価額の判断方法です。通常口座では相続が発生すると、被相続人が取得した日と取得価額をそのまま相続人が引き継ぎます。一方で、NISA口座の場合には取得日は相続が発生した日であり、取得価額は相続が発生した日の終値で判断するのです。被相続人の取得日と、相続発生日で取得価額は変わってきますので、気をつけるようにしましょう。
たとえば、Aさんが2022年5月1日にX社の株式を1株1,500円で100株購入し、Aさんが2023年10月1日に亡くなった場合について考えてみましょう。2023年10月1日のX社の終値が2,000円のとき、NISA口座の場合には、相続人が引き継ぐ価額は1株2,000円です。そうなると、売却の際には2,000円で100株を売ることになり、利益は出ません。したがって、税金も発生しません。
一方で、通常口座の場合には、相続人が引き継ぐ価格は2022年5月1日の1株1,500円です。相続をして株式を売却するとなると、2,000円から1,500円を差し引いた500円が1株あたりの利益となります。つまり、「1,500円×100株=150,000円」に対して、課税が行われます。
ちなみに、例では株価が上がっているケースですが、下がるケースもあります。下がるケースの場合では、NISA口座であれば、値下がり後の株価で引き継ぐことができ、株価上昇後に売却をすれば利益が発生します。そうなると、税金を納めることになる可能性もあるので、適切に計算して納税しましょう。
NISA口座を引き継ぐ際の取得価額や、株式の相続については計算を誤る方も多いので、少しでも不安があるようならプロの税理士に相談することをおすすめします。
※株式の計算方法についての詳細は、下記記事をご参照ください。
【株式を相続したら税金はいくらかかる?評価方式や計算方法を徹底解説】
https://www.zeirisi.co.jp/souzokuzei-keisan/kabushikisouzoku/
2-3.相続発生時までの含み益は、非課税
3つ目のポイントは、相続発生時までの含み益は、非課税であることについてです。NISA口座による非課税の制度は、名義人が存命中は続きます。したがって、相続が発生するまでの含み益がある場合には、税金は発生しません。
株式などを取得した際に150万円で、相続発生時に200万円の時価だった場合、50万円の含み益に税金は発生しませんので安心してください。相続が発生してからの部分で課税について考えていくことになります。
2-4.相続が発生した後の配当金や分配金は課税の対象
4つ目のポイントは、相続が発生した後の配当金や分配金は課税の対象ということについてです。相続発生時までの含み益は非課税ですが、相続が発生したあとの配当金は課税対象となります。配当金にかかる税率は20.315%ですので、予想以上に高額な納税が発生するかもしれないので注意してください。
相続税の計算は複雑なことも多いので、ご自身だけでの計算では計算を誤りやすいです。不安があるようなら、専門家への相談も検討してみてください。
3.NISA口座の相続時の流れ
最後に、NISA口座の相続時の流れについて詳しく見ていきましょう。NISA口座を相続することになった場合、以下の手順で進めていきます。
- 金融機関へ連絡をし、必要書類を取り寄せる
- 残高証明書を取得し、被相続人の保有銘柄を特定する
- 遺言書の有無を確認し、必要に応じて遺産分割協議を行う
- 必要書類を金融機関へ提出し、名義変更手続きを完了させる
これらの流れで相続は進みますが、より具体的にそれぞれの手続きについて解説します。事前に流れの全体像を理解し、安心して相続に臨んでください。
3-1.金融機関へ連絡をし、必要書類を取り寄せる
まずは、金融機関へ連絡をし、必要書類を取り寄せるところからスタートします。金融機関に必要書類を送ることによって名義変更の手続きができますので、まずは証券会社を特定して必要書類を請求するところからはじめなければならないのです。
細かな手続きについては証券会社によります。したがって、被相続人が生前利用していた証券会社を特定することが必要です。どの証券会社を使っていたのか見つけるためにはいくつかの方法がありますが、主な手段としては以下のようなものが挙げられます。
- 被相続人の家で証券会社から届いた書類を探す
- 被相続人のスマホやパソコンのメールを見る
- 証券保管振替機構に情報開示を依頼する
家のなかやスマホ、パソコンのなかに証券会社に関する情報がないかどうかを探すのが最初の方法です。よく探せばなんらかの情報は残っている事が多いので、まずは確認してみましょう。もしもなんの手がかりも見つからない場合でも、証券保管振替機構に情報開示してもらうことによって情報が得られるので安心してください。証券保管振替機構というのは、証券を保管している機関で必要書類を用意して送ることによって被相続人の取引情報が得られます。
3-2.残高証明書を取得し、被相続人の保有銘柄を特定する
次に、残高証明書を取得し、被相続人の保有銘柄を特定します。
証券会社がどこかだけでは、まだ情報として不十分です。どのような銘柄をどれくらい持っていたのかを特定する必要があります。
それによって、NISA口座から相続する財産の金額も算出できます。
3-3.遺言書の有無を確認し、必要に応じて遺産分割協議を行う
被相続人の保有銘柄を特定することができたら、遺言書の有無を確認し、必要に応じて遺産分割協議を行います。
遺言書がある場合は、遺産の分け方について規定がないかを確認します。遺言で分け方について決められていたら、その内容に則って分割することが多いです。遺言書に特に規定がない場合には、民法で定められている相続割合に応じて分けていきます。
一方で、相続人全員で遺産分割協議を行うことによって、遺言や法定相続分とは違う内容でも遺産を分けられます。遺産分割協議では、遺産をどのように分けるのか全員で話し合うことが重要です。相続人全員が合意しなければせっかく決めた内容も無効になりますので、先に相続人を特定し、話し合いの場を設けましょう。行方不明だからといってその人がいないままで手続きを進めると、遺産分割協議は無効になってしまいます。税金のことも考えて、全員が納得できるまで話し合うことが必要です。
3-4.必要書類を金融機関へ提出し、名義変更手続きを完了させる
最後に、必要書類を金融機関へ提出し、名義変更手続きを完了させます。遺言によって、または法定相続分や遺産分割協議によって決まった内容に従い、名義変更の手続きを行いましょう。
4.まとめ
今回はNISA口座を持っている被相続人の場合の相続について、知っておくべきことを解説しました。NISA口座の相続時の取り扱いには、相続人のNISA口座には移管できないことや、NISA口座を引き継ぐ際の取得価額が通常口座と異なること、相続発生時までに発生した含み益は非課税であること、相続後の配当金や分配金は課税の対象であることなど注意点がいろいろあります。
ややこしい部分もありますので、不安な場合には専門家に相談しながら手続きを進めていきましょう。