1.農地転用とは
農地転用とは、農地に使われている田や畑などを、別の用途に使える土地に変えることです。
農地転用ができる土地は、農地法では耕作の目的に供される土地だとされています。
つまり、登記上で田や畑になっていなくても、実際に耕作が行われているのであれば農地だと考えられるのです。
日本では、農地になっている場所を他の目的で勝手に使用することは認められていません。
自分の持っている土地をどのように使っても良いのではないかと思う方も多いかと思いますが、このルールは日本の農業生産を守るために作られた農地法によるものです。
農地を別の用途で使えるようにするには、決められた手続きを行うことが必要になります。
2.農地相続のメリット・デメリット
農地転用について知っても、すぐに活用のイメージがわく方ばかりではないでしょう。
ここで、農地を相続するメリットとデメリットを確認していきましょう。
農地を相続するメリットはいくつかありますが、代表的なものは以下の通りです。
- 農地を使い耕作ができる
- 農地を貸し出すことで収入が得られる
- 農地転用を行って収益が得られる
農地を相続すれば、そのままその土地で農業を行うことができます。
とはいえ、農業は簡単なことではなく、予想しているだけの利益が得られないケースも多いです。
場合によっては設備投資に費用がかかる場合や、継続することで維持費がかかる場合があるので、引き継いだ土地で耕作を行うのかは冷静に考えましょう。
一方で、農地を貸し出すことも可能です。
自分で農業をしないとしても、農業をしたい人が見つかれば農地を貸し出して収入を得ることができます。
近隣に農家がいるのであればその人に貸し出したり、市民農園のようなスタイルで市民に貸し出したり、さまざまな方法で賃料を得ることができるでしょう。
ただし、農地の貸し出しには市町村の農業委員会に申請手続きが必要です。
許可を受けなければ農地を貸し出してはならないと法律で決められているので、気をつけてください。
ちなみに、農林水産省の農地集積バンクも活用できます。
農地集積バンクは農地の所有者から農地を借り受けて、使用希望者に貸付を行っている管理機構です。
手数料はかかってしまうものの、自分で借り手を探せないときには便利です。
自治体やJAに聞けば、詳しく教えてもらえるでしょう。
最後に、農地転用による収益化のメリットです。
農地を別の目的で使えるように転用することで、収益が得られることがあります。
たとえば、住宅を建てて貸し出しを行うことや、車のパーキングを作ることなど多くの収益化のパターンがあるでしょう。
農地は農業従事者以外が買うのは制約があるので、農地転用をして幅広い目的で利用できるようにしたほうが後悔しないケースは十分に考えられます。
逆に、農地を相続するデメリットも確認しておいてください。
代表的なデメリットは、以下の通りです。
- 初期費用や維持費がかかる
- 管理についての負担が増える
- 価値が下がることがある
- 予想通りに収益化できないことがある
農地を相続すると、土地を所有することによる固定資産税や都市計画税を納税しなければならなくなります。
さらに農地は維持管理にも費用がかかるので要注意です。
維持の内容としては、たとえば害虫駆除や、雑草の手入れなどが挙げられます。
自分で行うのが難しい場合には代行業者に依頼することも可能ですが、維持費が高額になりやすいので注意してください。
農地を相続すると、管理についての負担も増えます。
金銭的な負担だけではなく、時間や労力についての負担もあるので注意しなければなりません。
たとえば農地であれば、水路のメンテナンスや草刈りなどの定期的な管理や、何かトラブルが起きたときの補修などいろいろなことが必要になってきます。
もしも会社勤めなど本業が別にある場合には、大きな負担になりかねません。
しかし、農地を放置していると鳥獣被害が発生し、近隣の農地にも悪影響が発生する可能性が高くなります。
地価が高いエリアの農地を相続したとしても、今後その地価がキープされるとは限りません。
地価は周囲の開発状況や、経済状況といった多くの要素で変わるものです。
土地を相続したものの、地価が大幅に減少して後悔するというケースは十分に考えられます。
農地を転用して収益化を狙う場合も、必ず利益が出るとは言えません。
せっかく農地転用して事業化しても、失敗して赤字になることはあり得ます。
収益化を狙う場合は、入念に検討・準備を行うことが必要です。
以上のように、メリットもデメリットも存在しています。
デメリットのほうが気になる場合は、農地を相続したくなくなるかもしれません。
その場合にどうすれば良いのか、続けて見ていきましょう。
3.農地を相続したくない場合
農業をすることのない人が農地を相続した場合には、農地を相続してそのまま所有し続けていても負担が生じるだけでもったいないです。農地を相続したくない場合には、いくつかやれることがあります。ここでは、3つの方法を見ていきましょう。
3-1.農地のまま売却する
1つ目の方法は、農地のままで売却してしまうことです。ただし、この方法は簡単ではありません。なぜなら、農地を売るときには農地として使ってくれる人に売らなければならないためです。農業をする人の知り合いが少ない場合には、買い手がスムーズに見つからないことも十分に考えられます。そのようなときは、農地の売買に強い業者に相談するという手段もあるでしょう。
3-2.相続放棄をする
2つ目の方法は、相続放棄をすることです。相続放棄というのは、被相続人(亡くなった人)の財産について、相続権をすべて放棄することを意味します。したがって、プラスの財産もマイナスの財産も引き継ぐことはありません。相続放棄は裁判所に必要書類を出して手続きすれば行うことができます。
相続してしまうと管理ができなくて困りそうなくらい遠方にある農地の場合や、ほかに相続したいと思える遺産がない場合には、相続放棄もひとつの選択肢です。農地だけを相続放棄することは許されず、すべての遺産が引き継げなくなることさえ問題なければ検討してみてください。ただし、相続放棄したとしても農地の管理義務が継続することがあります。たとえば、すべての相続人が相続放棄をした場合でも、最後に相続放棄した人が管理をしなければなりません。
誰も相続しなかった農地は相続人がいない財産ということになり、国庫に帰属します。ただ、国庫にはすぐに帰属するわけではなく、手続きに1年はかかってしまうのが基本となるので、それまでは元相続人が相続財産管理人に費用を支払わなければなりません。相続財産管理人は、家庭裁判所によって選出されます。
3-3.農地転用をする
農地を売却しようにも農地として使ってくれる人が見つからず、引き継ぎたい財産があって相続放棄はしたくない場合には、農地転用を考えてみましょう。農地を農地以外に転用することで、農業をする人以外にも売ることができるようになり、買い手の幅が広がります。また、農地転用して収益化すれば、そのままでも利益につながるでしょう。
ただ、農地転用には手続きが必要です。農地転用ができる土地は限られるので注意してください。詳しく解説します。
4.農地転用ができる土地は限られる
農地転用したくても、転用できない土地が存在します。ご自身の農地が必ず転用できるとは限りません。農地転用ができる土地とできない土地について見ておきましょう。
4-1.農地転用ができる土地
農地転用ができるのは、以下の農地です。
- 第2種農地
- 第3種農地
第2種農地は、生産力が低く、市街地の近郊にあって発展が期待できる農地です。条件を満たすことで転用が認められます。
第3種農地は、公共の施設や公益的な施設が周辺に整っており、市街地になる傾向がある農地です。こちらは条件なしで転用することができます。都道府県によっても細かな条件がつけられていることがあるので、興味があるなら確認してみてください。
4-2.農地転用ができない土地
農地転用ができないのは、以下の土地です。
- 第1種農地
- 農用地区域内用地
- 甲種農地
第1種農地は、生産直の高い農地です。10ha以上の集団のうちなどがあたります。農用地区域内用地は、市町村が定める農業振興地域整備計画に基づいて農用地区域と決められている農地です。そして甲種農地は、市街化調整区域内の土地改良事業が8年以内に行われた農地を指します。
5.農地転用に係る費用
農地転用の際には、転用前と転用後で費用がかかります。転用前には、申請のための手続きに費用がかかります。申請自体は無料で行えるものの、書類を準備するために専門家に依頼することで費用がかかるのです。届出の場合は10,000円〜100,000円程度、許可の場合は100,000円〜160,000円程度が相場となっています。また、所属している土地改良区への地区域除外決済金も発生しますが、金額は地域によるので確認が必要です。
そして転用後にかかる費用は、どのように転用するのかで異なります。ここでは農地を宅地にする際に必要となる、宅地造成工事費用や税金、登記費用を見ておきましょう。宅地造成工事費用は、地盤を安定させる作業をする費用です。費用は造成業者によって変わります。
また、たとえば農地から宅地に変更すると、課税の際の評価方法が変わって固定資産税が上がります。翌年に納める税金が増えることに注意が必要です。そして宅地に転用すると登記を変えなければなりません。自分で登記をするなら数百円で可能ですが、専門家に依頼するとさらに費用が発生します。
6.農地転用の手続き
農地転用を行うには、手続きをする必要があります。どのような手続きが必要なのかや、所要時間、必要書類についても見ておきましょう。
6-1.手続きの流れ
農地転用をするには、2つの方法があります。1つ目は農業委員会への届け出、2つ目は都道府県からの許可です。届け出の場合は、管轄の農業委員会に届け出をしましょう。許可の場合は、農業委員会経由で都道府県に申請が送られます。
6-2.転用までにかかる時間
届け出を出してから返事が返ってくるまでには1週間〜2週間程度かかることが多いです。2週間は見ておくと安心だといえます。そして、許可の場合は、締切のタイミングから1ヶ月半程度で結果がわかるでしょう。
市街化区域の農地転用の届け出なら2週間以内に受理通知が受け取れることがほとんどです。それ以外の場合は、許可されるまでに2ヶ月程度は見ておくべきでしょう。場合によっては1年程度かかることもあるので、農地転用したいなら早めに行動していくことが大切です。
6-3.必要書類
農地転用の際の必要書類は、場合によって異なります。基本的には、以下の書類に追加書類が発生すると考えておきましょう。
- 農地の登記簿謄本(登記事項証明書)
- 農地の公図
- 農地の図面
このほかに、たとえば農地転用して住宅を建てるなら、建てる住宅の図面が必要になるでしょう。
7.農地転用の注意点
農地転用の際には知っておくべき注意点があります。最後にどのようなことに注意すべきか見ておきましょう。
7-1.固定資産税が上昇する
1つ目の注意点は、固定資産税が上昇することです。すでにお伝えしましたが、農地転用をすることで課税の際の評価方法が変わります。それによって固定資産税が変化するので注意してください。
7-2.売却した場合には譲渡所得税がかかる
2つ目の注意点は、売却することを選んだ場合には譲渡所得税がかかることです。不動産を売却すると、利益に対して譲渡所得税が発生します。
譲渡所得税は
「(譲渡所得 – 特別控除額) × 税率」 |
で計算可能です。
税率は売る不動産の所有年数で変わり、5年以下なら短期譲渡所得で39.63%、5年を超えるなら長期譲渡所得で20.315%です。ちなみに、2037年までは復興特別所得税が含まれるので、含んだ税率となります。
7-3.農地の納税猶予を受けていた場合に相続税と利子税がかかる
3つ目の注意点は、農地の納税猶予を受けていた場合には、相続税と利子税がかかることです。農地の納税猶予の特例を使えば、条件を満たすことで相続税の納税を猶予できます。しかし、農地を譲渡したり農業をやめたりといったときには猶予されていた相続税を加算税と一緒に納税しなければなりません。
まとめ
農地転用というのは、農地に使われている田や畑などを、別の用途に使える土地に変えることです。農業をする予定がないものの、農地を相続することになりそうなときは、メリットとデメリットを比較しながら自分に合った選択肢を検討してください。また、農地転用には注意点もあるので、事前に確認しておきましょう。農地転用については考えることが多いので、不安なら専門家に相談することもおすすめです。